養子縁組とは――民法上の位置づけと普通養子・特別養子の違い

養子縁組とは、法律上の手続きによって親子関係を創設する制度です(民法792条以下)。生物学的なつながりがなくても、届出または審判によって、養親と養子の間に法律上の親子関係が生まれます。

養子縁組には普通養子縁組特別養子縁組の2種類があり、相続との関係でも違いが生じます。

区分 普通養子縁組 特別養子縁組
根拠条文 民法792条〜817条 民法817条の2〜817条の11
成立方法 養親・養子の合意+届出(養子が未成年の場合は家裁の許可も必要) 家庭裁判所の審判(6か月以上の試験養育期間が必要)
実親との関係 実親との親子関係は継続する(実親からの相続権も残る) 実親との親子関係は原則終了する
対象年齢 養親より年下であれば制限なし(成人でも可) 原則、申立て時に15歳未満(民法817条の5)
離縁 可能(協議または裁判) 原則不可(例外的な場合のみ家裁が審判)

相続税の節税目的で活用されるのは、主に普通養子縁組です。成人した子の配偶者(いわゆる嫁・婿)や孫を養子にするケースが典型例です。なお、民法上は養子にできる人数に制限はなく、何人でも養子にすることができます。ただし相続税法上の取り扱いは別途定められており、次の節で詳しく説明します。

[最新情報のご確認を]
養子縁組の要件・効果は民法・家事事件手続法によって規律されます。法令の詳細については、最新は法務省・e-Gov法令検索でご確認ください

養子の相続権――実子と同じ法定相続人として扱われる

民法上、養子は実子とまったく同じ扱いの法定相続人です(民法887条1項)。養子縁組が成立した後に養親が亡くなった場合、養子は第一順位の法定相続人として、実子と同じ相続分で遺産を取得します。

法定相続分のイメージ

たとえば、被相続人(父)が亡くなり、配偶者(母)と実子1人・養子1人が残った場合を考えます。

相続人 法定相続分 備考
配偶者(母) 1/2 常に相続人
実子 1/4 残りの1/2を実子・養子で均等に
養子 1/4 実子と同じ割合

このように、養子の法定相続分は実子と同じです。養子であることを理由に相続分が減ることはありません。

また、普通養子縁組の場合は実親との親子関係も残るため、実親が亡くなった場合にも実子として相続できます(養親・実親の双方から相続権を持つ)。この点は特別養子縁組(実親との関係が終了する)と大きく異なります。

養子は遺留分も持つ

法定相続人である養子には、遺留分(民法1042条)も認められます。遺言によって養子への相続を極端に少なくしようとしても、遺留分侵害額請求の対象になりますので、注意が必要です。

相続税法上の制限――法定相続人に算入できる養子の数

ここが養子縁組と相続税の核心部分です。民法上は養子の数に制限はありませんが、相続税の計算では「法定相続人の数」に算入できる養子の数に上限が設けられています(相続税法第15条2項)。

相続税法上の「法定相続人の数」に算入できる養子の数(相続税法15条2項)

  • 被相続人に実子がいる場合:養子は1人まで算入できる
  • 被相続人に実子がいない場合:養子は2人まで算入できる

「法定相続人の数」は、相続税の計算において以下の3か所に影響します。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人が1人増えると基礎控除が600万円増加します。
影響 1 相続税の基礎控除額
3,000万円+600万円×人数
影響 2 生命保険金の非課税枠
500万円×法定相続人の数
影響 3 死亡退職金の非課税枠
500万円×法定相続人の数

さらに、相続税の「総額の計算」(法定相続分に応じて仮に分けたとして計算する税額)にも人数が影響します。人数が増えると各人の取得分が少なくなり、累進税率による税負担が下がる効果があります。

ただし、養子を何人増やしてもこの「法定相続人の数」に算入できるのは上限の1人または2人だけです。それ以上に養子を増やしても、相続税の節税効果はそれ以上増えません

養子縁組の節税効果――基礎控除・非課税枠・税率への影響

では具体的にどれだけ節税効果があるのか、計算例で確認しましょう。

計算例:実子1人・養子1人のケース(遺産1億円)

被相続人:父(配偶者なし)、相続人:実子1人のみ → 養子を1人追加した場合を比較します。

条件 養子なし(相続人1人) 養子1人追加(相続人2人)
法定相続人の数 1人 2人(実子1人+養子1人)
基礎控除額 3,600万円
3,000万円+600万円×1
4,200万円
3,000万円+600万円×2
課税遺産総額
(遺産1億円の場合)
6,400万円 5,800万円

基礎控除だけでも600万円増加し、課税対象が減ります。さらに生命保険金・死亡退職金の非課税枠もそれぞれ500万円増えます。税率の累進効果と合わせると、実際の節税額は数十万円〜数百万円規模になることがあります(遺産規模や構成により大きく異なります)。

[試算はあくまで目安です]
実際の節税額は遺産の規模・構成、相続人の数、適用できる特例(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例など)によって大きく変わります。具体的な試算は必ず税理士にご相談ください。また、最新の税率・控除額は国税庁でご確認ください

相続税の総額計算における人数増加の効果

相続税は、まず「仮に法定相続分どおりに分けたとして」合計税額を計算し、それを実際の取得割合で按分します。法定相続人の数が増えると各人の仮取得分が少なくなり、累進税率が低い部分に分散されるため、合計税額が下がる効果があります。ただしこの効果も、算入できる養子の数の制限(1人または2人)の範囲に限られます。

制限を受けない養子――実子として扱われる3つのケース

相続税法第15条2項には、「算入できる養子の数の制限を受けない」例外があります。次のケースに該当する養子は、相続税の計算において実子として扱われ、1人・2人の上限にカウントされません(相続税法第15条3項)。

  1. 特別養子縁組によって養子になった者 家庭裁判所の審判によって成立する特別養子縁組(民法817条の2)の場合は、制限なしに実子と同様に扱われます。
  2. 配偶者の実子(連れ子)を養子にした場合 たとえば、再婚相手の連れ子を養子にした場合です。もともと配偶者の実子(被相続人にとっては血縁のない子)であるため、実子と同じ扱いとなります。
  3. 代襲相続人であって、被相続人の養子になっている者 子(親)が被相続人より先に亡くなり、孫が代襲相続人の地位にある場合に、その孫を養子にしているケースです。代襲相続人としての地位が既にあるため、実子として扱われます。

これらのケースに該当すれば、上限1人・2人の制限なしに「法定相続人の数」に算入できます。ただし、実際にどのケースに当たるかは個別事情によって異なりますので、最新情報は国税庁・税理士にご確認ください

孫を養子にする場合の注意点――相続税の2割加算と一代飛ばし

「孫を養子にして相続を一代飛ばし、相続税を一回分節約する」という戦略がよく語られます。確かに、通常は子→孫の順に二度かかる相続を、子に相続させずに孫(養子)に直接承継させることで、相続税を一回節約できる可能性があります。しかし、重要な注意点があります。

孫養子には相続税の2割加算(相続税法第18条)が適用される

被相続人の孫である養子(代襲相続人の地位にある場合を除く)が遺産を取得した場合、その相続税額に2割が上乗せされます(相続税法第18条)。一代飛ばしによるメリットを、この2割加算が部分的に打ち消します。

トータルで節税になるかどうかは、遺産の規模・構成・他の相続人との兼ね合いなどによって異なります。必ず税理士に試算を依頼してから判断してください

孫を養子にするその他の留意点

孫養子の活用は、相続税の専門家と十分に検討したうえで行うことが強く推奨されます。

養子縁組が税務上「否認」されるリスク

養子縁組を節税目的で行う場合、もう一つ重要な落とし穴があります。それが税務上の否認リスクです。

相続税法第63条は、「養子の数が不当に相続税を減少させるものと認められる場合には、税務署長はその養子の数を法定相続人の数に算入しないことができる」と定めています。

否認が問題になりやすい場面

[養子縁組は生活実態が伴うことが大前提]
養子縁組は本来、親子関係を創設する法制度です。節税のみを目的とした縁組は、税務署から否認されるリスクがあるだけでなく、家族間の人間関係にも深刻な影響を及ぼすことがあります。縁組を検討する際は、税務面だけでなく、家族全体の状況を慎重に考慮してください。

また、離縁(養子縁組の解消)が起きた場合、相続税の計算がさかのぼって変わる可能性もあります。養子縁組・離縁はその後の家族関係に長く影響する重大な選択であることを、常に念頭に置いてください。

養子縁組と相続でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で実際によくみられる、養子縁組と相続をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. 「養子を増やせばその分だけ節税できる」と思い込む 相続税法上、法定相続人の数に算入できる養子は「実子あり:1人、実子なし:2人」が上限(相続税法15条2項)。それ以上に養子を増やしても相続税の節税効果は増えません。
  2. 民法と相続税法の「養子の扱い」を混同する 民法上は養子の数に制限なし。しかし相続税の計算では算入できる人数に上限あり。「法的に有効な縁組」と「税務上の効果」は別の話です。
  3. 孫養子の2割加算を見落とす 孫を養子にすると一代飛ばしになりますが、その孫(代襲相続人でない場合)が取得した相続税額には2割が加算されます(相続税法18条)。節税効果と2割加算を必ず比較してください。
  4. 節税目的だけで縁組し、否認リスクを軽視する 専ら相続税節税目的の縁組は、税務上「不当な相続税の減少」とみなされ、算入が否認されるリスクがあります(相続税法63条)。親子関係の実態が伴う縁組であることが前提です。
  5. 離縁によるトラブルを想定していない 養子縁組後に家族関係が悪化し、離縁・遺留分問題・遺産分割争いに発展するケースがあります。縁組は一時の判断ではなく、長期的な家族関係を見据えて慎重に行ってください。
  6. 実親との相続権(普通養子縁組)を忘れる 普通養子縁組では実親との親子関係が継続します。養子は実親が亡くなった場合にも実子として相続権を持ちます。実親の遺産分割でも揉める可能性を念頭に置いてください。
  7. 生前に十分な話し合いをせず、遺族に混乱をもたらす 突然の養子縁組は、実子との感情的対立や遺産分割の複雑化を招きます。縁組前に家族間で十分に話し合い、遺言等と組み合わせて整理しておくことが大切です。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「孫を養子にして節税しようとしたが、2割加算で期待どおりにならなかったケース」

相続税対策を検討されていたTさん(70代・会社経営者)からのご相談でございました。Tさんには配偶者と実子2人がおり、孫(長男の子)が3人います。知人から「孫を養子にすれば一代飛ばしで相続税が節約できる」と聞き、孫を養子にすることを検討されていました。

当センターでご事情をお伺いしたうえで、提携の税理士と詳細を試算しました。Tさんには実子がいるため、孫養子1人までしか法定相続人の数に算入できません(相続税法15条2項1号)。さらに、孫養子が取得した財産には相続税の2割加算(相続税法18条)が適用されます。試算の結果、孫養子で期待できる基礎控除の増加(600万円)と非課税枠の増加(生命保険・退職金合計最大1,000万円)のメリットに対し、2割加算のデメリットが部分的に相殺されることが判明しました。

Tさんは最終的に、孫養子よりも生命保険の非課税枠活用・生前贈与・小規模宅地等の特例を組み合わせる方針に変更されました。「養子縁組の節税効果を過信していた。専門家に相談して本当に良かった」とおっしゃっていただきました。養子縁組は有効な対策の一つですが、他の手法との比較と正確な試算が欠かせません

― 私たちから一言 ―

「養子縁組は節税の一手段。しかし万能ではなく、人生の選択でもある」

養子縁組と相続税の関係は、「民法上の無制限」と「相続税法上の上限」という二層構造を理解しないと、誤った期待を持ちやすい領域です。実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人まで――この制限を知らずに「養子をたくさん作れば節税になる」と信じているケースが、今でも少なくありません。

一方で、制限の範囲内での養子縁組は、基礎控除の増加・生命保険や死亡退職金の非課税枠の拡大・相続税の総額計算における累進緩和という、正当な節税効果をもたらします。孫養子の2割加算や税務否認のリスクも踏まえながら、他の節税手法(生前贈与、生命保険、小規模宅地等の特例など)とセットで設計することが大切です。

そして忘れてはならないのは、養子縁組は法律上の親子関係を創設するという、人生と家族関係に関わる重大な選択だということです。節税効果だけを見て縁組し、後になって家族間の感情的対立や遺産分割問題に発展するケースも現実にあります。当センターでは、税務面の試算と並行して、ご家族の状況・将来の関係性・遺言との組み合わせまで総合的にお手伝いしております。養子縁組を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 養子は民法上、実子と同じ第一順位の法定相続人。法定相続分も実子と同じで、遺留分も認められる(民法887条)。民法上、縁組できる養子の数に制限はない。
  • 相続税法上は「法定相続人の数」に算入できる養子の数に上限あり(相続税法15条2項):実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで。
  • 「法定相続人の数」は基礎控除(3,000万円+600万円×人数)・生命保険金の非課税枠(500万円×人数)・死亡退職金の非課税枠(500万円×人数)・相続税の総額計算に影響する。
  • 実子として扱われ上限の制限を受けない養子は、①特別養子縁組による養子②配偶者の実子(連れ子)を養子にした者③代襲相続人である養子(相続税法15条3項)。
  • 孫を養子にすると相続を一代飛ばせるが、代襲相続人でない孫養子が取得した財産には相続税の2割加算(相続税法18条)が適用される。節税メリットと加算を必ず比較すること。
  • 専ら節税目的の縁組は「不当な相続税の減少」として養子の算入が否認されるリスクがある(相続税法63条)。生活実態が伴う縁組であることが大前提。
  • 養子縁組は節税効果だけでなく、家族関係・遺留分・離縁リスクも含めて総合的に検討すること。専門家(税理士・弁護士)への早期相談が不可欠。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。養子縁組の効果・節税額は遺産の規模・構成・相続人の状況によって大きく異なります。税務上の否認リスクや家族関係への影響も踏まえ、具体的な検討にあたっては必ず税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。法令・税制の詳細は最新の国税庁・法務省・e-Gov法令検索でご確認ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。法令・税制は改正される場合がありますのでご注意ください。

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