「相続人がいない」とはどういう状態か

相続人不存在とは、亡くなった方(被相続人)に、法律上の相続人が一人も存在しない状態をいいます。相続人になれるのは、配偶者と、子・親・兄弟姉妹などの一定の親族です。これらの人がもともといない、または全員が先に亡くなっている・相続放棄したなどで、結果として誰も相続人がいなくなった場合が相続人不存在にあたります。

こんなケースが相続人不存在になりやすい

[「相続人がいるかどうか」はまず戸籍で確認]
本当に相続人がいないのかどうかは、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍をたどって確認します。思いがけず遠い親族(甥・姪など)が相続人として見つかることもあります。誰が相続人になるのかの基本は法定相続人とは誰のこと、順位と範囲を図解で、おひとりさまの相続全般はおひとりさま・子のいない人の相続とは、相続人がいないときの流れと生前対策を完全ガイドで詳しく解説しています。

相続財産清算人とは――2023年改正で名称が変わった

相続人がいない場合、遺された財産は、放っておくと管理する人がいません。そこで、家庭裁判所が相続財産清算人を選び、この人が被相続人の財産を管理・清算していきます。

「相続財産管理人」→「相続財産清算人」へ(2023年4月)

この制度を担う人は、かつて「相続財産管理人」と呼ばれていました。しかし、所有者不明土地問題への対応などを目的とした民法改正により、2023年(令和5年)4月1日から「相続財産清算人」に名称が変わり、あわせて手続きも見直されました。古い解説サイトや書籍では今も「相続財産管理人」と書かれていることがありますので、混同しないようご注意ください。制度の根拠は民法952条です。

相続財産清算人は何をする人か

相続財産清算人は、家庭裁判所の監督のもとで、おおむね次のような仕事を行います。

清算人には、多くの場合、弁護士や司法書士などの専門家が家庭裁判所によって選ばれます。

手続きの流れ――申立てから国庫帰属まで

相続人不存在の手続きは、次のような流れで進みます。数か月から1年以上かかることも多く、時間のかかる手続きです。

STEP 1 家庭裁判所へ清算人の選任を申立て
STEP 2 清算人の選任・公告/債権者らへの請求申出の公告
STEP 3 相続人捜索の公告(一定期間)
STEP 4 清算・特別縁故者への分与・国庫帰属

申立てできる人

相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てられるのは、利害関係人(被相続人にお金を貸していた債権者、特別縁故者にあたると考える人、療養看護をしてきた人など)や検察官です。

[公告の期間は制度改正で整理された]
2023年の改正では、従来は段階的に行われていた複数の公告(清算人選任の公告、債権者・受遺者への請求申出の公告、相続人捜索の公告)をまとめて並行して行えるようになり、以前より手続きにかかる期間が短縮される方向で見直されました。相続人が現れないまま各公告の期間が満了すると、相続人の不存在が確定します。具体的な公告期間や手続きの細部は、管轄の家庭裁判所や裁判所ホームページの最新の案内でご確認ください。

特別縁故者とは――内縁の配偶者・事実上の親子など

相続人はいないけれど、生前、被相続人と深い関わりを持っていた人はいる――そんなとき、その人が財産の一部を受け取れる可能性があります。それが特別縁故者への財産分与という制度です。

特別縁故者にあたりうる人

民法は、特別縁故者として、次のような人を例に挙げています(民法958条の2)。

[内縁の配偶者は「相続人」ではない]
長年連れ添っていても、婚姻届を出していない内縁(事実婚)の配偶者は、法律上の相続人にはなれません。同様に、正式な養子縁組をしていない「事実上の子」も相続人にはなりません。こうした人が財産を受け取るには、遺言で遺贈を受けるか、相続人がいない場合に特別縁故者として財産分与を申し立てるかのいずれかになります。だからこそ、内縁のパートナーがいる方は、生前に遺言を残しておくことがとても重要です。

なお、特別縁故者にあたるかどうか、どれだけの財産を分与するかは、家庭裁判所が個別の事情を総合的に考慮して判断します。「深く関わっていれば必ず認められる」というものではなく、認められない場合や、財産の一部だけが分与される場合もあります。

特別縁故者への財産分与の申立て

特別縁故者として財産を受け取りたい人は、自分から家庭裁判所に財産分与の申立てをする必要があります。清算人が自動的に分けてくれるわけではありません。

申立てには「期限」がある

特別縁故者への財産分与の申立ては、相続人を捜すための公告の期間が満了した後、一定の期間内(民法では3か月以内と定められています)に行う必要があります。この期間を過ぎると申立てができなくなってしまうため、特別縁故者にあたると考えられる方は、手続きの進行を意識して早めに準備することが大切です。正確な起算日・期間は、管轄の家庭裁判所にご確認ください。

申立てで見られるポイント

家庭裁判所は、申立人が本当に「特別の縁故」があったといえるか、被相続人との関わりの深さ・内容・期間などを見て判断します。療養看護に努めた、生計を共にしていた、といった具体的な事実を示す資料(生活実態が分かるもの、看護の記録など)を用意できるかどうかが重要になります。個別性が高い手続きのため、弁護士など専門家に相談しながら進めるのが安心です。

最終的に財産はどうなる――共有持分と国庫帰属

清算と特別縁故者への分与を終えて、なお財産が残った場合、その財産は最終的にどうなるのでしょうか。

残った財産は国庫に帰属する(民法959条)

債権者への支払いも、特別縁故者への分与も終えて、それでも残った財産は、最終的に国庫(国の財産)に帰属します(民法959条)。これが、冒頭で触れた「持ち主のいない遺産が国のものになる」しくみです。

相続人がいない遺産 ① 債権者・受遺者へ清算(支払い) ② 特別縁故者へ分与(申立てがあれば) ③ 残った財産は国庫へ帰属 ①→②→③の順に進み、最後は国のものになる
図:相続人がいないときの財産の流れ(清算 → 特別縁故者 → 国庫)

共有していた財産は、他の共有者のものになることがある

ひとつ例外的な扱いとして、被相続人が誰かと共有していた財産(共有持分)がある場合が挙げられます。相続人も特別縁故者もおらず、その共有持分が残ったときは、原則としてその持分は他の共有者のものになると考えられています。国庫帰属との関係で扱いが問題になることがあり、判断が難しい場面です。共有が絡む相続は複雑になりやすいため、不動産の共有相続のリスクと解消方法とは、塩漬けを防ぐ遺産分割と共有物分割を完全ガイドもあわせてご覧ください。

「相続人がいない」を防ぐ生前対策――遺言のすすめ

ここまで見てきたように、相続人がいないと、財産は長い手続きを経て、最終的には国のものになってしまいます。「お世話になったあの人に遺したい」「応援している団体に寄付したい」という願いは、何もしなければ実現しません。

遺言があれば、望む人・団体に遺せる

相続人がいない方こそ、遺言書を残しておくことが大切です。遺言があれば、内縁のパートナーや、お世話になった知人、お世話になった施設、あるいは応援したい団体などに、財産を「遺贈」することができます。遺言がなければ受け取れなかった人へ、確実に財産を届けられるのです。

[遺言+「遺言執行者」を決めておくと安心]
おひとりさまの場合、遺言を残すだけでなく、その内容を実現してくれる「遺言執行者」を指定しておくと、死後の手続きがスムーズです。公正証書遺言なら、形式の不備で無効になる心配も少なく安心です。遺言の種類と選び方は公正証書遺言と自筆証書遺言の違い、どちらを選ぶべきかで解説しています。

よくある相談事例
※以下の事例は実際のご相談をもとにした架空のケースです。実在の個人・団体とは関係ありません。

「長年連れ添った内縁の夫を亡くした女性のケース」

Tさん(60代・女性)は、20年以上連れ添ったパートナーの男性を亡くしました。二人は事情があって婚姻届を出しておらず、いわゆる内縁関係でした。男性には子どもがなく、両親もすでに他界、兄弟姉妹もいませんでした。男性名義の預貯金と、二人で暮らしていたマンションが遺されましたが、Tさんは「自分は妻ではないから、何も受け取れないのでは」と不安を抱えてご相談にいらっしゃいました。

当センターで戸籍を確認したところ、男性には相続人が一人もいない相続人不存在のケースであることが分かりました。そこで、Tさんが特別縁故者にあたる可能性があることをご説明し、提携する弁護士と連携して、まず家庭裁判所への相続財産清算人の選任申立て、その後の相続人捜索の公告期間の満了を待って、特別縁故者としての財産分与の申立てを行う方針を立てました。20年以上生計を共にしてきた事実や、闘病中の男性を献身的に看護してきた経緯を、資料を添えて丁寧に主張しました。

手続きには相応の時間がかかりましたが、Tさんの長年の貢献が認められ、遺された財産の相当部分が特別縁故者としてTさんに分与される結果となりました。「何ももらえないと諦めていたので、二人で過ごした家を守れて、本当に救われました。ただ、彼が生前に遺言を書いてくれていれば、こんなに時間はかからなかったとも聞き、自分の分は必ず遺言を残そうと思いました」とのお言葉をいただきました。内縁のパートナーがいる方は、生前の遺言がとても大きな意味を持ちます。

― 私たちから一言 ―

「『相続人がいない』は、決して他人事ではありません」

「おひとりさま」が当たり前になった今、相続人が一人もいないというケースは、年々確実に増えています。生涯独身の方、お子さんのいないご夫婦、身寄りの少ない方――こうした方が亡くなると、遺された財産は相続財産清算人による長い手続きを経て、最終的には国のものになってしまいます。ご本人が「あの人に遺したい」と思っていても、何も準備がなければ、その想いは形になりません。

とくに切実なのが、婚姻届を出していない内縁のパートナーがいらっしゃる方です。どれだけ長く連れ添っても、法律上は相続人になれません。特別縁故者として財産分与を申し立てる道はありますが、時間も手間もかかり、必ず認められるとも限りません。だからこそ、生前に遺言を残しておくことが、遺されるパートナーへの何よりの思いやりになります。

また、2023年の法改正で「相続財産管理人」が「相続財産清算人」に変わるなど、この分野の制度は近年見直しが進んでいます。古い情報のままでは、手続きを誤ってしまうこともあります。当センターでは、提携する弁護士・司法書士などと連携し、相続人がいないケースの手続きのご相談から、特別縁故者としての財産分与の申立て、そして『相続人がいない』を見据えた生前の遺言・終活のご支援まで、幅広くお手伝いいたします。「自分にはもしものとき遺す相手がいない」と感じている方こそ、どうぞお早めにご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

相続人不存在でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、相続人がいないケースをめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 内縁の配偶者や事実上の子が「当然に相続できる」と思い込む 婚姻届・養子縁組をしていなければ相続人にはなれません。遺言か特別縁故者の申立てが必要です。
  2. 「相続人がいない」と思ったら、実は遠い親族がいた 戸籍を出生までたどると、甥・姪などの相続人が見つかることも。まず戸籍で確認を。
  3. 特別縁故者は「自動的に」財産をもらえると誤解する 自分から家庭裁判所へ財産分与を申し立てないと受け取れません。清算人が分けてくれるわけではありません。
  4. 特別縁故者の申立て期限(公告満了後3か月以内)を過ぎてしまう 期限を過ぎると申立てができなくなります。手続きの進行を意識して早めに準備を。
  5. 古い情報で「相続財産管理人」のまま手続きしようとする 2023年4月から「相続財産清算人」に名称・手続きが変わりました。最新の制度を確認しましょう。
  6. 手続きがすぐ終わると思っている 清算人の選任から国庫帰属まで、数か月〜1年以上かかることも珍しくありません。時間のかかる手続きです。
  7. 相続人がいないのに、生前対策(遺言)を何もしない 遺言がなければ財産は国庫へ。望む人・団体に遺したいなら、元気なうちに遺言を残しておくことが不可欠です。

この記事のまとめ

  • 相続人が一人もいない状態を「相続人不存在」といい、少子高齢化を背景に近年増えている。
  • 相続人がいないと、家庭裁判所が選ぶ「相続財産清算人」(2023年4月に相続財産管理人から改称)が財産を清算する。
  • 手続きは、清算人の選任・各公告 → 清算 → 特別縁故者への分与 → 国庫帰属の流れで進み、時間がかかる。
  • 内縁の配偶者や事実上の親子などは相続人になれないが、「特別縁故者」として財産分与を申し立てられる(民法958条の2)。
  • 特別縁故者の申立てには期限(公告満了後3か月以内)があり、自分から家庭裁判所へ申し立てる必要がある。
  • 残った財産は最終的に国庫へ帰属する(民法959条)。望む人へ遺すには、生前の遺言が何より大切。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。相続人不存在にあたるかどうかの判断、相続財産清算人の選任手続き、各公告の期間、特別縁故者にあたるかどうかや財産分与の可否・申立て期限、共有持分・国庫帰属の扱いなどは、個別の事情や管轄の家庭裁判所によって変わることがあります。また、法律は随時改正される場合があり、条文番号も改正で変わることがあります。本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいていますが、具体的な手続き・期限・要件については、必ず弁護士・司法書士などの専門家、管轄の家庭裁判所、および民法(e-Gov法令検索)裁判所法務省等の一次情報をご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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