ペナルティは2種類――「加算税」と「延滞税」
相続税の申告と納付の期限は、いずれも相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。この基本の流れは相続税の申告と納付で解説していますが、本記事では期限に間に合わなかった場合・申告が誤っていた場合に、どれだけの負担が上乗せされるのかを、税率まで踏み込んで詳しく見ていきます。
期限に遅れたときに課されるものは、大きく2種類に分けて理解すると整理しやすくなります。
| 種類 | 性質 | 内容 |
|---|---|---|
| 加算税 | ペナルティ(制裁) | 申告をしなかった・少なく申告した・隠したことに対する上乗せ。無申告加算税・過少申告加算税・重加算税の3つがあります(このほか納付に関する不納付加算税もありますが、相続税では主にこの3つです)。 |
| 延滞税 | 利息に相当するもの | 納付が遅れた日数に応じてかかるもの。「遅れた期間の利息」にあたる性質で、加算税とは別に発生します。 |
加算税と延滞税は「両方」かかる
よくある誤解が、「加算税を払えば延滞税はかからない」というものです。両者は性質がまったく違うもので、重ねて課されます。たとえば期限に遅れて申告・納付した場合、無申告加算税(制裁)と延滞税(利息)の両方が本来の相続税に上乗せされる、というのが基本の形です。
これらの根拠となるのは、税金全般の共通ルールを定めた国税通則法です。過少申告加算税は65条、無申告加算税は66条、重加算税は68条、延滞税は60条に定められています(なお67条は、源泉徴収などに関する不納付加算税の規定です)。
無申告加算税――申告しなかったときの15%・20%・30%
無申告加算税は、申告期限までに相続税の申告をしなかった場合に課されるものです(国税通則法66条)。相続税がかかるのに申告していなかった、というケースが典型です。
原則の税率――納める税額の大きさで3段階
税率は、納付すべき税額の大きさに応じて3段階に分かれます。令和6年(2024年)1月1日以後に法定申告期限が到来するものについては、次のとおりです。
| 納付すべき税額の区分 | 原則の税率 |
|---|---|
| 50万円以下の部分 | 15% |
| 50万円超 300万円以下の部分 | 20% |
| 300万円超の部分 | 30% |
このうち「300万円超の部分は30%」という区分は、令和5年度税制改正で新たに設けられたものです。高額な無申告に対する負担を重くする趣旨で、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する分から適用されています。
繰り返しの無申告はさらに10%上乗せ
過去5年以内に、同じ税目(相続税)について無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合には、上記の税率に10%が加重されます。「一度指摘されたのに、また無申告だった」というケースを重く見るものです。
自分から申告すれば軽くなる――5%と「1か月以内」の特例
ここが、この制度でもっとも知っておいていただきたい点です。無申告加算税は、いつ気づいて申告したかによって、税率が大きく変わります。
来る前に自主申告
予知前に申告
(原則の税率)
| 申告のタイミング | 無申告加算税の税率 |
|---|---|
| 税務調査の通知が来る前に、自主的に期限後申告 | 5% |
| 調査の事前通知の後、更正・決定を予知する前の期限後申告 | 10% / 15% / 25% (50万円以下/50万円超300万円以下/300万円超の各部分) |
| 調査で指摘を受けてから(更正・決定を予知した後) | 15% / 20% / 30% (前章の原則の税率) |
つまり、まったく同じ「無申告」でも、税務署から連絡が来る前に自分から申告すれば5%で済むのに対し、調査で指摘されてからでは15%〜30%と、負担が3倍以上に膨らむことがあるのです。「申告していなかったかもしれない」と気づいた時点で、一日も早く動くことに大きな意味があります。
「1か月以内」なら無申告加算税がかからない特例
さらに、法定申告期限から1か月以内に自主的に期限後申告をした場合には、次の要件をすべて満たすことで、無申告加算税が課されないという特例があります。
- その期限後申告が、法定申告期限から1か月以内に自主的に行われていること。
- 納付すべき税額の全額を、法定納期限までに納付していること(口座振替の手続をしている場合は、期限後申告書を提出した日まで)。
- 期限後申告書を提出した日の前日から起算して5年前までの間に、同じ税目について無申告加算税または重加算税を課されたことがなく、かつこの不適用の特例を受けていないこと。
過少申告加算税――申告額が少なかったときの10%・15%
過少申告加算税は、期限内に申告はしたけれど、申告した税額が本来より少なかった場合に、あとから修正申告や更正で増えた税額に対して課されるものです(国税通則法65条)。財産の一部を計上し忘れていた、評価を誤っていた、といったケースです。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 原則(調査で指摘を受けてからの修正申告・更正) | 10%。ただし、増えた税額のうち「期限内申告税額」と「50万円」のいずれか多い額を超える部分は15% |
| 調査の事前通知の後、更正を予知する前の自主的な修正申告 | 5%(上記の「いずれか多い額」を超える部分は10%) |
| 調査の通知が来る前の、自主的な修正申告 | 課されません |
調査の通知前に自分で気づいて直せば、過少申告加算税はかからない
無申告加算税と違い、過少申告加算税には「調査の通知前に自主的に修正申告すれば課されない」という取り扱いがあります(この場合も延滞税は別途かかり得ます)。申告後に「財産を1つ入れ忘れていた」と気づいたら、指摘される前に自分から修正申告するのが、負担を最小にする道です。
重加算税――隠した・偽ったときの35%・40%
重加算税は、事実を隠蔽したり、仮装(偽装)したりしたという悪質なケースに、過少申告加算税・無申告加算税に代えて課される、最も重いペナルティです(国税通則法68条)。
| ケース | 税率 | 過去5年以内に同じ税目について無申告加算税・重加算税を課されたことがある場合 |
|---|---|---|
| 申告はしたが、隠蔽・仮装により少なく申告した | 35% | 45% |
| 隠蔽・仮装により、そもそも申告しなかった | 40% | 50% |
「隠蔽・仮装」とは、たとえば意図的に財産を申告書に載せない、通帳や書類を隠す・捨てる、内容の異なる書類を作るといった行為が想定されます。単純な計算ミスや、うっかりの記載漏れとは区別されるものですが、その線引きは実際の事実関係によって判断されます。
延滞税――納付が遅れた日数分にかかる利息
延滞税は、納期限までに税金を納めなかった場合に、納期限の翌日から完納の日までの日数に応じて課されるものです(国税通則法60条)。ペナルティというより「利息」に近い性質で、遅れれば遅れるほど積み上がっていくのが特徴です。
2段階の割合――2か月がひとつの区切り
延滞税の割合は、納期限の翌日から2か月を過ぎるかどうかで大きく変わります。法律上の原則は「年7.3%」と「年14.6%」ですが、実際にはこれに代わる特例の割合が適用され、その水準は毎年見直されて国税庁から公表されます。
| 期間 | 法律上の原則 | 令和8年(2026年)の割合 |
|---|---|---|
| 納期限の翌日から2か月を経過する日まで | 年7.3% | 年2.8% |
| 納期限の翌日から2か月を経過した日以後 | 年14.6% | 年9.1% |
ご覧のとおり、2か月を過ぎると割合が一気に跳ね上がります。納付が難しい事情があるとしても、2か月というラインは強く意識しておきたいところです。
延滞税の割合は毎年変わる――必ず最新の公表値を
上の表に挙げた令和8年(2026年)の割合は、本記事執筆時点で公表されている数値です。延滞税の特例の割合は毎年見直されるため、実際に計算する際は、必ず国税庁「延滞税の割合」のページで、その年に適用される最新の割合をご確認ください。
一括で払えないときは「延納」という選択肢もある
「払えないから、とりあえず放置する」というのが最も避けたい対応です。相続税には、一定の要件のもとで分割払いを認める「延納」や、財産そのもので納める「物納」という制度があります(詳しくは相続税の申告と納付をご覧ください)。また、遺産分割がまとまらない場合でも、いったん法定相続分で申告する未分割申告という方法があります。「期限内に申告だけはしておく」ことが、ペナルティを小さくする実務上の要点です。
「申告が要らないと思い込み、期限を過ぎていたケース」
Sさん(50代・女性)は、お父さまが亡くなった後、「自宅と少しの預貯金だけだから、相続税はかからないだろう」と考え、申告をしないままにしていました。ところが、亡くなってから1年ほど経った頃、お父さま名義の証券口座や、別の金融機関の定期預金が見つかり、合計すると基礎控除を超えそうだと分かって、当センターにご相談にいらっしゃいました。
当センターでは、提携する税理士と連携し、まず税務署から調査の通知が来る前に、自主的に期限後申告をする方針をご提案しました。無申告加算税は、調査で指摘を受けてからでは原則15%〜30%ですが、調査の通知前に自分から申告すれば5%にとどまるためです。あわせて、納付が遅れた分の延滞税は別に発生すること、2か月を過ぎると割合が上がることもご説明し、資金の準備を急いでいただきました。
Sさんは「放っておくのが一番まずいと分かって、すぐ動いてよかったです」とおっしゃいました。気づいた時点で、指摘される前に自分から申告する――この一点で、負担は大きく変わります。
「一番重いペナルティは、『放っておくこと』から生まれます」
相続税の申告漏れに気づいたとき、多くの方が「今さら申し出たら、かえって重く取られるのでは」と心配されます。しかし、実際の制度はまったく逆の設計になっています。税務署から連絡が来る前に、自分から申告する人ほど、負担が軽くなる――無申告加算税が原則15〜30%のところ5%で済み、過少申告加算税に至っては課されない取り扱いがある、というのがそのあらわれです。
逆に、「見つからないかもしれない」と黙っていることが、最も高くつきます。指摘を受けてからでは原則の税率が適用され、隠したと判断されれば重加算税35%・40%という世界に入ります。そのうえ延滞税は、待っている間も日々積み上がっていきます。
当センターでは、提携する税理士と連携し、「申告が必要かどうか分からない」段階からの財産の洗い出し、期限後申告・修正申告の対応まで、中立的な立場でお手伝いしております。「申告していなかったかもしれない」「財産を入れ忘れていた気がする」――そうお感じの方は、どうか一人で抱え込まず、お早めにご相談ください。動き出すのが早いほど、打てる手は多く残っています。
ペナルティを避ける・軽くする5つの実務ポイント
加算税・延滞税を最小限にするために、実務上おさえておきたい点を5つに整理いたします。
- まず「期限内に申告だけはする」 遺産分割がまとまらなくても、法定相続分でいったん申告する道(未分割申告)があります。分割の話し合いが長引いていることは、申告しなくてよい理由にはなりません。
- 財産の洗い出しを徹底する 申告漏れの多くは「知らなかった財産」から生まれます。名義預金・生命保険・証券口座・貸金庫など、被相続人の資料を早い段階で広く確認しましょう。
- 気づいたら、連絡が来る前に自分から動く 自主的な期限後申告なら無申告加算税5%、調査の通知前の修正申告なら過少申告加算税は課されません。タイミングがそのまま金額に直結します。
- 納付は「2か月」を意識する 延滞税は、納期限の翌日から2か月を過ぎると割合が大きく上がります。全額が難しくても、払える分から納めることで延滞税の元本は減ります。
- 払えないときこそ、放置せず相談する 延納・物納という制度があります。「払えない」は放置の理由になりません。まず税理士・税務署に相談し、使える制度がないか確認しましょう。
加算税・延滞税でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、相続税のペナルティをめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 「加算税を払えば延滞税はかからない」と思い込む 加算税(制裁)と延滞税(利息)は性質が違い、重ねて課されます。両方かかるのが基本と考えてください。
- 「申し出たらかえって重くなる」と誤解して黙っている 制度は逆です。調査の通知前に自主的に申告するほど軽くなり、黙っているほど重くなります。
- 遺産分割がまとまらないことを、申告しない理由にしてしまう 未分割でも法定相続分で申告する方法があります。分割の遅れは、無申告を正当化しません。
- 「うちは相続税がかからない」と自己判断してしまう あとから財産が見つかり、基礎控除を超えていたというケースは少なくありません。判断に迷うなら試算を。
- 延滞税の「2か月の壁」を知らない 納期限の翌日から2か月を過ぎると、延滞税の割合が大きく上がります。遅れるほど負担が加速します。
- 延滞税の割合を古い数字のまま計算する 特例の割合は毎年見直されます。計算するときは、必ず国税庁の最新の公表値をご確認ください。
- 「隠したつもりはない」財産で重加算税を問われる 名義預金など、本人に隠す意図がなくても問題になりやすい論点があります。事前の洗い出しが最大の予防です。
この記事のまとめ
- 相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月。遅れると「加算税」と「延滞税」が両方かかり得る。
- 無申告加算税(国税通則法66条)は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する分について、原則15%(50万円以下)・20%(50万円超300万円以下)・30%(300万円超)。
- 調査の通知前に自主的に期限後申告すれば5%。法定申告期限から1か月以内で一定要件を満たせば、無申告加算税が課されない特例もある。
- 過少申告加算税(65条)は原則10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)。調査の通知前の自主的な修正申告なら課されない。
- 重加算税(68条)は、隠蔽・仮装があった場合に過少申告35%・無申告40%。過去5年以内に同じ税目についての賦課歴があればさらに10%加重。
- 延滞税(60条)は納期限の翌日からの日数分。令和8年は2か月以内が年2.8%、2か月経過後は年9.1%。割合は毎年変わるため国税庁で最新の値を確認する。
参考文献(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 国税庁「延滞税の割合」 https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm
- 国税庁「延滞税について」 https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/index.htm
- e-Gov法令検索「国税通則法」(第60条・第65条〜第68条) https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
「申告していなかったかも」――そのご不安、ご相談ください
期限を過ぎている、財産を入れ忘れていた、払えるか不安――
提携する税理士と連携し、期限後申告・修正申告から納付の見通しまで、中立的にサポートします。動き出しが早いほど、負担は軽くなります。