債務控除とは――相続税の課税対象額を減らすしくみ

相続税は、亡くなった方(被相続人)から受け継いだ財産の価額を基準に計算されます。しかし、プラスの財産をそのまま課税対象とするのは実態に合いません。そこで、被相続人の借金など「マイナスの財産」に加え、葬式費用を相続財産の価額から差し引くことが認められています。これを債務控除といいます(相続税法13条・14条)。

課税価格 = 相続財産 - 債務 - 葬式費用
上記から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を差し引いた残額に相続税が課税されます。最新の数値は国税庁でご確認ください。

「債務」とは、借入金・未払いの医療費・未払いの税金(住民税・固定資産税など)・未払いの公共料金など、被相続人の債務で「確実と認められるもの」が対象です(相続税法14条1項)。これとは別枠で、葬式費用も課税価格から差し引くことができます(相続税法13条1項2号)。葬式費用は「被相続人の債務」ではありませんが、相続に伴って必然的に発生する費用として、政策的に控除が認められているのです。

なお、控除できる範囲については、国税庁のタックスアンサー No.4129(債務控除)に詳細が示されていますので、申告の際は最新情報をご確認ください。

葬式費用として控除できるものの一覧

国税庁の定めによれば、葬式に直接要した費用が債務控除の対象となります。具体的には以下のものが控除できます。

費用の種類 具体例
通夜・告別式の費用 葬儀社への支払い(式場使用料・棺・花祭壇・返礼品の費用等を含む葬儀一式費用)
火葬・埋葬・納骨の費用 火葬場への費用、骨壺、納骨堂への納骨費用(墓石・墓地の購入費は含まない)
遺体・遺骨の運搬費 病院から葬儀場・自宅への搬送費用、遺骨の帰送費用
寺院・僧侶等への費用 お布施、読経料、戒名料(法名料)、お礼として包む費用
会葬御礼費用 通夜・告別式の参列者に渡す会葬御礼品(通常必要と認められるもの)
死体の捜索・移送費用 遺体の捜索費用や搬送に要した費用

ポイントは「葬式に直接要した費用」という基準です。葬儀本体に不可欠な費用、遺体の搬送・安置・火葬・納骨に関する費用、宗教上の儀式(読経・戒名など)に要した費用が対象となります。領収書や支払いの記録を保管しておくことが大切です。

[お布施・戒名料の領収書について]
寺院・僧侶への支払いは、領収書が発行されないことも少なくありません。その場合は支出のメモ(日付・金額・支払先・支払者名)を作成しておくと申告時の根拠になります。金額の正確さが求められますので、後から思い出せるよう早めに記録することをお勧めします。

葬式費用として控除できないものの一覧

葬儀関連の支出であっても、以下のものは「葬式費用」として債務控除の対象にはなりません。申告時に混同しやすいため、しっかり確認しておきましょう。

控除できない費用 理由・補足
香典返しの費用 香典を受け取ったことへのお返しであり、葬式に直接要した費用ではないため控除不可
墓地・墓石の購入費 埋葬場所・石材の取得費用は葬式費用に含まれない(別途、相続税上は非課税財産にも含まれない点に注意)
仏壇・仏具の購入費 相続税法上「祭祀財産」として非課税財産に分類されるが、葬式費用としての控除は認められない
永代供養料 将来の管理・供養のための費用であり、葬式に直接要した費用とは認められない
初七日・四十九日などの法要費用 葬式終了後に別途行われる法要は、葬式の一部ではなく控除不可(葬儀と同日に行う繰り上げ初七日の扱いは要確認)
遺体の解剖費用 相続税法基本通達13-5により、遺体の解剖に要した費用は含まれないと明示されている
精進落としなどの飲食費 会葬御礼とは別に行う精進落とし(通夜振る舞い・精進落とし料理)は、原則として控除対象外

「繰り上げ初七日」の扱いに注意

近年は告別式当日に初七日の法要を行う「繰り上げ初七日」が一般化していますが、その費用が葬式費用に含まれるかどうかは、費用の内訳・請求方法によって判断が分かれる場合があります。葬儀社の請求書に一体として含まれているか、別途請求されているかなどによっても取り扱いが異なりますので、判断に迷う場合は所轄の税務署または税理士に確認することをお勧めします。

「対象か否か」が迷いやすい費用の判断基準

葬儀関連の費用の中には、控除できるかどうかが一見分かりにくいものがあります。判断の基準となるのは「葬式に直接要した費用かどうか」という点です。以下に迷いやすいケースをまとめます。

葬儀社への「一式料金」に含まれる諸費用

葬儀社が「葬儀一式費用」として一括請求する場合、その中に会葬御礼品代や返礼品代が含まれていることがあります。これらは通夜・告別式に直接要した費用として、一括して控除対象とする取り扱いが一般的です。ただし、香典返し分が明確に区分されている場合は、その部分は除きます。請求書の内訳をよく確認しましょう。

遠方からの搬送費用

病院から葬儀場・自宅への搬送費用、海外や遠方で亡くなった場合の遺体の移送費用は、遺体・遺骨の運搬費として控除できます。搬送に関する領収書は必ず保管してください。

火葬後の骨壺・骨箱の費用

骨壺・骨箱は火葬に伴い必要となるものであり、火葬・埋葬費用の一環として控除対象と考えられます。ただし、特別仕様の高額な骨壺については、「通常必要と認められる範囲」かどうかの判断が求められる場合もあります。

死亡広告(新聞の訃報掲載)の費用

新聞への訃報掲載費用は、実務では葬式費用に含める取り扱いが一般的ですが、規定上の明示はなく、金額や状況によっては確認が必要な場合もあります。疑問がある場合は税務署または税理士にご確認ください。

迷いやすい費用については、後から「なぜその金額を計上したか」を説明できるよう、領収書・メモ・支払いの根拠をきちんと残しておくことが最善策です。

債務控除できる人・できない人の要件

葬式費用の控除を受けられる人にも、一定の要件があります。全員が無条件に控除できるわけではありません。

控除できる人

原則として、相続人および包括受遺者が控除できます(相続税法13条1項)。包括受遺者とは、遺言で「財産の〇割を渡す」といった形で包括的に財産を受け取る人のことです。

相続放棄をした人の取り扱い

相続を放棄した人(相続放棄者)は、原則として被相続人の債務の控除を受けることができません(相続税法13条2項)。ただし、葬式費用については例外があります。相続放棄をした人が現実に葬式費用を負担した場合、その人に取得した財産(相続放棄後も受け取れる死亡保険金や死亡退職金など)があれば、その葬式費用を控除できる取り扱いとなっています。なお、取得財産がなければ控除の実益はありません。

制限納税義務者の取り扱い

日本国内に住所のない相続人(制限納税義務者)については、控除できる債務・葬式費用の範囲が、日本国内の財産に関するものに限定されます(相続税法13条2項)。海外在住の相続人が含まれる場合は、専門家に確認することをお勧めします。

葬式費用の控除は 誰が実際に支払ったか で判断する
相続財産から支払ったか、相続人が立て替えたかにかかわらず、実際に支出された葬式費用の合計額を控除できます。ただし、香典で賄われた部分は差し引く必要がある場合もあります(最新の解釈は国税庁でご確認ください)。

香典は相続税・所得税の対象になるのか

葬儀の際に受け取った香典については、別途、税務上の取り扱いが気になる方も多いかと思います。結論から申し上げると、社会通念上相当と認められる範囲の香典は、相続税・所得税のいずれの課税対象にもなりません

香典が非課税となる理由

香典は、亡くなった方の財産ではなく、遺族への弔慰・扶助を目的とした贈り物であり、葬儀費用の一部に充当されるものです。国税庁の見解においても、社会通念上相当な金額の香典は「贈与税・相続税の課税対象外」「所得税(一時所得等)の課税対象外」と扱われます。

「社会通念上相当な範囲」とは

香典金額が常識的な範囲(一般的な親族・知人関係に基づくもの)を超えて著しく高額である場合は、贈与税の対象となる可能性があります。ただし、一般的な葬儀の香典については課税の問題が生じることはほとんどありません。

[香典と葬式費用控除の関係]
葬式費用の控除額は、実際に支出した費用の合計額とするのが原則です。受け取った香典で葬式費用の一部を賄ったとしても、支出した費用の全額を控除できるのが一般的な実務の取り扱いですが、具体的な処理については、申告の際に所轄の税務署または担当税理士に確認することをお勧めします。

葬式費用の申告・証明に必要な書類と記載方法

葬式費用を債務控除として申告する際には、費用の根拠となる書類を適切に準備・保管することが重要です。税務調査が入った場合にも、書類があれば正確に説明できます。

準備すべき書類

相続税申告書への記載

葬式費用は、相続税申告書の「第13表 債務及び葬式費用の明細書」に記載します。費用の種類(通夜・告別式、火葬費用、お布施など)ごとに金額を記入し、支払先・支払年月日・負担した人の氏名も記載します。記載内容と領収書が一致するよう確認してください。

  1. 葬儀関連の支払いを一覧化する 葬儀社・寺院・火葬場など各支払い先ごとに、費用の種類・金額・日付を整理します。
  2. 控除できる費用・できない費用を分類する 本記事のリストを参考に、控除対象か否かを仕分けします。判断が難しいものは税理士に確認します。
  3. 第13表に記入し、申告書に添付する 控除対象の費用合計額を「葬式費用」欄に記入。領収書・支払いメモは申告後も5年間保管します。

葬儀費用と債務控除でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場でよく見かける、葬儀費用の債務控除をめぐる誤解と失敗を7つにまとめました。

  1. 香典返しの費用を葬式費用に含めてしまう 香典返しは葬式に直接要した費用ではないため控除できません。葬儀社の請求書に含まれている場合は、必ず除外してください。
  2. 墓石・仏壇の購入費を控除しようとする 墓地・墓石・仏壇・仏具の購入費は、葬式費用にも債務にも含まれません。相続税上は別途「祭祀財産(非課税)」の問題として整理します。
  3. 初七日・四十九日の法要費用を含めてしまう 葬式後に行う法要の費用は控除対象外です。繰り上げ初七日の費用については個別判断が必要です。
  4. お布施の金額を曖昧にしたまま申告する 領収書がなくても控除できますが、金額の根拠が必要です。支払い当日にメモを残しておく習慣をつけましょう。
  5. 相続放棄をした人が葬式費用を控除できないと思い込む 相続放棄者でも、現実に葬式費用を負担し、取得財産(死亡保険金など)がある場合は控除できる場合があります。
  6. 葬儀費用の領収書を処分してしまう 相続税の申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内)を過ぎた後も、税務調査に備えて5年間は保管してください。
  7. 遠方の搬送費用や死亡広告費用を見落とす 搬送費用は控除できる費用です。葬儀社以外への支払い(搬送業者・死亡広告など)も漏れなくリストアップしましょう。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「香典返しと墓石代を含めて申告してしまったケース」

お母様を亡くされたKさん(60代・長男)からのご相談でございました。Kさんはご自身で相続税の申告書類を作成しようとされており、葬儀社からの請求書と墓石業者への支払い、そして香典返しの費用をすべて「葬式費用」として第13表に記載していました。合計で約170万円を計上していましたが、その内訳をお聞きすると、香典返し費用が約25万円、墓石・墓地の準備費用が約60万円含まれており、合わせて85万円が本来控除できない費用でした。

当センターでは、実際に控除できる費用の整理をお手伝いし、葬儀社への支払い(通夜・告別式・火葬含む)約65万円、お寺へのお布施・戒名料約15万円、遺体搬送費用約5万円の合計約85万円が適正な控除額と整理しました。申告前に誤りが発覚したため、修正申告や加算税のリスクを回避できました。Kさんは「自分で調べただけでは、どこまで入れていいのか判断が難しかった。専門家に相談してよかった」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

「葬式費用の控除は、準備と確認が鍵」

葬儀費用の債務控除は、相続税の負担を正当に軽減できる大切な制度です。しかし「葬儀に関連する費用なら何でも引ける」という誤解が意外に多く、香典返し・墓石・法要費用を混入させてしまうケースが後を絶ちません。逆に、お布施や搬送費を「領収書がないから申告できない」と誤解して控除を見落とすケースもあります。

制度の正しい理解と書類の整備が、適正な申告の第一歩です。葬儀直後はご家族の心身ともに疲弊している時期ですが、支払いの記録・領収書・メモは早めに集め、一覧化しておくことを強くお勧めします。特にお布施など領収書が出ない費用は、支払い直後にメモを残す習慣が大切です。

当センターでは、相続税申告に向けた葬式費用の整理・確認から、税理士との連携による申告書作成サポートまで、幅広くお手伝いしております。「何が控除できるか分からない」「申告内容に自信がない」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 葬式費用(葬儀費用)は相続税の「債務控除」の対象となり、相続財産の価額から差し引いて課税対象額を減らせる(相続税法13条・14条)。
  • 控除できる費用:通夜・告別式の費用、火葬・埋葬・納骨の費用、遺体・遺骨の運搬費、お布施・読経料・戒名料、通常必要な会葬御礼など。
  • 控除できない費用:香典返し、墓石・墓地・仏壇仏具の購入費、永代供養料、初七日・四十九日等の法要費用、遺体の解剖費用など。
  • 控除できる人は相続人および包括受遺者。相続放棄者でも現実に葬式費用を負担し取得財産がある場合は控除できる扱い。
  • 香典は社会通念上相当な範囲であれば、相続税・所得税のいずれの対象にもならない。
  • 申告には「第13表 債務及び葬式費用の明細書」に費用の種類・金額・支払先を記載する。お布施など領収書のない費用も支払いメモで対応可。
  • 数値・細目の最新情報は国税庁タックスアンサー No.4129(債務控除)等で必ずご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。葬式費用として控除できる費用の範囲は、費用の内容・請求方法・個別の状況によって判断が異なることがあります。具体的な申告にあたっては、必ず担当の税理士または所轄の税務署にご確認ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。法令・税制は改正される場合がありますので、最新の国税庁の情報をご確認ください。

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