遺産分割が「もめる」とは――協議・調停・審判の3段階

亡くなった方(被相続人)が遺言を残していない場合、遺産は相続人全員の共有状態になります。これを各相続人に具体的に分けていく手続きが遺産分割でございます。遺産分割は、原則として相続人全員の話し合い(協議)で決めますが、話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の力を借りて解決します。その流れは、次の3段階で進みます。

第1段階 遺産分割協議
(相続人の話し合い)
第2段階 遺産分割調停
(家裁での話し合い)
第3段階 遺産分割審判
(裁判官が決定)

大切なのは、いきなり審判(裁判官の判断)を求めることは原則できないという点です。遺産分割をめぐる争いは、まず話し合いによる解決を試みるべきとされており、家庭裁判所に持ち込む場合も、原則としてまず「調停」から始めます(調停前置に準じた運用)。調停でも合意できなかったときに、はじめて審判に移ります。

[本記事の前提知識について]
本記事は、遺産分割がもめたとき(協議が調わないとき)の手続きに絞って解説いたします。話し合いがまとまった場合に作成する書面については「遺産分割協議書の書き方、実印・必要書類・無効になる落とし穴」、もめないための事前の備えについては「公正証書遺言の作り方」、各相続人の取り分の基準については「法定相続分の計算方法、ケース別に解説」をあわせてご覧くださいませ。

まずは遺産分割協議――話し合いで決めるのが原則

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合うことでございます(民法第907条第1項)。協議には次のような特徴があります。

相続人どうしの関係が良好で、財産の内容も明確であれば、協議はスムーズに進みます。しかし、次のような事情があると、協議は難航しがちでございます。

協議が決裂したら――家庭裁判所の遺産分割調停

話し合いがまとまらない、あるいは相続人の一部が話し合いに応じないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停とは、裁判官(家事審判官)と、民間から選ばれた調停委員2人が中立の立場で間に入り、相続人それぞれの言い分を聞きながら、合意による解決を目指す手続きでございます。

調停の進み方

[調停委員は「味方」でも「敵」でもありません]
調停委員は、どちらか一方の肩を持つ立場ではなく、あくまで中立の立場で、双方の主張を整理し、解決の糸口を探る役割を担います。法的な根拠(法定相続分・特別受益・寄与分など)に基づいて、現実的な落としどころを示してくれることが多く、感情的になりがちな当事者どうしの直接対決を避けながら冷静に話を進められるのが、調停の大きな利点でございます。

調停でも決まらないとき――審判への移行

調停を重ねても相続人全員の合意に至らない場合、調停は「不成立」となります。遺産分割の場合、調停が不成立になると、手続きは自動的に「審判」へ移行します(あらためて申し立てる必要はありません)。

審判とは

審判とは、裁判官が当事者から提出された資料や主張、これまでの一切の事情を考慮して、遺産の分け方を決定する手続きでございます。調停が「話し合い」であるのに対し、審判は裁判官が結論を下す点が決定的に異なります。当事者が合意できなくても、裁判官の判断で分割方法が決まります。

審判は「望まない結論」になることもある

審判まで進むと、裁判官が法的な基準に従って機械的に分割を決めるため、当事者の誰もが完全には満足しない結論になることも少なくありません。たとえば「思い出の詰まった実家を売却して現金で分けなさい」という結論になることもあります。だからこそ、できる限り協議または調停の段階で、お互いが納得できる落としどころを見つけることが望ましいのでございます。審判は「最後の手段」とお考えください。

遺産の分け方4種類――現物・代償・換価・共有分割

遺産分割では、財産をどのように分けるかについて、主に4つの方法があります。とくに分けにくい不動産が含まれる場合、どの方法を選ぶかが争点になります。

分割方法 内容 向いている場面
現物分割 遺産を現物のまま分ける(自宅は長男、預貯金は長女、など) 財産の種類が複数あり、過不足なく分けられるとき
代償分割 一人が現物(不動産など)を取得し、他の相続人に代償金を支払う 自宅を特定の人が継ぎたいが、他にも公平に分けたいとき
換価分割 遺産を売却して現金化し、その代金を分ける 分けにくい不動産しかなく、誰も現物を望まないとき
共有分割 複数の相続人が持分を決めて共有する 他の方法が難しいとき(ただし将来の火種になりやすい)
[「共有」はできるだけ避けたい]
不動産を相続人の共有にすると、その時点では公平に見えますが、売却・建て替え・大規模修繕などに共有者全員の同意が必要になり、将来、次の世代の相続でさらに共有者が増えて collective に身動きが取れなくなることがあります。共有分割は一見「平等」ですが、問題を先送りにするだけのことが多く、可能な限り現物分割・代償分割・換価分割で「すっきり分ける」のが望ましいとされています。

もめる原因になりやすい論点――特別受益と寄与分

遺産分割でもっとも対立が起きやすいのが、特別受益寄与分という2つの論点でございます。どちらも「相続人どうしの実質的な公平」を図るための制度です。

特別受益――生前にもらった分を考慮する(民法第903条)

特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前に受けた特別な利益のことです。たとえば、住宅購入資金の援助、結婚資金、事業の開業資金などが該当しえます。これらを無視して遺産を分けると、生前に多くもらった人がさらに遺産も等分に受け取ることになり、不公平が生じます。

そこで、特別受益にあたる生前贈与などは、いったん遺産に持ち戻して各相続人の取り分を計算します(特別受益の持ち戻し)。これにより、生前にもらった分を考慮した実質的に公平な分割が実現します。「兄だけが家を建ててもらった」「妹だけが多額の援助を受けた」といった主張は、この特別受益をめぐる対立でございます。

寄与分――貢献した人に多く配分する(民法第904条の2)

寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人に、その貢献分を上乗せして配分する制度です。たとえば、長年にわたり親を介護した、家業を無償で手伝って財産を守った、などが該当しえます。

寄与分が認められると、その相続人は法定相続分に加えて寄与分を受け取れます。ただし、認められるためには「特別の」貢献であることが必要で、通常の親子の扶養の範囲とされる程度では認められにくいのが実情です。「自分は親の面倒を見たのだから多くもらって当然だ」という思いと、他の相続人の認識が食い違い、対立に発展しがちな論点でございます。

相続人以外の貢献――特別の寄与(2019年新設)

従来、寄与分を主張できるのは相続人に限られていました。そのため、たとえば「長男の妻」が義理の親を長年介護しても、長男の妻自身は相続人ではないため、何も受け取れないという不公平がありました。

この問題に対応するため、2019年7月施行の改正民法で特別の寄与の制度が新設されました(民法第1050条)。これにより、相続人以外の親族が、無償で被相続人の療養看護などを行い、財産の維持・増加に特別の貢献をした場合、その親族(特別寄与者)は、相続人に対して特別寄与料を金銭で請求できるようになりました。

「長男の嫁」の介護も報われる道がある

特別の寄与は、まさに「長男の妻が義父母を介護した」といったケースを救済するための制度でございます。ただし、請求するには期限があり、相続の開始および相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を経過すると請求できなくなります。該当する可能性がある方は、早めに専門家にご相談ください。なお、特別寄与料の金額や支払いについて協議が調わないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を申し立てることができます。

【2023年改正・要注意】10年を過ぎると特別受益・寄与分が主張できない

遺産分割をめぐって、近年もっとも重要な改正が、2023年4月1日に施行された「遺産分割の時的制限(10年ルール)」でございます(民法第904条の3)。これは、長期間放置された遺産分割を減らすために設けられたルールです。

相続開始から10年を過ぎると、特別受益・寄与分を主張できなくなる

原則として、相続開始(被相続人の死亡)の時から10年を経過した後に行う遺産分割では、特別受益や寄与分を考慮せず、法定相続分(または遺言による指定相続分)によって分割されることになりました。つまり、「兄は生前に多くもらっていた」「私は親を介護した」といった主張が、10年を過ぎると原則としてできなくなるのでございます。

なぜこのルールができたのか

遺産分割をせずに長期間放置すると、相続人がさらに亡くなって相続人の数が膨れ上がり(数次相続)、誰がどれだけ貢献したか・誰が何をもらったかという証拠も失われ、分割がますます困難になります。所有者不明土地の増加の一因にもなっていました。そこで、特別受益・寄与分という個別事情の主張に期限を設け、早期の遺産分割を促すことにしたのでございます。

注意したい経過措置

このルールは、2023年4月1日より前に発生した相続にも適用されます。ただし経過措置があり、施行時にすでに相続が開始していた場合などは、相続開始から10年が経過する時、または施行時(2023年4月1日)から5年が経過する時のいずれか遅い時までは、特別受益・寄与分を主張できます。いずれにしても、古い相続を抱えている方は、早めに遺産分割を進めることが重要でございます。

[「うちはまだ親の相続が終わっていない」方はお早めに]
何年も前に親が亡くなったまま、遺産分割をせずに放置しているご家庭は少なくありません。この10年ルールにより、放置を続けると、本来主張できたはずの特別受益や寄与分が主張できなくなり、思わぬ不利益を被るおそれがあります。心当たりのある方は、10年の期限が来る前に、ぜひ一度ご相談ください。

調停の申立て――費用・必要書類・期間の目安

遺産分割調停を申し立てる際の費用・書類・期間の目安を整理いたします。

費用

主な必要書類

期間の目安

遺産分割調停は、半年から1年以上かかることが一般的です。争点が多かったり、相続人の数が多かったりすると、さらに長期化します。審判まで進むと、解決まで数年に及ぶこともあります。「もめると時間も費用も大きくかかる」――これが、できる限り協議段階での解決や、生前の遺言による備えが望ましい理由でございます。

遺産分割前でも使える――預貯金の払い戻し制度

遺産分割がもめて長引くと、困るのが当面の資金でございます。被相続人の預貯金口座は、金融機関が死亡を把握した時点で凍結され、原則として遺産分割が確定するまで引き出せません。しかし、葬儀費用や当面の生活費、被相続人の債務の支払いなど、すぐにお金が必要になることがあります。

そこで2019年7月から、遺産分割が終わる前でも、各相続人が単独で一定額の預貯金を引き出せる「預貯金の払い戻し制度(仮払い制度)」が設けられました。引き出せる金額には上限があります。

単独で払い戻せる額(1金融機関あたり)
= 相続開始時の預貯金額 × 3分の1 × その相続人の法定相続分
 ※ ただし1金融機関につき上限150万円まで
根拠:民法第909条の2、法務省令

たとえば、ある銀行に1,200万円の預金があり、相続人が子2人(法定相続分は各2分の1)のケースでは、一人が単独で引き出せるのは「1,200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円」と計算されますが、上限150万円が適用され、150万円まで引き出せます。この制度を使えば、遺産分割でもめている最中でも、葬儀費用などの当座の資金を確保できます。なお、これを超える額が必要な場合は、家庭裁判所の判断による払い戻しの制度もございます。

遺産分割をめぐる7つの落とし穴

当センターのご相談現場で、実際によく見かける遺産分割をめぐる誤解と失敗を、7つに整理いたしました。

  1. 相続人を一人でも欠いて協議し、無効になる 遺産分割協議は相続人全員の参加が必須です。あとから別の相続人(前妻の子、認知された子など)が判明すると、協議はやり直しになります。まず戸籍で相続人を確定させることが出発点です。
  2. 「とりあえず共有」で問題を先送りする 不動産を共有にすると、売却・活用に全員の同意が必要になり、次の世代でさらに共有者が増えて collective に身動きが取れなくなります。可能な限り現物・代償・換価で分け切るのが鉄則です。
  3. 10年ルールを知らずに放置する 相続開始から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を原則主張できなくなります(2023年改正)。古い相続を放置していると、本来得られたはずの取り分を失うおそれがあります。
  4. 寄与分を過大に期待する 「親の面倒を見たのだから多くもらえる」と考えても、寄与分が認められるのは「特別の」貢献に限られ、通常の扶養の範囲では認められにくいのが実情です。期待と現実のギャップが対立を生みます。
  5. 感情的な対立をこじらせ、調停・審判まで突き進む 調停・審判は半年〜数年かかり、費用も精神的負担も大きくなります。「お金より気持ちの問題」でこじれるケースも多く、第三者を介した早期の冷静な話し合いが、結局はもっとも傷が浅く済みます。
  6. 長男の妻などの貢献を「特別の寄与」の期限切れで請求し損ねる 相続人以外の親族の貢献は特別寄与料として請求できますが、相続開始等を知ってから6か月という短い期限があります。該当する場合は早めの行動が必要です。
  7. 当面の資金がなく、葬儀費用などに困る 口座凍結で資金に困る場合は、預貯金の払い戻し制度(1金融機関150万円まで)が使えます。制度を知らずに、もめている間ずっと資金繰りに苦しむケースが見られます。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「実家の評価と介護の貢献をめぐって、きょうだいが対立したケース」

50代の長女Yさんからのご相談でございました。お母様が亡くなり、相続人は長女Yさんと弟さんのお二人。遺産は実家(評価額約3,000万円)と預貯金約1,000万円でした。Yさんは実家でお母様と同居し、晩年の10年近く介護を一手に担ってきました。一方、弟さんは遠方に住み、ほとんど実家に寄りつかなかったといいます。

Yさんは「自分は介護をしてきたのだから、実家は自分がもらい、預貯金も多めに受け取りたい」と考えていました。ところが弟さんは「法律どおり、きっちり半分ずつにしたい。実家も売って現金で分けよう」と主張し、話し合いは平行線に。Yさんは「実家を売られたら自分の住む場所がなくなる」と強く反発し、感情的な対立に発展してしまいました。

当センターでは提携の弁護士と連携し、まずYさんの介護が寄与分として評価できる可能性を整理しつつ、現実的な解決策として代償分割をご提案しました。すなわち、Yさんが実家を取得する代わりに、弟さんへ代償金を支払うという形です。Yさんには十分な現金がなかったため、預貯金をYさんが多めに取得し、不足分を分割で支払う案を組み立てました。最終的には家庭裁判所の調停を申し立て、調停委員を介した冷静な話し合いの結果、Yさんが実家に住み続けられる形で代償分割が成立いたしました。直接対決では決裂していたお二人も、調停という場で第三者を介したことで、互いに歩み寄ることができたのでございます。もめてしまっても、適切な手続きと専門家の関与で、納得のいく着地点は見つかる――その一例でございます。

― 私たちから一言 ―

「遺産分割の争いは、早く・冷静に・第三者を介して」

遺産分割のご相談で、私たちがいつも痛感するのは、相続の争いの本質は、お金そのものではなく「気持ち」にあるということです。「自分の苦労を認めてほしい」「あの人だけ得をするのは許せない」――そうした感情が、当事者だけの話し合いでは増幅し、引くに引けなくなってしまいます。仲の良かったきょうだいが、相続をきっかけに絶縁してしまう例を、私たちは数えきれないほど見てきました。

もし、すでにもめてしまっているなら、お伝えしたいことは3つです。一つ目は「早く動くこと」。2023年の改正で、相続開始から10年を過ぎると特別受益や寄与分が主張できなくなりました。放置は不利を招きます。二つ目は「冷静になること」。感情的な直接対決は事態を悪化させるだけです。三つ目は「第三者を介すること」。調停委員や専門家という中立の存在が入るだけで、不思議と冷静な話し合いができるようになります。

そして何より、もめる前の「備え」が一番です。遺言を残す、生前に家族で話し合っておく、財産を分けやすい形にしておく――こうした準備が、遺された家族を争いから守ります。当センターでは、提携の弁護士・司法書士・税理士と連携し、すでにもめてしまった案件の調停サポートから、もめないための生前対策まで、ワンストップでお手伝いしております。「家族で気まずくなる前に、第三者に相談したい」――そんな段階で結構です。どうぞお気軽にご相談くださいませ。お電話一本、LINEで結構でございます。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 遺産分割は「協議 → 調停 → 審判」の3段階。まず相続人全員の話し合い(協議)で決めるのが原則。
  • 協議が調わないときは家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる。調停委員2人が中立の立場で間に入り、非公開で話し合う。
  • 調停が不成立になると、自動的に審判へ移行し、裁判官が一切の事情を考慮して分割方法を決定する。
  • 遺産の分け方は現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の4種類。共有は将来の火種になりやすく、できるだけ避けたい。
  • もめる主な論点は特別受益(生前贈与の持ち戻し・民法第903条)と寄与分(特別の貢献・民法第904条の2)。
  • 相続人以外の親族の貢献は特別寄与料として請求できる(民法第1050条)。ただし相続開始等を知ってから6か月という短い期限がある。
  • 2023年改正で、相続開始から10年を過ぎると特別受益・寄与分を原則主張できなくなった(民法第904条の3)。古い相続は早めの分割を。
  • 調停は申立手数料1,200円から始められるが、解決まで半年〜数年かかることも。費用・時間・精神的負担は大きい。
  • 口座凍結中でも、預貯金の払い戻し制度で1金融機関150万円まで単独で引き出せる(民法第909条の2)。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。記事中の費用・金額は概算であり、実際の手続きや金額は事案・家庭裁判所の運用により変動いたします。実際のお手続きにあたっては、必ず弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。本記事の内容は2026年5月時点の法令・制度に基づきます。最新の情報をご確認ください。

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