相続登記とは何か――「所有者不明土地」問題と義務化の背景

相続登記とは、土地や建物の所有者がお亡くなりになったときに、その不動産の名義――登記簿上の所有者――を、亡くなった方(被相続人)から相続人へと変更する手続きでございます。法務局(登記所)に申請して行います。

長らく相続登記は「任意」の手続きでした。やってもやらなくても罰則はなく、戸籍の収集や費用の負担といった手間もあって、放置されるケースが少なくありませんでした。その結果、深刻な社会問題となったのが「所有者不明土地」でございます。登記簿を見ても所有者が分からない、あるいは分かっても転居等で連絡がつかない土地が全国に広がり、その面積は国土の約24%――九州本島よりも広いとされます。所有者不明土地は、公共事業や災害復興、土地の取引・活用の大きな妨げとなってまいりました。

この問題を解消するため、令和3年(2021年)に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、不動産登記法が改正されました。これにより、これまで任意だった相続登記が法律上の「義務」となったのでございます。あわせて、相続した土地を手放して国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」など、所有者不明土地を生み出さないための制度が一体的に整備されました。

[本記事の位置づけについて]
本記事は、相続登記の「義務化」のルールに絞って解説いたします。手続きの前提となる相続人の確定や、遺言がない場合の遺産分割協議については「法定相続人とは誰のこと、順位と範囲を図解」「遺産分割協議書の書き方、実印・必要書類・無効になる落とし穴」で詳しく扱っておりますので、あわせてご覧くださいませ。

いつから・誰が・いつまで――3年以内の申請義務(不動産登記法第76条の2)

相続登記の申請義務化は、令和6年(2024年)4月1日からスタートいたしました。誰に、いつまでの義務がかかるのか――もっとも基本となるルールが、不動産登記法第76条の2第1項でございます。

相続登記の申請期限
= 不動産(所有権)を取得したことを
知った日から 3年以内
根拠:不動産登記法第76条の2第1項(相続・遺贈による所有権の移転の登記の申請義務)

正確には、「自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったこと)を知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日」が起算点です。ここで大切なのは、期限の起算点が「相続が発生した日(被相続人の死亡日)」ではないという点でございます。たとえば、遠方の親族が亡くなり、後になって自分が不動産を相続したと知った場合は、その「知った日」から3年を数えます。

遺産分割が成立した場合は、別途その日から3年以内

相続人どうしの話し合い(遺産分割協議)によって不動産を取得した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に応じた相続登記をする必要があります(第76条の2第2項)。整理すると、義務には次の二段階があるとお考えください。

場面申請期限の起算点
遺言書で
不動産を取得した
相続の開始と、自分がその不動産を取得したことを知った日から3年以内
法定相続分の
とおりに登記する
相続の開始と、不動産を取得したことを知った日から3年以内
遺産分割協議で
不動産を取得した
遺産分割が成立した日から3年以内(その内容に応じた登記をする)

「死亡日から3年」と勘違いしないこと

よくある誤解が、「亡くなってから3年」と数えてしまうことでございます。正しくは「相続と不動産取得を知った日」から3年であり、遺産分割で取得したなら「遺産分割が成立した日」から3年です。多くのご家庭では相続の開始をすぐに知るため結果的に「死亡日に近い日」が起算点になりますが、起算点の考え方そのものを正しく押さえておくことが、期限管理の出発点でございます。

過去に発生した相続も対象――2027年3月31日という期限

「義務化されたのは2024年4月から。だから、それより前の相続は関係ない」――こうお考えの方が大変多いのですが、これは誤りでございます。施行日より前に発生していた相続でも、相続登記が済んでいない不動産はすべて義務化の対象です。何年前、何十年前の相続であっても変わりません。

過去分の期限:施行日と「知った日」のいずれか遅い日から3年

もっとも、過去分にいきなり義務を課すのは酷であるため、経過措置(猶予期間)が設けられています。過去に発生した相続の申請期限は、次のいずれか遅い日から3年以内です。

① 改正法の施行日(2024年4月1日
② 不動産の所有権を取得したことを知った日
 → ①と②の「いずれか遅い日」から3年以内に申請
根拠:民法等一部改正法 附則第5条第6項

施行日より前に、すでにご自身が不動産を相続したと分かっていたケースでは、起算点は施行日(2024年4月1日)となります。したがって、その3年後にあたる令和9年(2027年)3月31日が、過去分の相続登記の実質的な期限でございます。法務省も「2024年4月1日より前に相続したことを知った不動産は、令和9年3月31日までに相続登記をする必要がある」と明示しています。

「祖父名義のまま」のご実家は、特に要注意

登記簿を取り寄せてみたら、名義が今は亡きお祖父様・お祖母様のまま――いわゆる数次相続(相続が二重三重に重なった状態)は、まさにこの過去分の典型でございます。放置していた期間が長いほど相続人の数は増え、手続きは難しくなります。期限である2027年3月31日を待たず、できるだけ早く着手されることをお勧めいたします。

申請を怠るとどうなる――10万円以下の過料(第164条第1項)

正当な理由がないのに相続登記の申請を怠った場合、10万円以下の過料に処せられる可能性があります(不動産登記法第164条第1項)。「過料」は行政上の秩序罰であり、刑事罰ではないため前科はつきませんが、不本意な金銭的負担であることに変わりはございません。

いきなり過料になるわけではない

誤解されがちですが、期限を1日過ぎた瞬間に過料が科されるわけではございません。実際には、登記官が申請義務違反を把握した場合、相続人に対して相当の期間を定めて登記を申請するよう催告し、その期間内になお申請がされないときに、裁判所へ過料事件として通知する――という流れをたどります。催告に応じて登記をすれば、過料の対象とはなりません。

「正当な理由」が認められる例

「正当な理由」があれば過料の対象とはなりません。法務省は、たとえば次のようなケースを正当な理由の例として挙げています。

[「忙しい」「面倒」は理由にならない]
正当な理由は、あくまで上記のような例外的・やむを得ない事情を指します。「仕事が忙しい」「手続きが面倒」「費用がもったいない」といった事情では認められません。事情があって期限に間に合いそうにないときは、放置せず、次章でご説明する相続人申告登記を活用するのが安全な選択でございます。

遺産分割がまとまらないとき――「相続人申告登記」という選択肢

3年という期限はあっても、相続人どうしの遺産分割協議が思うようにまとまらないことは現実に多くございます。そうした方が期限内に義務を果たせるよう、義務化と同時に新設されたのが「相続人申告登記」という制度です(不動産登記法第76条の3)。

相続人申告登記のしくみ

登記名義人について相続が開始したこと、そして自分がその相続人であることを、期限内(3年以内)に登記官へ申し出る手続きでございます。申し出を受けた登記官は、所要の審査をしたうえで、申出人の氏名・住所を職権で登記簿に付記します。これにより、申し出をした相続人については、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます(第76条の3第1項・第2項)。

相続人申告登記のメリット

相続人申告登記は「一時的な措置」――3つの注意点

便利な制度ですが、あくまで義務をいったん果たすための簡易な手続きであり、次の点に注意が必要でございます。

権利関係を公示するものではありません。「誰がその不動産を所有しているか」は登記されないため、相続した不動産の売却や抵当権の設定はできません。最終的には正式な相続登記が必要です。

申し出をした相続人についてのみ、義務を履行したとみなされます。相続人全員の義務を果たすには、原則として相続人それぞれが申し出る必要があります(連名での申出も可能)。

③ その後に遺産分割が成立したら、その成立日から3年以内に正式な相続登記をしなければなりません。この遺産分割後の登記義務は、相続人申告登記では履行できません(第76条の3第2項括弧書)。

相続登記の手続きの流れと必要書類

では、実際の相続登記はどのような流れで進めるのでしょうか。遺言書がなく、遺産分割協議によって不動産を取得するケースを例に、大まかな流れを整理いたします。

  1. 遺言書の有無を確認する 遺言書があれば、その内容に従って登記します。自筆証書遺言は家庭裁判所の検認、または法務局の保管制度の利用状況も確認します。
  2. 相続人を確定する 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍をたどり、相続人が誰であるかを漏れなく確定します。
  3. 対象の不動産を調査する 登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、市区町村の「名寄帳」などで、被相続人名義の不動産をすべて洗い出します。
  4. 遺産分割協議を行い、協議書を作成する 相続人全員で誰がどの不動産を取得するかを話し合い、遺産分割協議書にまとめ、全員が実印で押印します。
  5. 必要書類を揃え、法務局へ申請する 対象不動産を管轄する法務局に、登記申請書と添付書類を提出します。窓口・郵送・オンラインのいずれも可能です。

必要書類の一例(遺産分割協議による相続登記)

書類主な内容・取得先
被相続人の戸籍一式出生から死亡までの連続した戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(本籍地の市区町村)
被相続人の住民票の除票登記簿上の住所と被相続人の同一性を確認するため(または戸籍の附票)
相続人全員の戸籍謄抄本相続人が現在も生存していることの確認
不動産を取得する人の住民票新しい登記名義人となる相続人の住所証明
相続人全員の印鑑証明書遺産分割協議書に押した実印の証明
遺産分割協議書相続人全員が署名・実印で押印したもの
固定資産評価証明書登録免許税の計算に使用(または固定資産税の課税明細書)
登記申請書法務局の様式に従って作成
[戸籍集めの負担を軽くする「法定相続情報証明制度」]
被相続人の戸籍一式と相続人の関係をまとめた図(法定相続情報一覧図)を一度法務局に提出すると、その「一覧図の写し」が無料で交付されます。以後は、相続登記はもちろん、預貯金の解約や相続税の申告など各種手続きで、分厚い戸籍の束の代わりに一覧図の写し1枚を使えるため、手続きが大きく楽になります。

登録免許税の計算

相続登記を申請する際には、登録免許税という税金がかかります。相続による所有権移転登記の税率は次のとおりです。

登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%
税率は1,000分の4。評価額100万円以下の土地など、一定の場合には免税措置の対象となることがあります

たとえば固定資産税評価額が1,500万円の不動産であれば、登録免許税は1,500万円×0.4%=6万円です。なお、評価額の低い土地に対する免税措置は期限付きの制度であり、適用の可否は法務局や専門家にご確認くださいませ。

2026年スタート――住所変更登記の義務化と所有不動産記録証明制度

所有者不明土地を生み出さないための制度改正は、相続登記の義務化だけではございません。本記事公開時点(2026年5月)で、すでに次の2つの制度も始まっています。

住所・氏名変更登記の義務化(2026年4月1日施行)

不動産の登記名義人は、引っ越しや結婚などで住所・氏名等が変わったとき、その変更があった日から2年以内に変更登記を申請する義務を負うことになりました(不動産登記法第76条の5)。正当な理由なく怠った場合は5万円以下の過料の対象です(第164条第2項)。施行日前にすでに住所等を変更していた場合も対象で、令和10年(2028年)3月31日までに登記が必要とされています。

あわせて「スマート変更登記」も始まりました。あらかじめ法務局に検索用情報(生年月日等)を申し出ておけば、引っ越しのたびに申請しなくても、登記官が職権で住所等の変更登記を行ってくれる仕組みでございます。

所有不動産記録証明制度(2026年2月3日運用開始)

特定の人が全国に所有する不動産を一覧化し、証明書として交付する「所有不動産記録証明制度」も始まりました。相続の場面では、相続人が被相続人名義の不動産を一覧で把握できるため、「先祖代々の山林や私道を見落としていた」といった登記漏れの防止に役立ちます。

[自分・家族の不動産を「棚卸し」しやすくなった]
これらの制度により、「自分が今どの不動産を持っているか」「亡くなった家族が何を持っていたか」を確認しやすくなりました。相続が起きてから慌てないためにも、ご健在のうちにご自身名義の不動産を一度整理しておかれることをお勧めいたします。

相続登記をめぐる6つの落とし穴

当センターのご相談現場で、相続登記の義務化をめぐって実際によく見かける誤解と失敗を、6つに整理いたしました。

  1. 「うちは古い相続だから関係ない」と思い込む 義務化は2024年4月1日より前に発生した相続も対象です。何十年も名義変更をしていない不動産も含め、過去分は令和9年(2027年)3月31日が実質的な期限でございます。
  2. 期限の起算点を「死亡日」と誤解する 3年の起算点は「相続と不動産取得を知った日」、遺産分割で取得した場合は「遺産分割が成立した日」です。起算点を取り違えると、期限の見込みを誤ります。
  3. 数次相続を放置してしまう 祖父名義のまま、父名義のまま――と相続登記を先送りすると、相続人が雪だるま式に増え、全員の協力を得ることが極めて困難になります。早期の着手こそが最大の対策でございます。
  4. 相続人申告登記で「すべて完了」と思い込む 相続人申告登記は義務をいったん果たすための一時的な措置です。遺産分割が成立したら正式な相続登記が別途必要であり、不動産の売却もできません。申し出をしていない相続人の義務も果たされません。
  5. 評価額の低い土地・私道・山林を見落とす 宅地だけでなく、私道の持分、農地、山林なども相続登記の対象です。市区町村の名寄帳や所有不動産記録証明制度を使い、対象不動産を漏れなく確認することが肝心でございます。
  6. すべて自分でやろうとして手続きが止まる 戸籍の収集が膨大になったり、相続関係が複雑だったりすると、ご自身だけでは手続きが進まないことが少なくありません。難しいと感じた段階で、早めに司法書士などの専門家にご相談ください。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「父の実家を相続登記しようとしたら、名義が祖父のままだった」

60代男性Tさんからのご相談でございました。お父様が亡くなられ、地方にあるご実家の土地・建物を相続することになったTさんは、「義務化されたと聞いたし、早めに名義変更しておこう」と登記事項証明書を取り寄せました。ところが、登記簿上の所有者の欄にあったのは、お父様ではなく、数十年前に亡くなった祖父の名前。お父様の代で相続登記がされておらず、数次相続の状態になっていたのでございます。

祖父の相続人を戸籍でたどっていくと、お父様のご兄弟、その子(Tさんのいとこ)まで含めて関係者は十数名に及びました。すでに亡くなってさらに相続が発生している方、遠方にお住まいで一度も会ったことのない方もいらっしゃいました。「実家1軒の名義変更のはずが、これほど大ごとになるとは」とTさんは大変驚かれていました。

当センターでは、提携司法書士と連携し、まず祖父の代とお父様の代、二つの相続を整理するところから着手いたしました。相続人の確定と連絡、遺産分割協議の調整には数か月を要しましたが、無事に祖父名義からTさん名義までの登記を完了することができました。Tさんには「父が元気なうちに登記していれば、これほど複雑にはならなかった」と振り返っていただきました。相続登記の先送りは、次の世代に負担を引き継ぐことに直結する――その典型例でございます。

― 私たちから一言 ―

「相続登記は『いつかやる手続き』から『期限のある義務』になりました」

2024年4月の義務化によって、相続登記は「気が向いたらやればよい手続き」ではなくなりました。しかし私たちが現場で繰り返し感じるのは、先送りの本当のリスクは10万円の過料ではない、ということです。最大のリスクは、Tさんの事例のように相続人の数が世代をまたいで膨れ上がり、いつしか誰にも手がつけられなくなることでございます。相続人が増えれば、全員の連絡先を調べ、協議をまとめるだけで多大な労力と費用がかかり、ときには裁判所の手続きが必要になることもあります。

だからこそ、お伝えしたいのは「迷ったら、まず登記簿を取り寄せて現状を確認してください」ということです。名義が誰のままになっているかが分かれば、やるべきことの大きさが見えてまいります。3年以内に遺産分割がまとまりそうになければ、相続人申告登記という安全弁もございます。当センターでは、提携司法書士・税理士と連携し、登記簿・戸籍の確認から、相続人の調査、遺産分割協議のサポート、相続登記・相続人申告登記の申請、相続税が関わる場合の申告まで、ワンストップでお手伝いしております。「実家の名義はどうなっているのだろう」――その小さな不安を感じた今こそ、ご相談のタイミングでございます。お電話一本、LINEで結構です。どうぞお気軽にお声がけくださいませ。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 相続登記とは、亡くなった方の不動産の名義を相続人へ変更する手続き。「所有者不明土地」問題の解消を目的に、2024年4月1日から義務化された。
  • 相続により不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある(不動産登記法第76条の2第1項)。
  • 遺産分割協議で不動産を取得した場合は、別途、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に応じた登記が必要。
  • 2024年4月1日より前に発生した相続も義務化の対象。過去分の実質的な期限は令和9年(2027年)3月31日。
  • 正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料の対象(第164条第1項)。ただし、いきなり科されるのではなく、登記官の催告という段階を経る。
  • 3年以内に遺産分割がまとまらないときは「相続人申告登記」で義務を履行できる。単独で申出でき、登録免許税は非課税、添付書類も簡易。
  • 相続人申告登記は一時的な措置。権利を公示せず売却もできない。遺産分割成立後はその日から3年以内に正式な相続登記が必要。
  • 2026年からは住所・氏名変更登記の義務化(2年以内・5万円以下の過料)、所有不動産記録証明制度も始まっている。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。実際のお手続きにあたっては、必ず司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の内容は2026年5月時点の法令・制度に基づきます。最新の制度改正により取扱いが変わる場合がございますので、ご利用の際は最新情報をご確認ください。

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