不動産の共有相続とは――なぜ起きるのか
被相続人(亡くなった方)が不動産を遺したとき、遺産分割協議でその不動産を特定の1人に単独取得させず、複数の相続人が「持分」という割合で所有する形をとることを共有相続といいます。
共有が生じる主な原因は次のとおりです。
- 遺産分割協議で「とりあえず共有にしておこう」と先送りにした
- 代償金(特定の相続人が不動産を取得する代わりに他の相続人に支払う金銭)を用意できなかった
- 被相続人が遺言を遺していなかった
- 法定相続分どおりに登記することを選んだ
- 相続登記を放置したまま次の相続が発生した(数次相続)
また、2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しなければ過料の対象になります。「とりあえず共有で登記だけしておく」という選択肢を選ぶ方が増える可能性がある一方、共有のまま放置することへのリスクも従来以上に意識される時代になっています。
「持分があれば自分の分だけ自由に動かせる」と思われることがありますが、それは大きな誤解です。次節で詳しく説明するとおり、不動産の共有には民法が定める厳格なルールがあります。
共有のリスク①――変更・管理に必要な同意の壁(民法251条・252条)
共有不動産を動かすには、行為の性質に応じて必要な同意の水準が異なります。民法はこれを3段階で規定しています。
| 行為の種類 | 必要な同意 | 根拠条文 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 変更行為 | 共有者全員の同意 | 民法251条 | 売却、建替え、抵当権設定、大規模リフォーム |
| 管理行為 | 持分価格の過半数で決定 | 民法252条 | 賃貸借契約(短期)、軽微な修繕、利用方法の決定 |
| 保存行為 | 各共有者が単独で可能 | 民法252条5項 | 雨漏り修理、不法占拠者への明渡請求 |
最も問題になるのが「変更行為」です。不動産を売却したい・建替えたいという場合は共有者全員の同意が必要なため、共有者の1人でも反対・連絡不通・認知症で意思能力が不十分となると、原則として動かせません。
「自分の持分だけ売る」ことは可能だが、買い手が見つかりにくい
自己の持分(例:2分の1の所有権)を第三者に売却することは自由です(民法206条)。しかし、他の共有者の同意なしに不動産全体を使えるわけではない持分を買いたい一般の方はほぼいません。買い手がつく場合も市場価格を大幅に下回る価格になることが多く、現実的な解決策とはなりにくいのが実情です。
固定資産税・管理責任の問題
共有不動産の固定資産税は、法律上は各共有者が持分に応じて負担しますが、実務では共有者の代表者1人に納税通知書が送られます。「自分には関係ない」と感じる共有者が費用を分担しないトラブルも珍しくなく、建物の老朽化に伴う修繕費の負担を誰がするかでもめることもあります。
共有のリスク②――数次相続で共有者が増え続ける問題
共有状態を放置していると、共有者の1人が亡くなるたびにその持分がさらに分割されていきます。これを数次相続(すうじそうぞく)といいます。
上の図のように、最初は2人だった共有者が世代を経るごとに4人・8人と増えていきます。問題はそれだけではありません。
- 面識のない遠縁の親族が共有者になる
- 連絡先が分からない・所在不明の共有者が生じる
- 遺産分割協議をするために相続人の確定(戸籍調査)が膨大になる
- 共有者の1人が認知症や未成年の場合、家庭裁判所の手続きが必要になる
「相続登記をしなかった不動産が数十年後に数十人の共有になっていた」という事例は決して珍しくなく、法務省の調査でも所有者不明土地の主要原因として「相続登記未了」が挙げられています。
解消方法①――遺産分割で単独所有にする(代償分割・換価分割)
共有状態を解消する最善の手段は、まだ遺産分割が完了していない段階であれば、改めて遺産分割協議をまとめて単独所有に移行することです。主な分割方法は次の2つです。
代償分割
代償分割とは、相続人の1人(または一部)が不動産を単独取得し、その代わりに他の相続人へ代償金(現金)を支払う方法です。「家を長男が引き継ぎ、次男・三男には現金を渡す」という形が代表例です。
代償分割のメリットは、不動産をそのまま残せることです。デメリットは、取得者が代償金を用意できなければ成立しない点と、不動産の評価額(時価)について相続人間で合意が得られるかどうかです。
換価分割
換価分割とは、不動産を売却してその売却代金を相続人間で分ける方法です。「思い入れは薄く、現金で分けたい」という場合に向いています。
- 全員が合意して売却するため買い手が見つかりやすく、市場価格に近い価格で売れる
- 売却代金を法定相続分など合意した割合で分配できる
- 売却益に対して譲渡所得税が生じる場合があるため、税金の試算が必要
- 相続した不動産を相続開始から3年10か月以内に売却すると取得費加算の特例が使える場合がある(最新の要件は税務署でご確認ください)
解消方法②――共有物分割(協議・共有物分割請求訴訟)
遺産分割がすでに完了しており、不動産が共有名義で登記されている場合は、共有物分割という手続きで解消します。民法は、各共有者はいつでも共有物の分割を請求できると定めており(民法256条)、これは時効で消滅しない権利です。
協議による共有物分割
まずは共有者全員で話し合い(協議)を行います。合意が得られれば、持分を1人に集約する現物分割、売却して代金を分ける換価分割、一方が持分を買い取る価格賠償(賠償分割)など、柔軟な方法をとれます。
共有物分割請求訴訟
協議が整わない場合、共有者の1人でも共有物分割請求訴訟を裁判所に提起できます(民法258条)。裁判所は以下の方法で分割を命じます。
| 分割方法 | 内容 | 適する場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を物理的に分筆して各共有者に割り当てる | 広い土地で分筆が現実的な場合 |
| 賠償(価格賠償)分割 | 共有者の1人が不動産全体を取得し、他の共有者の持分相当額を代償金として支払う | 土地が狭く分筆できない場合、建物を分割できない場合 |
| 換価分割 | 競売によって不動産を売却し代金を持分割合で分ける | 共有者間で取得希望がない場合 |
裁判所は現物分割→賠償分割→換価分割の順に検討し、現物分割が合理的でないと判断されれば賠償・換価分割が選ばれます。競売は市場価格より低くなる傾向があるため、共有者にとって最善の結果にならないこともあります。費用・期間の目安や具体的な手続要件は裁判所・弁護士にお問い合わせください。
2023年改正民法の新制度――所在等不明共有者への対応
共有問題の大きな障壁のひとつが、「所在が分からない、または連絡がとれない共有者がいる」ケースです。2023年(令和5年)4月1日に施行された改正民法(令和3年改正)では、このような場面に対応するための新しい裁判所手続きが設けられました。
所在等不明共有者の持分取得・譲渡制度(民法262条の2・262条の3)
改正民法では、共有者が所在不明または共有に協力しない場合に、裁判所の手続を経てその持分を他の共有者が取得したり、不動産全体を第三者に譲渡(売却)したりできる制度が新設されました(民法262条の2・262条の3)。
- 持分取得(民法262条の2):所在不明共有者の持分を、裁判所の決定によって他の共有者が時価相当額の支払いと引き換えに取得できる
- 持分譲渡(民法262条の3):共有者全員が不動産全体を売却したい場合に、所在不明共有者の持分について裁判所の決定を得ることで、その同意なしに第三者へ譲渡できる
不動産登記法の改正とも連動
同時に施行された不動産登記法の改正により、「所有不動産記録証明制度」や「住所変更登記の義務化(2026年4月施行予定)」なども整備されており、共有者の所在把握がより容易になっていきます。制度の詳細は法務省ウェブサイトや最寄りの法務局でご確認ください。
予防策――遺言と生前の話し合いで共有を避ける
共有問題の最善の解決策は、共有状態を最初から作らないことです。被相続人が生きているうちに対策を講じるのが最も効果的です。
遺言で特定の相続人に単独取得させる
有効な遺言があれば、「長男に自宅を単独で相続させる」と指定できます。相続人全員による遺産分割協議が不要になるため、争いが起きにくく、手続きもシンプルになります。ただし、遺言でも他の相続人の遺留分は侵害できないため、代償金の準備が必要なケースもあります。
生前の話し合い(家族会議)
「この不動産は誰が引き継ぐのか」「売却するのか、賃貸に出すのか」を家族で事前に話し合い、合意形成しておくことも重要です。被相続人が元気なうちであれば、売却・贈与・信託など選択肢も広がります。
家族信託の活用
被相続人が認知症になる前に家族信託を設定し、受託者(信頼できる家族)に不動産の管理・処分権限を委ねる方法もあります。認知症後に不動産が動かせなくなるリスクを軽減できます。詳細は司法書士・弁護士にご相談ください。
「兄弟4人の共有実家を10年越しで解消したケース」
お父様を亡くされたVさん(60代・長女)からのご相談でした。10年前の相続の際、4人の兄弟姉妹で実家の土地・建物を4分の1ずつ共有で相続登記しました。当時は「後で話し合う」と先送りにしましたが、次男が売却を希望する一方、三男が「思い出の家だから残したい」と反対し、長年膠着していました。その間に実家は空き家になり、固定資産税は長女であるVさんが代表として払い続けていました。
当センターでは提携の司法書士・弁護士と連携し、まず兄弟全員の意向を整理しました。長女・次男・四女は売却または代償での解消を希望、三男のみ反対。交渉の結果、三男が他の3人の持分を買い取ること(価格賠償分割の協議)で合意に至り、不動産鑑定士の評価額をもとに代償金の額を確定。遺産分割協議の追加変更は行わず、既に確定した遺産分割の状態から共有物分割協議書を作成し、三男の単独所有として移転登記を完了しました。
Vさんは「10年間払い続けた固定資産税も清算でき、ようやく肩の荷が下りました。もっと早く相談していればよかった」とおっしゃいました。共有状態は時間が経つほど解消が難しくなります。早めの相談が何より重要です。
「共有は『先送り』ではなく、新たなリスクの始まりです」
相続現場で最もよく見かける問題のひとつが、不動産の共有相続です。「とりあえず共有で」という判断は一見無難に見えて、実際には変更行為に全員同意が必要(民法251条)という縛りが生まれ、一人でも反対すると不動産が塩漬けになります。そして世代が替わるごとに共有者が増え、10年・20年後には「誰がどこに住んでいるか分からない」状況になっている事例を私たちは数多く目にしています。
2023年の改正民法で所在等不明共有者への対応制度(民法262条の2・262条の3)が整備され、以前より解消の道は広がりました。しかし裁判所手続きは費用も時間もかかります。最善はやはり、共有にしない遺産分割をする、あるいは遺言で特定の相続人に単独取得させるという予防策です。
当センターでは、提携の弁護士・司法書士・税理士・不動産鑑定士と連携し、共有不動産の時価評価、代償分割・換価分割の選択支援、共有物分割協議書の作成、不動産登記、そして2023年改正民法に基づく裁判所手続きまで、一体的にお手伝いしております。「共有不動産を整理したい」「相続でどう分ければよいか分からない」――そのような悩みは早ければ早いほど解決の選択肢が広がります。どうぞお気軽にご相談ください。
不動産の共有相続でよくある7つの落とし穴
ご相談の現場で実際によく見かける、共有相続をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。
- 「とりあえず共有にしておけば安心」と先送りにする 共有は解決ではなく先送りです。変更行為には全員同意が必要(民法251条)で、世代交代のたびに問題が大きくなります。遺産分割の機会があるうちに話し合いをまとめましょう。
- 「持分があれば自分の意思で売れる」と思い込む 自己の持分を第三者に売ること自体は可能ですが、不動産全体を動かすには共有者全員の同意が必要です(民法251条)。持分だけ売っても市場性が極端に低く、実際には困難です。
- 固定資産税の負担を代表者1人に押し付けたまま放置する 固定資産税は各共有者が持分に応じて負担する義務があります。長年代表者が立替払いを続けている場合、後で清算問題が発生します。早期に負担方法を明確にしましょう。
- 数次相続が起きているのに戸籍調査を後回しにする 共有者の1人が亡くなれば、その持分はさらに法定相続人へ分散します。放置するほど関係者が増え、遺産分割協議・共有物分割に必要な戸籍調査が膨大になります。
- 不動産の時価評価を怠り、代償分割の交渉が難航する 代償金の額は不動産評価額をもとに決まります。路線価・固定資産税評価額・実勢価格は異なります。鑑定評価を取らずに感覚値で交渉すると紛争になりやすく、合意形成が困難になります。
- 共有物分割請求訴訟で競売になることを失念する 協議がまとまらず共有物分割訴訟になり換価分割が命じられると、競売になることがあります。競売は市場価格より大幅に低い価格になりやすく、全員が損をするケースもあります。裁判に至る前に話し合いでまとめることが最善です。
- 2023年改正民法の新制度を知らずに「打つ手なし」とあきらめる 所在不明の共有者がいても、改正民法(民法262条の2・262条の3)に基づく裁判所手続きで解消の道が開けることがあります。諦める前に弁護士・司法書士に相談してください(手続きの詳細・最新要件は裁判所でご確認ください)。
この記事のまとめ
- 不動産の共有相続とは、複数の相続人が持分で不動産を所有する状態。遺産分割の先送りや法定相続分どおりの登記で生じやすい。
- 変更行為(売却・建替え等)は共有者全員の同意が必要(民法251条)、管理行為は持分価格の過半数で決定(民法252条)。一人でも反対すると塩漬けになる。
- 固定資産税・管理費の負担があいまいになりやすく、数次相続で共有者が際限なく増えるリスクがある。
- 解消策①は遺産分割での単独所有化(代償分割・換価分割)。代償分割は取得者が代償金を支払って不動産を引き継ぐ、換価分割は売却して現金を分ける。
- 解消策②は共有物分割(協議→共有物分割請求訴訟)。分割方法は現物分割・賠償分割・換価分割の3種で、競売は市場価格より低くなりやすい。
- 2023年4月施行の改正民法で、所在等不明共有者の持分取得・譲渡を裁判所手続きで可能にする制度(民法262条の2・262条の3)が新設された。詳細は法務省・裁判所に確認を。
- 最善の予防策は遺言で特定相続人に単独取得させること。生前の話し合い・家族信託も有効。共有は早期解消が原則。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(第251条・252条 共有物の変更・管理、第256条〜258条 共有物の分割、第262条の2・262条の3 所在等不明共有者関連) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「共有制度(共有物の変更・管理、裁判による共有物分割)の見直し等(令和3年民法・不動産登記法改正)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 法務省「所有者不明土地・建物関係の改正(令和3年民法・不動産登記法改正)について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 裁判所「共有物分割請求」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_02_02_10/index.html
- 国土交通省「令和5年度 地籍調査の実施状況等に関する調査結果(所有者不明土地の割合等)」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000034.html
共有不動産の相続・解消、ご相談ください
遺産分割(代償分割・換価分割)から共有物分割協議書の作成、不動産登記、
2023年改正民法に基づく裁判所手続きまで、提携の弁護士・司法書士・不動産鑑定士と連携し一体的にお手伝いいたします。