遺産分割とは――「どう分けるか」を決める話し合い

遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)が遺した財産を、相続人どうしで具体的に分け合うことをいいます。遺言書がない場合、遺産はいったん相続人全員の共有状態になり、これを一つひとつ「誰が何を取るか」に振り分けていく作業が遺産分割協議です。

民法は「一切の事情を考慮して分ける」と定めている

民法906条は、遺産分割について、遺産の種類や性質、各相続人の年齢・職業・生活の状況その他一切の事情を考慮して行うと定めています。つまり、単純に「金額を頭数で割ればよい」というものではなく、「その家族にとって納得のいく分け方」を柔軟に選べるのが遺産分割の特徴です。

そして、その「分け方」の手段として、実務では次の4つの方法が使われます。

現物分割 / 代償分割 / 換価分割 / 共有分割
これらは一つだけを選ぶ必要はなく、財産ごとに組み合わせて使うこともできます。

それぞれの方法を、順番に見ていきましょう。なお、分割の内容が決まったら、その合意を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。協議書の作り方は遺産分割協議書の書き方、実印・必要書類・無効になる落とし穴で詳しく解説しています。

現物分割――財産をそのまま分ける、最も基本の方法

現物分割とは、個々の財産を、そのままの形で各相続人に割り当てる方法です。遺産分割の最も基本的でシンプルなやり方といえます。

現物分割のイメージ

たとえば、遺産が「自宅(長男が取得)」「預貯金(長女が取得)」「株式(次男が取得)」というように、財産ごとに取得する人を決めていくのが現物分割です。1つの土地を2筆に分筆して、それぞれを別の相続人が取得するのも現物分割の一種です。

メリット デメリット
手続きがシンプルで、財産をそのまま残せる。売却の手間や費用がかからない。 財産の価値がぴったり同じになることは少なく、相続人ごとの取り分に不公平が出やすい。
[現物分割は「不公平になりやすい」]
自宅が3,000万円、預貯金が500万円といったように、財産の価値には差があるのが普通です。現物分割だけで公平に分けようとすると、どうしても取り分の差が生じます。その差を埋めるために、次に説明する代償分割換価分割を組み合わせることが多くあります。

代償分割――一人が現物を取り、他の相続人に代償金を払う

代償分割とは、特定の相続人が不動産などの現物を取得する代わりに、他の相続人に対して自分の財産(お金など)を支払って調整する方法です。このとき支払うお金を「代償金」といいます。

代償分割のイメージ

たとえば、遺産が「実家(3,000万円)」だけで、相続人が長男と長女の2人だとします。長男が実家に住み続けたい場合、実家を長男が取得し、長男が長女に代償金1,500万円を支払うことで、実質的に半分ずつ分けたのと同じ結果にできます。

長男 実家(3,000万円) を取得 長女 代償金として 1,500万円を受取 代償金 現物を取る人が、自分のお金で差額を精算する
図:代償分割――現物を取得した人が、他の相続人に代償金を支払う
メリット デメリット
自宅や事業用資産を売らずに残せる。公平な金額調整がしやすい。 代償金を支払う人に、まとまった資力(自己資金)が必要になる。
[代償金は「贈与」ではない]
代償分割で支払う代償金は、遺産分割の結果として支払うものなので、原則として贈与税はかかりません。ただし、遺産分割協議書に「代償分割として支払う」旨を明記しておくことが大切です。書き方があいまいだと、贈与とみなされてしまうおそれがあります。金額が大きい場合は、専門家に協議書の文言を確認してもらうと安心です。

換価分割――遺産を売却して現金で分ける

換価分割とは、遺産(不動産など)を売却して現金に換え、その代金を相続人で分ける方法です。「換価」とは、財産をお金に換えるという意味です。

換価分割のイメージ

たとえば、誰も住む予定のない実家を相続したものの、相続人の誰にも買い取る資力がない、という場合。実家を売却して、売却代金から諸費用を差し引いた残りを、相続人で法定相続分などに応じて分けます。1円単位まできれいに分けられるのが最大の利点です。

メリット デメリット
現金で公平に分けられる。代償金のような自己資金が不要。共有のまま塩漬けにするのを防げる。 思い出のある自宅などを手放すことになる。売却に時間・費用がかかり、売却益に譲渡所得税がかかる場合がある。

換価分割では「誰の名義で売るか」に注意

不動産を売却するには、いったん相続登記で名義を相続人に移す必要があります。相続人全員の共有名義にしてから売る方法と、代表者一人の名義にしてから売る方法があり、どちらにするかで手続きや税金の扱いが変わることがあります。とくに代表者一人の名義にする場合は、遺産分割協議書に「換価分割のため代表者が取得し、売却代金を分配する」旨を明記しておかないと、他の相続人への分配が贈与とみなされるおそれがあります。売却前に専門家へご相談ください。

共有分割――とりあえず共有にする方法とそのリスク

共有分割とは、遺産を、複数の相続人が持分を決めて共有のまま持ち続ける方法です。たとえば、実家を「長男2分の1、長女2分の1」の共有名義にする、といった分け方です。

共有分割は「先送り」になりがち

共有分割は、その場では「みんなで平等に持つ」形になるため、一見すると公平で角が立たない方法に見えます。しかし実際には、問題の先送りになりやすく、後々のトラブルの火種になりやすい方法でもあります。

共有のまま放置する「塩漬け」のリスク

不動産を共有にすると、売却や大規模な改修には共有者全員の同意が必要になります。年月が経つうちに共有者の誰かが亡くなると、その持分がさらにその相続人へと引き継がれ、共有者がねずみ算式に増えて収拾がつかなくなることがあります。こうした「共有の塩漬け」は、いま大きな社会問題になっています。共有相続のリスクと解消方法は不動産の共有相続のリスクと解消方法とは、塩漬けを防ぐ遺産分割と共有物分割を完全ガイドで詳しく解説しています。

そのため実務では、共有分割は「どうしても他の方法が取れないとき」の最終手段と考え、できるだけ現物分割・代償分割・換価分割で決着させるのが望ましいとされています。

どの方法を選ぶ?――財産の種類別の考え方

4つの方法は、どれか一つに決めなければならないものではありません。財産の種類や、相続人それぞれの事情に合わせて、組み合わせて使うのが実際的です。

こんなとき 向いている方法
財産が預貯金・株式など分けやすいものだけ 現物分割(金額で公平に振り分けやすい)
自宅に住み続けたい相続人がいて、資力もある 代償分割(家を残しつつ他の相続人へ代償金)
誰も使わない不動産で、公平に分けたい 換価分割(売って現金で分ける)
すぐに結論が出せず、いったん保留したい 共有分割(ただし将来のトラブルに注意)
[「誰が何を必要としているか」から考える]
分割方法を選ぶときは、金額の公平さだけでなく、「その財産を本当に必要としている人は誰か」という視点が大切です。事業用資産なら事業を継ぐ人へ、住まいなら住み続ける人へ、というように、財産を活かせる人に承継させたうえで、金銭で公平を調整するのが円満相続のコツです。生前の貢献などをどう反映するかは特別受益と寄与分とは、生前贈与や介護の貢献を遺産分割で公平に調整するしくみを完全ガイドもあわせてご覧ください。

分割方法と税金――代償金・売却益にかかる税に注意

分割方法を選ぶ際に見落としがちなのが、税金への影響です。方法によって、相続税以外の税金がかかることがあります。

代償分割にかかる税金

代償金を受け取った人は、その代償金を含めて相続税の課税価格を計算します。代償金を支払った人は、取得した財産の価額から支払った代償金を差し引いて課税価格を計算するのが原則です。前述のとおり、正しく代償分割として行えば代償金に贈与税はかかりませんが、協議書の書き方があいまいだと課税上のトラブルにつながることがあります。

換価分割にかかる税金

換価分割で不動産などを売却して利益(譲渡益)が出た場合、その利益には譲渡所得税・住民税がかかることがあります。各相続人が、自分の持分に応じて申告・納税する形になります。

[相続財産を売るなら「取得費加算の特例」も]
相続した財産を、相続税の申告期限の翌日から一定期間内(原則として3年を経過する日まで)に売却した場合、支払った相続税のうち売却した財産に対応する部分を、譲渡所得の計算上「取得費」に加算できる特例があります(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)。これにより譲渡所得税を軽くできる可能性があります。適用の要件や期間・計算方法は個別性が高いため、最新の要件は国税庁の案内や税理士にご確認ください。自宅の評価を抑える小規模宅地等の特例については小規模宅地等の特例、自宅80%減額のしくみと「家なき子」の本当の要件で解説しています。
※税金の取り扱いは、財産の種類・取得時期・売却時期・各人の事情によって大きく変わります。本記事の税務の記述は一般的な考え方を示すもので、具体的な税額や適用可否は、必ず税理士または国税庁の一次情報でご確認ください。
よくある相談事例
※以下の事例は実際のご相談をもとにした架空のケースです。実在の個人・団体とは関係ありません。

「実家をどう分けるかで、きょうだいの意見が割れたケース」

Kさん(50代・女性)は、母を亡くし、弟との2人で相続することになりました。主な遺産は母が住んでいた実家(評価額およそ2,400万円)と、預貯金600万円。Kさんは「思い出のある家は残したい」、弟は「自分は家はいらないので、その分お金でほしい」という考えで、話し合いが止まってしまい、ご相談にいらっしゃいました。

当センターで4つの分割方法をご説明したところ、Kさんが実家を取得し、弟に代償金を支払う代償分割が、ご希望に最も合うことが分かりました。実家2,400万円と預貯金600万円の合計3,000万円を2人で分けるとすると、1人あたり1,500万円。Kさんが実家(2,400万円)を取得する代わりに、預貯金600万円は弟が取得し、さらにKさんが弟に代償金900万円を支払うことで、きょうだいそれぞれが1,500万円ずつ(Kさん:実家2,400万円−代償金900万円=1,500万円/弟:預貯金600万円+代償金900万円=1,500万円)を受け取る形に整理できました。

Kさんはご自身の預貯金から代償金を用意できたため、実家を売らずに残すことができました。遺産分割協議書には「代償分割として支払う」旨を明記し、贈与税の心配もないことをご説明しました。「売るしかないと思い込んでいたけれど、家を残したまま弟とも円満に分けられて、本当にほっとしました」とのお言葉をいただきました。分割方法を知っているかどうかで、選べる道はぐっと広がります

― 私たちから一言 ―

「『分けにくい財産』こそ、分け方の引き出しがものを言います」

遺産分割のご相談で最も多いのが、「自宅や土地はあるけれど、現金は少ない」というケースです。こうしたご家庭では、財産をそのまま頭数で割ることができず、「では、どうすればいいのか」と行き詰まってしまいます。そんなとき、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割という4つの選択肢を知っているだけで、話し合いの糸口がぐっと見つけやすくなります

とくに気をつけていただきたいのが、安易な共有分割です。その場は平等に見えても、共有不動産は売るにも貸すにも全員の同意が必要で、世代を重ねるほど共有者が増え、いずれ「誰も手をつけられない財産」になりかねません。私たちは、できる限り現物分割・代償分割・換価分割で決着させ、共有は最終手段と考えることをおすすめしています。

また、代償分割や換価分割は、代償金の書き方一つ、売却の名義一つで、贈与税や譲渡所得税の扱いが変わることがあります。当センターでは、提携する税理士・司法書士・弁護士などと連携し、ご家族の事情と財産の中身に合った分割方法のご提案から、遺産分割協議書の作成、名義変更・売却のサポートまで、相続手続き全体を丁寧にお手伝いいたします。「うちの場合はどの分け方がいいのか」という段階から、どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

遺産分割の方法でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、遺産分割の方法をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 「分け方は現物分割しかない」と思い込む 代償分割・換価分割・共有分割という選択肢を知らず、分けにくい財産で行き詰まってしまう。
  2. 安易に共有分割を選んで「塩漬け」にしてしまう その場は平等でも、後で売却・活用に全員の同意が必要になり、世代を経て共有者が増えて収拾がつかなくなる。
  3. 代償分割なのに協議書に明記せず、贈与税を疑われる 「代償分割として支払う」旨を書かないと、代償金が贈与とみなされるおそれがある。
  4. 代償金を払う資力がないのに代償分割を選ぶ 代償金を支払う自己資金が用意できず、結局まとまらない。無理なら換価分割も検討を。
  5. 換価分割の売却益にかかる譲渡所得税を見落とす 売って現金で分けたら、売却益に譲渡所得税がかかることがある。取得費加算の特例も要確認。
  6. 換価分割で代表者名義にする際の書き方を誤る 「換価分割のため」と明記しないと、代表者から他の相続人への分配が贈与とみなされるおそれがある。
  7. 金額の公平だけで決め、「誰が必要としているか」を無視する 住まいや事業用資産は、活かせる人へ承継し金銭で調整するのが円満相続のコツ。数字合わせだけでは禍根を残す。

この記事のまとめ

  • 遺産の分け方には「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つの方法があり、組み合わせて使える。
  • 現物分割は財産をそのまま分ける基本形。シンプルだが取り分に不公平が出やすい。
  • 代償分割は一人が現物を取り、他の相続人に代償金を払う方法。家を残せるが支払う資力が必要。
  • 換価分割は売って現金で分ける方法。公平に分けやすいが、売却益に譲渡所得税がかかることがある。
  • 共有分割は「先送り」になりやすく、将来の塩漬け・トラブルの火種になりがち。最終手段と考える。
  • 代償金・売却代金の分配は、協議書の書き方次第で贈与税・譲渡所得税の扱いが変わるため、専門家に確認を。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。どの分割方法が適しているか、代償金や売却代金の課税上の扱い、譲渡所得税・取得費加算の特例の適用可否などは、財産の内容や各相続人の事情によって変わります。また、法律・税制は随時改正される場合があります。本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいていますが、具体的な分割方法の選択・税額の計算については、必ず弁護士・司法書士・税理士などの専門家、および民法(e-Gov法令検索)国税庁等の一次情報をご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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