相続登記は「自分でできる」――本人申請という選択肢

相続登記とは、土地や建物の所有者がお亡くなりになったときに、その不動産の名義(登記簿上の所有者)を、亡くなった方(被相続人)から相続人へ変更する手続きでございます。法務局(登記所)に申請して行います。

不動産登記の申請は、権利を取得する本人(相続人)が自分で行うのが原則です。司法書士は、本来ご本人が行うこの手続きを「代理人」として代わりに行う専門家であり、依頼するかどうかは任意でございます。つまり、相続登記は、相続人ご自身の手で申請することが法律上も当然に認められています。法務局のホームページにも、ご自身で申請するための申請書の様式や記載例が公開されております。

[この記事で扱う範囲]
本記事は、相続によって不動産の名義を変える「相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)」をご自身で行う方法に絞って解説いたします。売買や贈与による名義変更、会社の登記(商業登記)は手続きが異なります。また、相続登記が2024年4月から義務化された点については「相続登記の義務化、3年以内の申請義務・10万円以下の過料・相続人申告登記の完全ガイド」で詳しく扱っておりますので、あわせてご覧くださいませ。

全体は7つのステップで進みます

はじめに、ご自身で相続登記を行うときの全体像をつかんでおきましょう。大きく次の7ステップでございます。

  1. 相続人を確定する 被相続人の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人が誰かを漏れなく確定します。
  2. 対象の不動産を調べる 登記事項証明書・名寄帳などで、被相続人名義の不動産をすべて洗い出します。
  3. 遺産分割協議書を作成する 誰がどの不動産を相続するかを相続人全員で話し合い、書面にまとめます。
  4. 必要書類をそろえる 戸籍・住民票・印鑑証明書・評価証明書などを準備します。
  5. 登記申請書を作成する 法務局の様式に従って申請書を書きます。
  6. 登録免許税を計算して納める 評価額×0.4%を計算し、収入印紙等で納付します。
  7. 法務局へ申請する 管轄の法務局に、窓口・郵送・オンラインのいずれかで提出します。

自分でやるメリットと、向き・不向きの見極め方

ご自身で手続きをする最大のメリットは、司法書士への報酬がかからないことでございます。一方で、戸籍の収集や書類作成にはそれなりの手間と時間がかかります。まずは費用の違いを整理いたします。

項目自分で申請(本人申請)司法書士に依頼
登録免許税評価額×0.4%(必ずかかる)同左(必ずかかる)
戸籍・証明書の実費数千円〜(通数による)同左
司法書士報酬0円おおむね数万円〜十数万円(事案による)
手間・時間自分で行う(戸籍集め・書類作成)大幅に軽減できる

※司法書士報酬は事務所・不動産の数・難易度により幅があります。あくまで一般的な目安でございます。

自分でやりやすいケース

専門家に任せたほうが安心なケース

[迷ったら、まず現状確認から]
「自分でできそうか」を判断するには、まず登記事項証明書を取り寄せて名義の現状を確認するのが第一歩でございます。名義が被相続人ご本人になっていれば比較的シンプル、すでに亡くなった祖父母名義のままなら数次相続の可能性が高く、難易度が上がります。

【STEP1】相続人を確定する(戸籍の収集)

相続登記でもっとも手間がかかるのが、この戸籍の収集でございます。「誰が相続人なのか」を客観的に証明するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍をすべて集めます。

集める戸籍の種類

戸籍は、本籍地のある市区町村役場で取得します。結婚や転籍、戸籍の様式変更(改製)のたびに新しい戸籍が作られているため、古いものを順にさかのぼって取り寄せる必要があり、複数の市区町村に請求することも珍しくありません。

[2024年から戸籍集めがぐっと楽に]
2024年3月から「戸籍の広域交付」が始まりました。お近くの市区町村の窓口で、本籍地が遠方であっても、まとめて戸籍を請求できる制度です(ご本人・配偶者・直系の親子などが請求できます)。また、集めた戸籍をもとに「法定相続情報一覧図」を法務局で作っておくと、その写しが無料で何枚も交付され、相続登記だけでなく預貯金の解約などにも使えて便利でございます(詳しくは「相続で必要な戸籍の集め方と法定相続情報証明制度」をご覧ください)。

【STEP2】対象の不動産を調べる(名寄帳・登記事項証明書)

次に、被相続人が所有していた不動産をもれなく把握します。登記し忘れがあると、その不動産だけ名義が残り、後日もう一度手続きが必要になってしまいます。

[「地番」と「住所」は違います]
登記で使うのは、普段の住所(住居表示)ではなく「地番」「家屋番号」です。課税明細書や登記事項証明書、法務局の「ブルーマップ」で確認できます。申請書には必ずこの地番・家屋番号で記載します。

【STEP3】遺産分割協議書を作成する

遺言書がない場合、誰がどの不動産を相続するかを相続人全員で話し合って決めます。これが遺産分割協議です。合意した内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名し、実印で押印します(印鑑証明書を添付します)。

遺産分割協議書には、対象の不動産を登記事項証明書のとおり正確に(所在・地番・地目・地積、建物は家屋番号・種類・構造・床面積)記載することが大切です。書き方や無効になりやすい注意点は「遺産分割協議書の書き方、実印・必要書類・無効になる落とし穴」で詳しく解説しております。

[遺言書がある場合・法定相続分で登記する場合]
遺言書があり、その不動産を取得する人が指定されているなら、遺産分割協議は不要で、遺言書(自筆証書遺言は家庭裁判所の検認済みのもの、または法務局保管制度を利用したもの)が登記原因を証明する書類になります。また、相続人全員で法定相続分のとおり共有で登記する場合も、遺産分割協議書は不要です(ただし共有は将来の売却等で全員の関与が必要になる点に注意)。

【STEP4】必要書類をそろえる

もっとも一般的な「遺産分割協議によって特定の相続人が取得する」ケースで必要となる書類は、次のとおりでございます。

書類主な内容・取得先
被相続人の戸籍一式出生から死亡までの連続した戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(本籍地の市区町村)
被相続人の住民票の除票登記簿上の住所と被相続人の同一性を確認するため(または戸籍の附票)
相続人全員の戸籍謄抄本相続人が現在も生存していることの確認
不動産を取得する人の住民票新しい登記名義人となる相続人の住所証明
相続人全員の印鑑証明書遺産分割協議書に押した実印の証明
遺産分割協議書相続人全員が署名・実印で押印したもの
固定資産評価証明書登録免許税の計算に使用(市区町村。課税明細書で代える運用の地域もあり)
登記申請書法務局の様式に従って自分で作成
(任意)相続関係説明図提出すると戸籍類の原本を返してもらえる(原本還付)
[原本還付を活用しましょう]
戸籍や遺産分割協議書の原本は、コピーを添えて「原本還付」の手続きをすれば返却してもらえます。戸籍一式は他の手続き(預貯金・相続税など)にも使うため、原本還付か、前述の法定相続情報一覧図の活用がおすすめです。

【STEP5】登記申請書を作成する(記載例つき)

いよいよ申請書の作成です。様式や記載例は法務局のホームページで「不動産登記の申請書様式について」として公開されており、ケースに応じたひな型をダウンロードできます。ここでは、もっとも基本的な「遺産分割協議により、被相続人Aの不動産を相続人Bが取得する」場合の記載例をご紹介いたします。

登 記 申 請 書
登記の目的所有権移転
原因令和○年○月○日 相続 (被相続人Aの死亡日)
相続人(被相続人 A)
 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
 B ㊞ (連絡先電話番号を記載)
添付情報登記原因証明情報 住所証明情報
申請日・宛先令和○年○月○日申請 ○○法務局○○支局(御中)
課税価格金 ○,○○○,○○○円 (評価額。1,000円未満切り捨て)
登録免許税金 ○○,○○○円 (課税価格×4/1000。100円未満切り捨て)
不動産の表示【土地】所在・地番・地目・地積
【建物】所在・家屋番号・種類・構造・床面積
※登記事項証明書のとおり正確に記載。不動産番号を書くと表示を省略できます
※上記は遺産分割による単独取得の基本例です。遺言による場合・法定相続分による場合・複数の相続人で共有する場合は、記載(持分など)が変わります。実際の様式・記載例は必ず法務局ホームページの最新版をご確認ください。

作成のポイント

【STEP6】登録免許税を計算して納める

相続登記には登録免許税という税金がかかります。相続による所有権移転登記の税率は次のとおりです。

登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%
税率は1,000分の4。課税価格は評価額の1,000円未満を切り捨て、税額は100円未満を切り捨てます

たとえば固定資産税評価額が1,500万円の不動産であれば、登録免許税は1,500万円×0.4%=6万円です。土地・建物それぞれの評価額を合計して計算します。納付は、原則として税額分の収入印紙を申請書(または台紙)に貼って行います。

[免税措置が使えることがあります]
一定の要件を満たす土地(評価額が100万円以下の土地や、相続した人が登記しないうちに亡くなったケースなど)については、相続登記の登録免許税の免税措置が設けられています。適用期限は延長されてきておりますので、ご自身のケースで使えるかどうかは、申請前に管轄の法務局にご確認ください

【STEP7】法務局へ申請する・補正・完了

書類がそろったら、対象不動産を管轄する法務局へ提出します。管轄は、法務局ホームページの「管轄のご案内」で調べられます。提出先は不動産の所在地を管轄する法務局であり、ご自身の住所地ではない点にご注意ください。

3つの申請方法

方法特徴
窓口へ持参その場で形式的な確認をしてもらえる。補正も相談しやすく、初めての方に安心。
郵送平日に行けない方向け。書留など追跡できる方法で送付します。
オンライン専用ソフトの導入・電子署名など準備が煩雑で、本人申請では窓口・郵送が一般的です。

補正(不備の訂正)について

提出後、登記官が書類を審査します。記載ミスや添付書類の不足など軽微な不備があると、登記官から「補正」の連絡が入ります。窓口・郵送で申請した場合の補正は、原則として法務局へ出向いて行います(押印した印鑑が必要なことがあるので持参しましょう)。一定期間内に補正がされないと、申請は却下されてしまいますので、連絡には早めに対応します。

完了――登記識別情報を受け取る

審査が通ると、登記簿が書き換えられ、登記識別情報(権利証に代わるもの)登記完了証が交付されます。登記識別情報は、その不動産を将来売却・担保にするときに必要となる非常に重要な書類ですので、厳重に保管してください。受け取りは窓口・郵送のいずれかを申請書で選べます。これで相続登記は完了でございます。

自分でやるときの6つの落とし穴

ご自身で手続きをされる方が、実際につまずきやすいポイントを6つにまとめました。

  1. 戸籍の取り寄せもれ 「出生から死亡まで連続して」が原則です。途中の戸籍が1通でも抜けると相続人を証明できず、補正になります。広域交付や法定相続情報一覧図を活用して、もれなく集めましょう。
  2. 名義が祖父母のまま(数次相続)だった 登記簿を取ったら被相続人ではなく、さらに前の世代の名義だった――というケース。相続人が一気に増え、難易度が跳ね上がります。早めに専門家へ相談する判断も大切です。
  3. 地番・家屋番号を住所で書いてしまう 登記は地番・家屋番号で行います。住居表示(普段の住所)で書くと受け付けられません。課税明細書や登記事項証明書で正確に確認しましょう。
  4. 登録免許税の計算ミス・印紙の貼り忘れ 評価額の合算もれ、端数処理(課税価格は1,000円未満、税額は100円未満を切り捨て)の誤りが典型です。土地と建物の両方を忘れず計算します。
  5. 不動産の一部を登記し忘れる 私道の持分や、別の市区町村にある山林などを見落としがちです。名寄帳や所有不動産記録証明制度で全体を確認してください。
  6. 平日に動けず手続きが止まる 法務局・役所は平日日中が中心です。戸籍集めや補正対応で何度も足を運ぶことになり、忙しい方は途中で止まってしまうことも。郵送の活用や、難しいと感じた段階での専門家への切り替えも選択肢です。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「自分でやってみたが、戸籍集めで行き詰まった」

50代女性Kさんは、お母様が遺された自宅マンションの相続登記を「費用を抑えたいので自分でやってみよう」と決意されました。相続人はKさんとごきょうだいのお二人だけで、遺産分割の話し合いもすでについていたため、ご自身でも十分できそうなケースでございました。

ところが、いざ戸籍を集め始めると、お母様が若い頃に何度か転籍されており、古い戸籍が複数の県の役場に分かれていて、どこまでさかのぼればよいのか分からなくなってしまいました。郵送請求の書き方にも迷われ、手続きは数か月止まってしまったそうです。

当センターにご相談いただいた際は、まず戸籍の収集と法定相続情報一覧図の作成のポイントをお伝えし、ご自身で集めきれない部分のみ提携司法書士がサポートする形をご提案しました。Kさんは「全部を丸投げするのではなく、できるところは自分で、難しいところだけ手伝ってもらう進め方ができて助かった」とおっしゃっていました。ご自身でやるか・任せるかは、0か100かではなく、組み合わせて考えてよいのでございます。

― 私たちから一言 ―

「相続登記は、自分でできる手続きです。ただし"見極め"が肝心です」

相続登記は、本来ご本人が行える手続きでございます。相続人が少なく、話し合いがまとまっていて、不動産もシンプルなケースであれば、ご自身で申請して費用を大きく抑えることは十分に可能です。法務局の窓口でも、記載方法について丁寧に教えてもらえます。

一方で、私たちが現場で痛感するのは、「自分でできるかどうかの見極め」こそが最初の関門だということです。とりわけ、名義が祖父母の代のまま放置されていた数次相続や、相続人どうしの意見が割れているケースでは、ご自身だけで進めようとして時間と労力を費やした末に行き詰まる例が後を絶ちません。費用を惜しんで何年も塩漬けになるより、難しい部分だけ専門家を頼るほうが、結果的に早く・確実なこともございます。

当センターでは、「できるところはご自身で、難しいところはお任せ」という柔軟な進め方を大切にしております。まずは登記簿を取り寄せ、現状を一緒に確認するところからでも構いません。「自分でやってみたいが、これで合っているか不安」――そんなときこそ、お気軽にお声がけくださいませ。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 相続登記の申請は、相続人ご本人が行うのが原則(本人申請)。司法書士への依頼は任意であり、自分で申請すれば報酬を節約できる。
  • 手順は7ステップ。①相続人の確定(戸籍)②不動産の調査③遺産分割協議書④必要書類⑤登記申請書⑥登録免許税⑦法務局へ申請。
  • 戸籍は「出生から死亡まで連続して」集めるのが基本。2024年からの広域交付・法定相続情報一覧図で負担を軽減できる。
  • 申請書は法務局の様式・記載例を利用。登記の目的「所有権移転」、原因「○年○月○日相続」が基本形。
  • 登録免許税は固定資産税評価額×0.4%。課税価格は1,000円未満、税額は100円未満を切り捨て。免税措置の可否は法務局へ確認。
  • 提出先は「不動産の所在地」を管轄する法務局。窓口・郵送・オンラインから選べる。不備があれば補正の対応を。
  • 完了すると登記識別情報(権利証に代わるもの)が交付される。将来の売却等で必要なので厳重に保管。
  • 数次相続・相続人間の対立・複数管轄・時間不足のケースは、無理せず専門家の活用も検討を。「全部自分で」か「全部依頼」かの二択でなくてよい。

参考文献(一次情報)

※本記事は、相続登記をご自身で行う際の一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。記載例・必要書類は代表的なケースを示したもので、すべてのケースに当てはまるものではありません。実際のお手続きにあたっては、必ず管轄の法務局でご確認のうえ、判断に迷う場合は司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の内容は2026年6月時点の法令・制度に基づきます。最新の制度改正により取扱いが変わる場合がございますので、ご利用の際は最新情報をご確認ください。

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