「利用価値が著しく低下している宅地」とは――路線価では拾いきれない個別の事情をみる取扱いです

相続や贈与によって取得した財産の価額は、取得の時における時価によるとされています(相続税法22条)。実務では、国税庁の財産評価基本通達にもとづいて評価します。市街地の宅地は、路線価に土地の面積を掛け、奥行きや形状に応じた補正をして計算するのが基本です。

奥行きが長い、形がいびつである、がけ地を含む、といった事情については、通達に補正率が定められています。しかし、道路との高低差や騒音のように、通達の補正率には定めのない事情で、土地の価値が下がっていることもあります。

このような場合について、国税庁はタックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」で、次の取扱いを示しています。

[取扱いの内容(国税庁タックスアンサーNo.4617の要旨)]
利用価値が、付近にある他の宅地の利用状況からみて著しく低下していると認められる宅地の価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。

この取扱いは、相続税だけでなく贈与税の評価にも使われます。国税不服審判所の裁決でも、この取扱いは相当なものとして用いられています。

大切なのは、「付近にある他の宅地の利用状況からみて」「著しく」という2つの言葉です。その土地だけを見て不便だと感じるかどうかではなく、周りの宅地と比べて、はっきりと利用価値が下がっているかどうかが問われます。

対象になる4つの類型と、10%の減額の計算

タックスアンサーに示されている4つの類型

類型内容
1 高低差道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
2 地盤の凹凸地盤に甚だしい凹凸のある宅地
3 震動震動の甚だしい宅地
4 その他1から3までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの

4の日照阻害については、建築基準法56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものに限る、とされています。

計算のしかた

評価額 = 利用価値が低下していないものとして評価した価額 - 利用価値が低下している部分の面積に対応する価額 × 10%
利用価値が著しく低下している宅地の評価

減額の対象になるのは、土地の全体とは限りません。利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額の10%です。数字を使って確かめます(奥行きなどの補正は考えないものとします)。

設例計算評価額
土地の全体が該当する場合路線価20万円 × 300平方メートル = 6,000万円
6,000万円 × 10% = 600万円
6,000万円 - 600万円 = 5,400万円
300平方メートルのうち100平方メートルの部分だけが該当する場合路線価20万円 × 100平方メートル = 2,000万円
2,000万円 × 10% = 200万円
6,000万円 - 200万円 = 5,800万円

農地や山林にも、同じ考え方があります

宅地に比準して評価する農地や山林についても、宅地に転用する場合に、造成費用を投下してもなお宅地としての利用価値が付近の宅地に比べて著しく低下していると認められる部分があるときは、同じように扱うこととされています。市街地にある農地の評価については、畑・原野・駐車場の相続税評価の記事をご覧ください。

いちばん大切なただし書――路線価・固定資産税評価額・倍率に織り込み済みなら、減額できません

タックスアンサーNo.4617には、次のただし書があります。

事情がすでに考慮されている場合は、しんしゃくしません

路線価、固定資産税評価額または評価倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合には、この減額はしないこととされています。同じ事情を二重に差し引くことになるためです。

路線価に織り込み済みかどうかの考え方

路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している道路ごとに付けられます。国税不服審判所の平成29年4月7日裁決は、高低差について、次のように述べています。

つまり、坂の多い住宅地で、その道路沿いの宅地がどれも道路より高い位置にあるような場合は、高低差があるというだけでは減額の対象になりにくい、ということになります。騒音についても同じで、幹線道路や線路に沿った道路の路線価が、すでにその事情を反映した水準になっていることがあります。

倍率方式の地域では、固定資産税評価額を確かめます

路線価が付けられていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価します。市区町村が固定資産税評価額を決めるときに、高低差や騒音などによる補正をすでに行っている場合は、その事情は評価額に織り込まれています。市区町村の固定資産税の担当窓口で、その土地にどのような補正が適用されているかを確認します。

高低差――「道路より高い・低い」というだけでは足りません

4つの類型のうち、実際に検討されることが多いのは高低差です。要件は、付近にある宅地に比べて著しく高低差があることです。国税不服審判所の公表裁決から、判断のポイントを確かめます。

裁決事情判断
平成18年5月8日裁決道路より低い位置にあり、付近の宅地に比べて著しい高低差があると認められた土地宅地としての価額の10%相当額を控除して評価するのが相当とされました。
平成18年3月15日裁決道路から約70センチメートル低い土地。居宅の敷地として現に利用されていた(納税者は、鑑定評価額による評価を主張)周囲の宅地の状況と比べても、利用価値が著しく低下しているとは認められないとされました。
平成29年4月7日裁決道路に接する他の宅地と比べても著しく高い位置にあり、周囲にがけ地になっている部分があった土地周辺の一連の土地と比較してもなお著しい高低差があるとして、10%の減額が相当とされました。納税者が主張した60%の減額は認められませんでした。

検討するときに確かめること

何メートル以上であれば認められる、という基準は公表されていません。周辺との比較と、利用への影響を、資料にもとづいて説明できるかどうかが大切です。

[がけ地を含む土地の場合]
土地の一部が、通常の用途に使えないがけ地になっている場合は、財産評価基本通達20-5の「がけ地補正率」による評価が別に定められています。高低差による10%の減額と、がけ地補正などのほかの補正との関係は、土地の状況に応じて個別に検討する必要がありますので、税理士にご相談ください。がけ地補正については、がけ地・土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価の記事をご覧ください。

騒音・震動――「うるさい」という実感ではなく、測定結果などの客観的な資料が判断の材料になります

線路沿いや幹線道路沿いの土地では、騒音や震動による減額が検討されることがあります。国税不服審判所の令和2年6月2日裁決は、鉄道沿線の土地について、騒音による10%の減額を認めました。この裁決は、騒音を理由に減額して評価すべき場合を、次の3つの要件がそろう場合としています。なお、タックスアンサーでは、震動は3番目の類型で「震動の甚だしい宅地」であることが、騒音は4番目の類型で「取引金額に影響を受けると認められる」ことが、それぞれ要件とされています。

  1. 路線価に騒音の要因が考慮されていないこと評価に用いる路線価が、騒音の要因を考慮して付されたものではないこと。
  2. 騒音が生じていること騒音の発生状況が確認できること。この事案では、相当程度の騒音が日常的に発生していたと認定されました。
  3. 騒音により取引金額が影響を受けると認められることその宅地の取引金額に、騒音が影響していると認められること。

この事案では、合理的と認められる方法による騒音の測定結果によって、相当程度の騒音が日常的に発生していることが明らかにされたこと、市の固定資産税の評価においても鉄道騒音による減価が行われていたことなどから、利用価値が著しく低下している土地に当たると判断されました。なお、この事案は、申告のあとに納税者が更正の請求をしたことから始まったものです。

一方で、平成18年5月8日裁決では、自動車や航空機の騒音、日照の不良などを理由とする減額の主張について、利用価値の著しい低下は認められないと判断された土地もあります。

騒音・震動を検討するときに確かめること

日照阻害・臭気・忌み――4番目の類型は「取引金額に影響を受ける」ことが要件です

4番目の類型は、高低差・地盤の凹凸・震動以外の事情で、取引金額に影響を受けると認められるものです。タックスアンサーは、騒音のほかに、日照阻害、臭気、忌み等を挙げています。

事情確かめること
日照阻害建築基準法56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害があるものに限られます。「日当たりが悪い」という程度では、対象になりません。
臭気臭気の発生源との距離、発生の頻度と程度、周辺の宅地との違いを確かめます。
忌みたとえば、墓地に隣接している場合などが挙げられることがあります。平成18年5月8日裁決では、造成後においても三方が墓地に囲まれている土地について、4番目の類型に当たるとして10%相当額の控除が相当とされました。取引金額に影響するかどうかを、周辺の状況とあわせて確かめます。

これらの事情は、数値で示しにくいものが多く、判断が分かれやすいところです。タックスアンサーには、どの程度であれば認められるかという具体的な基準は示されていません。ここでも、路線価や固定資産税評価額にすでに織り込まれていないかを先に確かめます。たとえば、墓地に面した道路の路線価が、周辺の道路より低く付けられていれば、その事情はすでに反映されていると考えられます。

[判断に迷う事情があるとき]
この取扱いに当てはまるかどうかは、土地ごとの事情によって結論が異なります。同じような事情に見えても、周辺の状況や路線価の付けられ方によって、認められる場合と認められない場合があります。適用を検討するときは、土地の評価にくわしい税理士に、現地の状況と資料を見てもらうことをおすすめします。

似ているけれど別の減額と、申告のあとに気づいたときの手続き

通達に定めのある減額との違い

土地の評価額が下がる事情には、財産評価基本通達に補正率や算式が定められているものがあります。10%の減額は、これらとは別の取扱いです。

事情根拠くわしい記事
形がいびつな土地財産評価基本通達20(不整形地の評価)不整形地の相続税評価
道路に接していない土地財産評価基本通達20-3(無道路地の評価)無道路地の評価
がけ地を含む土地財産評価基本通達20-5(がけ地等を有する宅地の評価)がけ地・土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価
セットバックが必要な土地財産評価基本通達24-6(セットバックを必要とする宅地の評価)セットバック・都市計画道路予定地・私道の評価
土壌が汚染されている土地国税庁「土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)」(令和6年6月21日)―

土壌汚染地については、国税庁の情報で、汚染がないものとした場合の価額から、浄化・改善費用に相当する金額(見積額の80%相当額)、使用収益の制限による減価に相当する金額、心理的要因による減価に相当する金額を控除して評価する、という考え方が示されています。

申告のあとに気づいたとき――更正の請求

相続税の申告を済ませたあとで、この取扱いを適用できる事情があったことに気づいた場合は、更正の請求によって、納めすぎた税金の還付を求めることができます。請求できる期間は、原則として、法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。請求には、評価額が過大であったことを示す資料が必要です。手続きについては、相続税の更正の請求の記事をご覧ください。

根拠のない適用には、注意が必要です

反対に、十分な根拠がないままこの減額を適用して申告し、税務調査で認められなかった場合は、不足する税額に加えて、過少申告加算税や延滞税がかかることがあります。くわしくは、加算税・延滞税の記事をご覧ください。適用する場合は、現地の写真、測定の結果、周辺の宅地との比較、路線価や固定資産税評価の確認結果を残し、説明できるようにしておきます。

利用価値が著しく低下している宅地の評価でよくある7つの落とし穴

  1. 「道路より低い」というだけで、10%を差し引く 要件は、付近の宅地に比べて著しく高低差があることです。周辺の宅地も同じ状況であれば、対象になりにくくなります。
  2. 路線価に織り込み済みかどうかを確かめない 路線価・固定資産税評価額・倍率が、その事情を考慮して付されている場合は、減額できません(タックスアンサーNo.4617ただし書)。
  3. 土地の全体から10%を差し引く 減額の対象は、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額の10%です。
  4. 騒音を、実感だけで主張する 裁決では、合理的な方法による測定結果と、取引金額への影響が判断の材料とされています(令和2年6月2日裁決)。
  5. 「日当たりが悪い」ことを、そのまま日照阻害とする 日照阻害は、建築基準法56条の2に定める日影時間を超えるものに限られます。
  6. 倍率方式の地域で、固定資産税評価額の補正を確認しない 市区町村がすでに補正をしていれば、二重の減額になります。担当窓口で確認します。
  7. 申告のあとに気づいたのに、期限を過ぎてしまう 更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「実家は、道路から階段を下りたところにあります」――Tさまのご相談

Tさま(60代)は、お父さまが亡くなり、ご実家の土地と建物を相続されることになりました。ご実家は、前の道路から階段を下りた低い位置にあり、車を敷地に入れることができません。Tさまは「路線価で計算してみたら、思っていたより高い金額になりました。隣の家は道路と同じ高さなのに、同じ路線価で計算するのは納得がいきません。何か方法はないのでしょうか」とお話しになりました。

私からは、「道路より著しく低い位置にあって、付近の宅地に比べて利用価値が著しく低下していると認められる場合には、その部分の価額の10%を差し引いて評価できるという取扱いがあります。ただ、これは、道路より低いというだけで使えるものではありません。同じ道路に面したほかの宅地と比べて、ご実家だけが際立って低いのかどうか、その事情が路線価にすでに反映されていないかどうかを確かめる必要があります。高低差の測定と写真、周辺の宅地の状況が分かる資料をご用意のうえ、土地の評価にくわしい税理士に見てもらうことをおすすめします」とお伝えしました。

Tさまは、税理士に現地を確認してもらい、同じ道路沿いのほかの宅地は道路とほぼ同じ高さにあること、ご実家だけが大きく低い位置にあることを、写真と測定の結果で整理されたそうです。税理士の判断のもとで、根拠となる資料を添えて申告を済ませられました。Tさまは「低い土地だから当然に引ける、という話ではないと分かりました。周りと比べるという考え方を教えてもらえてよかったです」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

土地の評価は、現地を見ないと分からないことがあります

路線価図と面積だけで計算した評価額は、あくまで出発点です。道路との高低差、線路からの距離、隣接する施設などは、図面だけでは分からず、現地に立ってはじめて気づくことがあります。

一方で、この10%の減額は、「不便だから」「うるさいから」というだけでは認められない取扱いでもあります。周辺の宅地と比べて著しいかどうか、路線価にすでに織り込まれていないかどうかを、資料にもとづいて説明できることが求められます。適用できる場合に見落とさないことと、根拠のないまま適用しないことの、両方が大切です。

私たちは、ご事情を伺いながら、確認しておくとよい点を一緒に整理し、土地の評価にくわしい税理士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 利用価値が付近の宅地に比べて著しく低下している宅地は、低下している部分の面積に対応する価額の10%を差し引いて評価できる場合があります(国税庁タックスアンサーNo.4617)。
  • 対象として示されているのは、著しい高低差、地盤の甚だしい凹凸、甚だしい震動、騒音・日照阻害・臭気・忌み等で取引金額に影響を受けるものの4つの類型です。
  • 路線価、固定資産税評価額、評価倍率が、その事情を考慮して付されている場合は、減額できません。
  • 高低差は、周辺の一連の宅地と比較してもなお著しい場合に限って適用するのが相当とされています(平成29年4月7日裁決)。騒音は、測定結果と取引金額への影響が判断の材料とされています(令和2年6月2日裁決)。
  • 申告のあとに気づいた場合は、原則として法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求ができます(国税通則法23条1項)。
  • 適用できるかどうかは土地ごとの事情によって異なります。最新の取扱いは国税庁でご確認のうえ、税理士にご相談ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、個々の土地について10%の減額の適用を保証するものではありません。この取扱いに当てはまるかどうかは、土地の状況、周辺の宅地との比較、路線価や固定資産税評価額の付けられ方などによって結論が異なります。本記事で紹介した裁決は、それぞれの事案の事実関係にもとづく判断であり、同じ結論になるとは限りません。通達や取扱いは改正されることがありますので、最新の情報は国税庁等でご確認のうえ、具体的な評価や申告については、税理士などの専門家にご相談ください。

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