相続税の計算は「法定相続分課税方式」という独自のしくみ

「自分が相続した財産に、いきなり税率をかければ相続税が出る」――こうお考えの方は少なくありません。しかし、日本の相続税はそのような単純な計算ではございません。採用されているのは「法定相続分課税方式」と呼ばれる、やや独特な方式です。これは、いったん遺産全体を「法定相続分どおりに分けたものと仮定」して税額を出し、それを実際の取得割合で配分し直す、という二段構えの考え方でございます。

計算は、大きく次の3つのステップに分かれます。

STEP 1課税遺産総額
を求める
STEP 2相続税の総額
を計算する
STEP 3各人の納付税額
を計算する

この方式の最大の特徴:分け方を変えても「総額」は変わらない

法定相続分課税方式のもっとも重要な性質は、遺産の分け方(遺産分割の仕方)を変えても、ステップ2で計算する「相続税の総額」は変わらないという点にございます。長男に多く相続させても、全員で均等に分けても、家族全体で国に納める相続税の合計は同じです。

では分け方によって何が変わるのかと申しますと、「各相続人がそれぞれ負担する金額」と、「配偶者の税額軽減・2割加算といった特例・加算がどれだけ効くか」でございます。財産を多く受け取った人ほど負担も大きくなり、配偶者が取得すれば税額軽減で圧縮され、孫や兄弟姉妹が取得すれば2割加算が乗る――この調整がステップ3で行われます。

[本記事の前提について]
本記事は、相続税の「税額の計算方法」に絞って解説いたします。その入口となる基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、課税価格(何を財産に足し、何を差し引くか)については「相続税の基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人」、申告が必要なケースの完全ガイド」で詳しく扱っておりますので、あわせてご覧くださいませ。

ステップ1:課税遺産総額を求める

最初のステップは、相続税が実際にかかる部分――「課税遺産総額」を確定することでございます。計算式はシンプルです。

課税遺産総額 = 課税価格の合計額 - 基礎控除額
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

課税価格の合計額とは、相続人それぞれの課税価格を合算したものです。預貯金・不動産・有価証券などの本来の相続財産に、生命保険金などのみなし相続財産、加算対象の生前贈与を足し、非課税財産・債務・葬式費用を差し引いた金額でございます。この計算の詳細は前回記事をご参照ください。

そして、その合計額から基礎控除額を引いた残りが課税遺産総額です。もしこの計算結果がゼロ以下(課税価格の合計額が基礎控除額以下)であれば、相続税は発生せず、原則として申告も不要になります。課税遺産総額がプラスになって初めて、ステップ2へ進みます。

ステップ2:相続税の総額を計算する(速算表)

ステップ2は、法定相続分課税方式の「核」となる部分でございます。ここで「相続税の総額」――つまり家族全体で納める相続税の合計額を確定させます。手順は次のとおりです。

① 課税遺産総額を「法定相続分」で按分する

ステップ1で求めた課税遺産総額を、実際の分け方とは関係なく、法定相続人が法定相続分どおりに取得したものと仮定して各人に割り振ります。たとえば課税遺産総額が1億5,200万円で、相続人が配偶者と子2人なら、配偶者2分の1(7,600万円)、子はそれぞれ4分の1(3,800万円)ずつ、という具合です。

[放棄者・養子の数え方は基礎控除と同じ]
ここで使う「法定相続人」と「法定相続分」は、基礎控除の計算と同じく、相続放棄をした人もしなかったものとして数え、養子の算入には上限があるというルールで考えます。各人の法定相続分の具体的な割合は「法定相続分の計算方法、ケース別に解説」をご覧くださいませ。

② 各人の取得金額に「速算表」の税率をあてはめる

①で按分した金額に、相続税の税率を適用して各人の「仮の税額」を出します。相続税の税率は10%から55%までの8段階の超過累進税率で、計算を簡単にするため次の速算表が用意されています(相続税法第16条)。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円
各人の仮の税額 = 取得金額 × 税率 - 控除額
速算表は超過累進税率の計算を一度に行うための早見表

たとえば法定相続分による取得金額が3,800万円であれば、「5,000万円以下=税率20%・控除額200万円」の行を使い、3,800万円×20%-200万円=560万円が、その人の仮の税額となります。

③ 全員分の仮の税額を合計する=相続税の総額

②で計算した各人の仮の税額をすべて足し合わせた金額が、「相続税の総額」でございます。これが家族全体で国に納める相続税の合計額となります。

なぜ「実際の分け方」ではなく「法定相続分」で計算するのか

もし実際の取得額に直接、超過累進税率をかけると、財産を一人に集めるか分散させるかで税負担の総額が大きく変わり、不公平が生じます。法定相続分という共通のものさしで総額を先に固定することで、遺産分割の方法によって家族全体の税負担が左右されないよう設計されているのです。これが「分け方を変えても総額は変わらない」というしくみの正体でございます。

ステップ3:各相続人の納付税額を計算する

最後のステップで、ステップ2で出した「相続税の総額」を、実際に財産を取得した割合に応じて各相続人へ配分し、一人ひとりが実際に納める金額を確定します。

① 相続税の総額を「あん分割合」で配分する

各人が実際に取得した課税価格の、全体に占める割合を「あん分割合」と申します。相続税の総額にこのあん分割合を掛けた金額が、その人の「算出税額」です。

各人の算出税額 = 相続税の総額 × あん分割合
(あん分割合 = その人が取得した課税価格 ÷ 課税価格の合計額)

② 2割加算と税額控除を反映する

①で出した算出税額に、その人の立場や事情に応じた調整を加えます。順番は「算出税額 + 2割加算 - 各種税額控除 = 納付税額」でございます。

この結果が、各相続人が実際に申告期限までに納める「納付税額」です。マイナスになる場合(控除しきれる場合)は、その人の納税は0円となります。

税額が2割加算される人(相続税法第18条)

相続税には、財産を取得した人の立場によって税額が2割増しになる制度がございます。これを「相続税額の2割加算」と申します(相続税法第18条)。

2割加算の対象になる人・ならない人

2割加算の対象にならないのは、被相続人の一親等の血族(=子・父母)と配偶者です。それ以外の人が財産を取得すると、2割加算の対象となります。

区分該当する人
2割加算
なし
配偶者/子(実子・養子)/父母 ※被相続人の一親等の血族と配偶者。また、子が先に亡くなって孫が代襲相続人となった場合、その孫も2割加算なし
2割加算
あり
兄弟姉妹/甥・姪/祖父母/代襲相続人ではない孫(孫養子を含む)/内縁の配偶者・知人など、相続人以外で遺贈を受けた人
2割加算後の税額 = 算出税額 × 1.2
算出税額に、その2割(20%)相当額を加算する
[孫を養子にする「孫養子」の注意]
相続税対策として孫を養子に迎えるケースがありますが、孫養子は2割加算の対象です(代襲相続人である孫を除く)。基礎控除を増やせる一方で2割加算が乗るため、節税効果は思ったほど大きくならないことがございます。一方、兄弟姉妹が相続人となるケース(子も親もいない方の相続)は、相続人全員が2割加算の対象となり、想定より税負担が重くなりがちです。

税額控除6種類と適用の順番

2割加算とは逆に、一定の事情がある人については相続税額から一定額を差し引ける「税額控除」が用意されています。主なものは次の6種類で、相続税法上、適用する順番が決まっています

控除の名称(根拠条文)内容
1 贈与税額控除
〔暦年課税分〕(第19条)
生前贈与加算により課税価格に取り込まれた贈与財産について、すでに納めた贈与税を控除(贈与税と相続税の二重課税を調整)
2 配偶者の税額軽減
(第19条の2)
配偶者は「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか多い金額まで相続税が非課税
3 未成年者控除
(第19条の3)
相続人が18歳未満のとき、(18歳-相続開始時の年齢)×10万円を控除
4 障害者控除
(第19条の4)
相続人が障害者のとき、(85歳-相続開始時の年齢)×10万円(特別障害者は20万円)を控除
5 相次相続控除
(第20条)
10年以内に続けて相続があったとき、前回の相続で納めた相続税の一定額を控除
6 外国税額控除
(第20条の2)
国外財産について外国で相続税に相当する税が課されたとき、二重課税を調整

未成年者控除・障害者控除の計算式

未成年者控除と障害者控除は、相続人の「あと何年で一定の年齢に達するか」で控除額が決まる点が特徴です。なお、年齢計算で1年未満の端数が出たときは切り上げて1年として数えます。

未成年者控除 = (18歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円
障害者控除 = (85歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円
※障害者控除のうち特別障害者の場合は「20万円」で計算

たとえば相続開始時に10歳のお子様であれば、未成年者控除は(18-10)×10万円=80万円です。これらの控除額がその人の相続税額を上回って引ききれない場合、余った控除額は、その人の扶養義務者(親など)の相続税額から差し引くことができます。

[未成年者控除は「20歳」から「18歳」に]
民法の成年年齢引下げに伴い、未成年者控除の基準年齢は令和4年(2022年)4月1日以後の相続から「20歳」が「18歳」に変更されました。古い資料では「20歳」で説明されていることがありますのでご注意ください。配偶者の税額軽減の詳細は「相続税の基礎控除、申告が必要なケースの完全ガイド」でも解説しております。

このほか、相続時精算課税を選択して生前贈与を受けていた場合は、その際に納めた贈与税を控除する仕組みもございます(相続時精算課税分の贈与税額控除)。こちらは控除しきれない分があれば還付を受けられる点が、暦年課税分の贈与税額控除と異なります。

計算例:課税価格2億円・配偶者と子2人のケース

ここまでの3ステップを、具体的な数字で通して計算してみましょう。課税価格の合計額が2億円、相続人は配偶者と子2人(合計3人)のケースとして計算いたします。

  1. 課税遺産総額を求める 基礎控除額は 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
    課税遺産総額 = 2億円 - 4,800万円 = 1億5,200万円
  2. 法定相続分で按分し、速算表で相続税の総額を出す ・配偶者(1/2):7,600万円 → 7,600万円×30%-700万円=1,580万円
    ・子A(1/4):3,800万円 → 3,800万円×20%-200万円=560万円
    ・子B(1/4):3,800万円 → 同じく 560万円
    相続税の総額 = 1,580万円+560万円+560万円 = 2,700万円
  3. 実際の取得割合で配分し、各人の納付税額を出す 実際に配偶者が1/2、子2人が1/4ずつ取得したと仮定すると――
    ・配偶者:2,700万円×1/2=1,350万円 → 配偶者の税額軽減で0円
    ・子A:2,700万円×1/4=675万円(2割加算なし)
    ・子B:2,700万円×1/4=675万円(2割加算なし)
    家族全体の納付税額の合計 = 1,350万円

このケースでは、配偶者の税額軽減が大きく効き、家族全体の納税額は1,350万円(子2人が675万円ずつ)に収まりました。ただし配偶者にすべてを寄せると、次に配偶者が亡くなる「二次相続」で子の負担が一気に重くなるため、一次相続と二次相続を通算したシミュレーションが欠かせません。これは前回記事でも触れた重要ポイントでございます。

相続税の計算をめぐる6つの落とし穴

当センターのご相談現場で、相続税の計算をめぐって実際によく見かける誤解と失敗を、6つに整理いたしました。

  1. ネットの「早見表」をそのまま信じてしまう 相続税の早見表は便利ですが、多くは「配偶者あり・子が相続人・配偶者の税額軽減を法定相続分まで使う」といった特定の前提で作られています。前提がご家庭の実情と違えば、実額は早見表と大きくずれます。あくまで「ざっくりした目安」とお考えください。
  2. 2割加算を計算に入れ忘れる 兄弟姉妹・甥姪・孫(代襲相続人を除く)・知人などが財産を取得すると、税額が1.2倍になります(相続税法第18条)。とくに子も親もいない方の相続では、相続人である兄弟姉妹の全員が2割加算の対象となり、想定より2割重くなります。
  3. 「分け方を変えれば総額が減る」と誤解する 法定相続分課税方式では、遺産の分け方を変えても「相続税の総額」は変わりません。変わるのは各人の負担額と、配偶者の税額軽減・2割加算の効き方です。「総額」と「各人の負担」を混同しないことが肝心でございます。
  4. 配偶者にすべて寄せて二次相続で重くなる 配偶者の税額軽減(1.6億円まで非課税)を最大限使って一次相続の税額を0円にしても、次の二次相続では基礎控除も相続人も減り、子の負担が急増します。一次・二次を通算したシミュレーションが必要です。
  5. 未成年者控除・障害者控除を使い忘れる 相続人にお子様や障害のある方がいる場合、未成年者控除・障害者控除でまとまった金額を差し引けます。引ききれない分は扶養義務者の税額からも控除できるため、申告で漏らさないことが重要でございます。
  6. 相次相続控除を見落とす 「父が亡くなって数年後に母も亡くなった」というように、10年以内に相続が続いたときは、前回納めた相続税の一定額を今回の相続税から控除できます(相次相続控除)。短期間に相続が重なったご家庭では、必ず確認すべき控除でございます。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「早見表で計算したのに、税理士の試算額が2割も高いのはなぜ?」

50代女性Kさんからのご相談でございました。生涯独身でお子様のいないお兄様がお亡くなりになり、ご両親もすでに他界されていたため、相続人はKさんを含むご兄弟3名(兄弟姉妹)。お兄様がお遺しになった財産の課税価格の合計額は1億2,000万円ほどでした。Kさんはインターネットの「相続税早見表」で1人あたりの税額を見積もり、「だいたい一人300万円くらい」と見当をつけてご相談に来られました。ところが提携税理士による試算額は一人あたり約372万円。「早見表より2割も高い。計算が間違っているのでは」とご不安そうでした。

結論から申し上げますと、税理士の試算が正しく、早見表が前提を取りこぼしていたのでございます。基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円、課税遺産総額は1億2,000万円-4,800万円=7,200万円。これを法定相続分(兄弟姉妹3人で均等=各1/3=2,400万円)で按分し速算表を適用すると、各人の仮の税額は2,400万円×15%-50万円=310万円、相続税の総額は930万円となります。

問題はここからでした。Kさんたちは被相続人の兄弟姉妹であり、配偶者でも一親等の血族(子・父母)でもありません。したがって全員が2割加算の対象。310万円×1.2=372万円が正しい一人あたりの納付税額でした。早見表の多くは「配偶者や子が相続人」という前提で作られており、兄弟姉妹が相続人になるケースは2割加算が反映されていないことが多いのです。Kさんには、計算の根拠を3ステップで一つひとつご説明し、ご納得いただいたうえで申告のお手伝いをいたしました。

― 私たちから一言 ―

「相続税は『総額』と『各人の負担』を分けて考えると見えてきます」

相続税の計算は、一見するととても複雑に見えます。しかし「家族全体でいくら納めるか(総額)」と「誰がいくら負担するか(各人の納付税額)」を切り分けて考えると、ぐっと理解しやすくなります。総額はステップ2で決まり、遺産の分け方では変わりません。一方、各人の負担はステップ3で、取得割合・2割加算・税額控除によって調整されます。この二段構えこそ、日本の「法定相続分課税方式」の本質でございます。

そのうえで、私たちが繰り返し申し上げたいのは「正確な税額は、ご自身やネットの早見表だけで判断しないでいただきたい」ということです。早見表は前提が限られており、2割加算や各種の税額控除、二次相続まで含めた最適な分け方までは反映できません。とくに兄弟姉妹が相続人になるケース、お孫様に遺贈するケース、相続が短期間に続いたケースは、自己判断と実額が大きくずれやすい場面でございます。当センターでは、提携税理士と連携し、相続税の試算、2割加算・税額控除を踏まえた正確な計算、二次相続まで見据えた遺産分割のシミュレーション、申告書の作成・提出までワンストップでサポートしております。「うちの場合はいくらになるのか」を一度はっきりさせたい――そんなときこそ、お電話一本、LINEで結構です。どうぞお気軽にご相談くださいませ。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 相続税は日本独自の「法定相続分課税方式」で計算する。①課税遺産総額 → ②相続税の総額 → ③各人の納付税額、の3ステップ。
  • この方式の特徴は、遺産の分け方を変えても「相続税の総額」は変わらないこと。変わるのは各人の負担額と特例・加算の効き方。
  • ステップ1:課税遺産総額 = 課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)。
  • ステップ2:課税遺産総額を法定相続分で按分し、速算表(10〜55%の8段階)の税率を適用して相続税の総額を出す。
  • ステップ3:相続税の総額を実際の取得割合(あん分割合)で配分し、2割加算・税額控除を反映して各人の納付税額を確定する。
  • 配偶者・子・父母以外の人(兄弟姉妹・甥姪・代襲でない孫・受遺者など)が取得すると、税額が2割加算される(相続税法第18条)。
  • 税額控除は6種類。贈与税額控除 → 配偶者の税額軽減 → 未成年者控除 → 障害者控除 → 相次相続控除 → 外国税額控除の順で適用する。
  • 未成年者控除は(18歳-年齢)×10万円、障害者控除は(85歳-年齢)×10万円(特別障害者は20万円)。引ききれない分は扶養義務者から控除可能。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。実際のお手続きにあたっては、必ず税理士・弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。本記事の内容は2026年5月時点の法令・通達に基づきます。最新の制度改正により取扱いが変わる場合がございますので、ご利用の際は最新情報をご確認ください。

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