国際相続とは――複数国にまたがる相続の基本的な考え方

国際相続とは、相続に複数の国の法律・税制が関係してくる状況を指します。具体的には、次のようなケースが代表的です。

国内相続であれば、日本の民法と相続税法だけを考えれば足りますが、国際相続では「どの国の法律で相続するか(準拠法)」「どの国で・どの範囲の財産に相続税が課されるか」という二つの問いに答えなければなりません。さらに、現地での手続き(たとえば英米法系国でのプロベート)が必要になる場合もあります。

国際相続の三大テーマ
① 準拠法(どの国の民法で相続するか) ② 課税範囲(日本の相続税をどこまで課されるか) ③ 現地手続き(プロベート等の現地法に基づく手続き)

これらは互いに独立した問題であり、たとえば「準拠法は日本法」でも「現地での手続きが必要」というケースはよくあります。個別の事情によって適用ルールが大きく変わるため、本記事はあくまで全体像の把握を目的とし、具体的な判断は必ず専門家・国税庁にご確認ください

準拠法の決まり方――法の適用に関する通則法36条

「相続する財産をどの国の法律(民法)に従って分けるか」を決めるのが準拠法の問題です。日本では、「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)第36条が、この準拠法の決定基準を定めています。

法の適用に関する通則法 第36条(相続)

相続は、被相続人の本国法による。

つまり、亡くなった方の国籍がある国の法律が、原則として相続の準拠法となります。日本国籍の方が亡くなった場合は日本の民法が適用されます。外国籍の方が亡くなった場合は、その方の母国の法律が原則的な準拠法となります。

反致(はんち)とは

準拠法の問題には「反致(はんち)」という概念も存在します。外国の法律が「相続は被相続人の住所地国の法律による」と定めていて、その住所地が日本だった場合、結果として日本法が適用される――という形で、準拠法が変わるケースがあります(法の適用に関する通則法41条)。外国法が適用される可能性のあるケースでは、その外国法の内容や反致の成否も含めて確認が必要です。具体的な判断は、国際私法を専門とする弁護士にご相談ください。

遺言書の方式と準拠法

遺言書がある場合も、その方式(自筆証書か公正証書か等)についての準拠法は、相続の準拠法とは別の条約・規定が適用されます。日本は「遺言の方式の準拠法に関する法律」によりハーグ条約の趣旨を採り入れており、遺言書作成地国の法律など複数の選択肢で方式の有効性が判断されます。海外で作成した遺言書を日本で使う場合や、その逆の場合は、有効性の確認が必要です。

相続統一主義と相続分割主義――不動産は所在地国のルールが優先されることも

準拠法が決まったとしても、すべての財産に同一の法律が一律に適用されるとは限りません。各国の相続法には、相続統一主義相続分割主義という考え方の違いがあります。

考え方 内容 採用している国・地域の例
相続統一主義 すべての財産(不動産を含む)を被相続人の本国法(人的属人法)で一括して処理する考え方。財産の所在地に関係なく、一つの法律で完結する。 日本・フランス・ドイツなど
相続分割主義 不動産は財産の所在地国の法律(物権の規律に従う)、動産は被相続人の住所地国の法律、という形で財産の種類・所在地ごとに別々の法律を適用する考え方。 アメリカ・イギリス・カナダなど英米法系諸国

たとえば、日本国籍の方がアメリカに不動産を持って亡くなった場合を考えます。日本の通則法36条によれば準拠法は日本法(統一主義)ですが、アメリカは相続分割主義を採るため、アメリカ所在の不動産についてはアメリカ法が適用されるという状況が生まれます。結果として、同じ相続で「日本の民法」と「アメリカの州法」の両方を参照しなければならないケースが実際に発生します。

[どちらの法律が「勝つか」は個別に判断が必要]
どの国の法律が最終的に適用されるかは、関係する国・財産の種類・遺言の有無などによって異なります。「日本法で処理できると思ったら、現地国の法律が必要だった」というケースは少なくありません。必ず現地の弁護士と日本の弁護士が連携して確認することをおすすめいたします。

日本の相続税における納税義務者の区分と課税範囲

準拠法(民法上の相続の問題)と並んで、国際相続で必ず確認しなければならないのが日本の相続税の課税範囲です。誰がどの財産に日本の相続税を払うかは、相続人・被相続人の住所・国籍などによって決まります。

相続税法上、相続人等は大きく次の区分に分類され、それぞれ課税される財産の範囲が異なります。

区分 対象となる方の状況(概要) 課税される財産の範囲
居住無制限納税義務者 相続開始時に日本国内に住所がある相続人 国内外を問わずすべての財産
非居住無制限納税義務者 相続開始時に国外に住所があるが、一定の要件(10年以内の国内居住、または日本国籍保有等)を満たす相続人・被相続人 国内外を問わずすべての財産
制限納税義務者 上記のいずれにも当たらない者(非居住で一定要件を満たさない) 日本国内の財産のみ

区分の判定には、相続人と被相続人それぞれの住所・国籍・過去の居住歴が複合的に関係します。詳細な要件は相続税法第1条の3・第1条の4に規定されており、具体的な自身の区分については必ず国税庁または税理士にご確認ください

10年ルール――過去の居住歴が課税範囲を左右する

国際相続の税務で特に重要なのが、いわゆる「10年ルール」です。これは、過去の日本への居住歴が、課税範囲(全世界財産か国内財産のみか)に大きく影響するというルールです。

10年ルールの核心

相続開始前10年以内に日本国内に住所があったかどうかが、相続人・被相続人の双方について問われます。この期間内に国内に住所があれば、現在は海外在住であっても、全世界の財産が日本の相続税の課税対象となる可能性があります。

たとえば、日本国籍を持つ方が5年前まで日本に居住し、その後海外に移住して亡くなったとします。この場合、相続開始前10年以内に日本に住所があったとみなされ、海外の財産も含め全世界財産が相続税の課税対象となり得ます。逆に、10年を超えて海外に居住し、かつ相続人も国外在住・非日本国籍であれば、日本国内の財産のみが課税対象となる可能性があります。

注意が必要なケース

10年ルールの具体的な要件については、相続税法の条文および国税庁の情報をご確認のうえ、税理士に相談することを強くおすすめいたします。税制は改正される場合があります。

二重課税の調整――外国税額控除(相続税法20条の2)

国際相続では、同じ財産に対して日本とその財産の所在地国の両方で相続税(または相続に関連する税)が課される「二重課税」が生じる可能性があります。この問題を緩和するために設けられているのが外国税額控除です。

外国税額控除(相続税法20条の2)の概要

相続税法第20条の2は、国外財産について外国で相続税に相当する税が課された場合、その税額の一定額を日本の相続税から控除できると定めています。これにより、完全な二重課税を防ぐ仕組みが整えられています。

日本の相続税額 外国で課された相続税相当額(一定の控除限度額の範囲内)
控除しきれない場合や、外国で課税された税が相続税に相当しないと判断された場合は控除できないことがあります。

ただし、この外国税額控除が機能するためにはいくつかの前提があります。

また、国によっては日本との間に相続税に関する租税条約が締結されている場合もあり(アメリカとは締結済みです)、その場合は条約の規定が適用されます。外国税額控除の具体的な計算や適用可否については、国税庁の情報を確認するとともに、国際税務に精通した税理士にご相談ください。

海外での手続き上の注意点――プロベートと専門家連携

国際相続では、準拠法や税務だけでなく、海外での実際の手続きにも固有の困難が伴います。特に知っておきたいのが、英米法系の国に多い「プロベート(probate)」という手続きです。

プロベートとは

プロベートとは、英米法系諸国(アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアなど)において、亡くなった方の遺産を公式に整理・管理するための裁判所手続き(検認・遺産管理手続き)です。日本の相続では相続人が合意すれば遺産分割協議を行えますが、英米法系の多くの国では、まずプロベートを経て遺産の管理者(エグゼキューター・アドミニストレーター)を正式に確定させ、その管理者が財産を分配する流れをとります。

[プロベートの注意点]
  • 完了まで数か月から数年かかることがある
  • 弁護士費用・裁判所費用など高額な費用が発生することがある
  • 日本の戸籍謄本・遺言書・財産目録などの翻訳・公証が必要になる場合が多い
  • 州ごと・国ごとにルールが異なるため、現地の専門家への依頼が不可欠

各国の専門家との連携

国際相続を円滑に進めるには、日本側と現地国側の専門家が連携する体制を早期に整えることが重要です。必要な専門家の例を整理いたします。

専門家 主な役割
国際税務に精通した税理士 日本の相続税の申告・納税義務者の判定・外国税額控除の計算・租税条約の適用確認
国際私法を専門とする弁護士(日本) 準拠法の確認・反致の判断・遺言書の有効性確認・遺産分割協議書の作成
現地国の弁護士・公証人 プロベートの手続き・現地の相続税申告・財産の名義変更
司法書士(日本) 日本国内の不動産の相続登記・金融機関手続きのサポート

戸籍に相当する書類も国によって異なります。アポスティーユ(公文書の外国での使用認証)が必要になるケースもあり、書類の準備だけでかなりの時間を要することがあります。できるだけ早い段階で専門家に連絡をとり、必要な書類・手続きのリストを確認することをおすすめいたします。

相続税の申告期限にも注意

日本の相続税の申告・納付期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条)。国際相続では、現地の手続きが長引いて情報収集が遅れるケースがありますが、日本の申告期限はその事情を問わず進みます。「現地の手続きが終わっていないから」と放置すると延滞税・加算税が発生しますので、早めに税理士に相談のうえ、期限内に申告できるよう準備を進めてください。

国際相続でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で繰り返し見られる、国際相続をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. 「海外に移住したので日本の相続税はかからない」と思い込む 移住後10年未満であれば、海外在住でも全世界財産が日本の相続税の対象となる可能性があります。10年ルールの確認は必須です。
  2. 準拠法を「日本法で大丈夫」と早合点する 相続分割主義を採る国に不動産がある場合、その不動産については現地国の法律が適用されることがあります。財産の所在地国の法律も確認が必要です。
  3. プロベートの存在を知らずに手続きを進めようとする 英米法系の国に財産があると、プロベートが必要になります。完了まで長期間かかり、その間は財産を動かせません。早めに現地の弁護士に確認しましょう。
  4. 外国税額控除を知らずに二重課税をそのまま払う 外国で相続税に相当する税を払っている場合は、日本の相続税から控除できる可能性があります(相続税法20条の2)。税理士に確認してください。
  5. 日本の相続税申告期限(10か月)を現地手続きのせいで過ぎてしまう 現地のプロベートや手続きが遅れても、日本の申告期限は延びません。財産の全貌が確定しない段階でも、早めに税理士と相談して対応を決めてください。
  6. 外国語の遺言書・証明書類を放置する 海外で作成された遺言書や各種証明書は、翻訳・公証・アポスティーユなど複数の手順が必要なことがあります。早期に確認・入手しておかないと手続き全体が遅延します。
  7. 一か国の専門家だけに頼って他国の問題を見落とす 国際相続は日本と現地国の両方の法律・税制が絡みます。一方の専門家しか関与していないと、他方の問題が抜け落ちることがあります。必ず両国の専門家が連携する体制を作ってください。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「父がアメリカに不動産を持っていた。日本の相続税はかかるのか、プロベートとは何か――初めてのことだらけで途方に暮れたケース」

日本国籍のお父様(70代)が急逝し、相続人はご長男Yさん(日本在住・日本国籍)とご次男Zさん(アメリカ在住・日本国籍)の2人というケースです。お父様は日本に自宅マンション、アメリカのカリフォルニア州にコンドミニアムを所有していました。「日本の相続税はかかるのか」「アメリカで何か手続きが必要なのか」という2点が、最初のご相談でした。

当センターでは提携の国際税務税理士・国際相続を扱う弁護士と連携し、まず状況を整理しました。お父様は相続開始時に日本に住所があったため、全世界財産(日本のマンション+アメリカのコンドミニアムの両方)が日本の相続税の対象となりました。日本の相続税申告(10か月以内)の準備を早急に進める一方で、アメリカのコンドミニアムについてはカリフォルニア州のプロベート手続きが必要であることが判明。現地の弁護士に依頼し、プロベートを並行して進めることになりました。

アメリカのカリフォルニア州では固定資産税の評価が上昇しており、現地ではキャピタルゲイン課税に類する税も考慮が必要でした。日本の申告では外国税額控除の適用を検討し、実際に一部控除が認められました。Yさんは「プロベートという言葉すら知りませんでした。日本とアメリカの両方で専門家が動いてくれて、初めて全体像が見えました」とおっしゃってくださいました。国際相続は、早期に専門家と全体像を共有することが最大の鍵だと実感していただいた事例でございます。

― 私たちから一言 ―

「国際相続は『知らなかった』では済まない。だからこそ早めのご相談を」

国際相続は、準拠法・納税義務者の区分・10年ルール・外国税額控除・プロベートなど、複数の専門的な問題が一度に絡み合います。しかも、関係する国が増えるほど確認すべき事項は急増し、一つ一つを個別に調べるだけでも膨大な時間がかかります。実際のご相談では、「海外に移住して10年未満なのに相続税はかからないと思っていた」「プロベートを知らずに財産が凍結されたまま1年経った」といった事例が少なくありません。

国際相続でとくに怖いのは、「何も知らないまま時間が経過する」ことです。日本の相続税申告期限(10か月)、プロベートの期間、財産名義変更の期限——これらはそれぞれ動き続けます。早期に動かなければ、選択肢がどんどん狭まり、余分なコスト(延滞税・加算税・プロベート手数料の増加など)が発生します。

当センターでは、国際税務に精通した税理士・国際私法を専門とする弁護士・現地国の専門家との提携ネットワークを活用し、日本国内の相続手続きから海外財産の対応まで一体的にサポートいたします。「海外に財産がありそう」「相続人が海外にいる」「外国籍の方が亡くなった」――そう感じた段階で、まずお電話一本お寄せください。全体像の把握と優先順位の整理から一緒に始めましょう。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 国際相続とは、被相続人・相続人の国籍・居住地、または財産の所在地が複数国にまたがる相続。準拠法・課税範囲・現地手続きの三つの問いに答える必要がある。
  • 準拠法は「法の適用に関する通則法」第36条により、原則として被相続人の本国法が適用される。ただし反致や遺言の方式など、個別確認が必要な事項がある。
  • 相続統一主義(日本・欧州)と相続分割主義(英米法系)の違いにより、不動産については所在地国の法律が適用される場合がある。
  • 日本の相続税は、相続人・被相続人の住所・国籍・過去10年の居住歴に応じて「居住無制限・非居住無制限・制限納税義務者」に区分され、課税される財産の範囲が変わる。
  • 10年ルール:相続開始前10年以内に日本に住所があれば、海外在住でも全世界財産が課税対象となる可能性がある。
  • 外国で相続税相当の税が課された場合は、外国税額控除(相続税法20条の2)により日本の相続税から一定額を控除できる可能性がある。租税条約がある国では条約が優先される場合も。
  • 英米法系の国に財産があるとプロベートが必要。完了まで長期間・高額の費用がかかることがあり、日本と現地の専門家の連携が不可欠。
  • 日本の相続税申告期限(10か月)は現地の手続き状況に関わらず進む。早期に専門家へ相談し、全体像を把握することが最大の対策。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。国際相続は関係する国・財産の種類・相続人の状況によって適用される法律・税制が大きく異なり、本記事の内容がそのまま当てはまるとは限りません。準拠法の確定、納税義務者の区分、外国税額控除の適用可否、プロベートの要否等については、必ず国際税務・国際私法を専門とする税理士・弁護士、または国税庁・所轄の税務署・家庭裁判所に早めにご相談・ご確認ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。法令・税制は改正される場合がありますので、最新の情報をご確認ください。

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