教育資金贈与の特例とは――制度の概要と非課税限度額

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(国税庁タックスアンサー No.4510)は、祖父母・父母などの直系尊属が、30歳未満の子・孫などに教育資金を一括贈与した場合に、受贈者1人当たり最大1,500万円まで贈与税を非課税にできる制度です。2013年(平成25年)4月に創設されました。

非課税限度額の内訳

用途 非課税限度額 主な対象
学校等への支払い 1,500万円まで 入学金・授業料・給食費・修学旅行費など学校に直接支払うもの
学校等以外への支払い 1,500万円のうち500万円まで 学習塾・習い事・通学定期代・留学渡航費など
非課税枠:学校等 最大1,500万円(うち塾・習い事等は500万円まで)
受贈者1人ごとの限度額。複数の祖父母からの贈与も合算して判定されます。

制度の主な要件(終了前)

この制度を使うと、祖父母が孫の教育費として多額の資金をまとめて出す際に、通常なら課される贈与税(累進課税)を回避できるため、富裕層を中心に相続対策としても広く活用されてきました。

2026年3月31日終了――令和8年度改正で「延長なし」が確定した経緯

教育資金贈与の特例は、創設以来2年刻みで延長が繰り返されてきましたが、令和8年度(2026年度)税制改正大綱において、延長しないことが明記されました。これにより、2026年(令和8年)3月31日をもって制度が終了し、同年4月1日以後は新規口座の開設も追加拠出(既存口座への入金)もできなくなっています。

終了が決まった背景

制度が延長されなかった理由として、税制改正の議論では以下のような点が指摘されていました。

2026年4月1日以降は新規拠出・追加拠出が一切できない

2026年4月1日以後に金融機関に教育資金口座を新設しようとしても、取り扱い自体ができません。また、2026年3月31日以前から口座を持っていた場合でも、同日以後の追加入金(拠出)はできません。詳細は最新の国税庁情報または金融機関の案内をご確認ください。

経過措置――2026年3月末までに拠出した資金はどうなるか

「すでに教育資金口座に拠出済みの資金は使えなくなってしまうのか?」という不安の声をよくお聞きします。これは大丈夫です。制度終了には経過措置が設けられており、2026年3月31日までに金融機関の教育資金口座へ拠出した資金は、引き続き非課税で教育費に充当できます

経過措置の主なポイント

ポイント 1 既存口座での教育費の払い出しは引き続き可能
ポイント 2 使い残しは受贈者30歳到達時等に贈与税が課される
ポイント 3 在学中・求職中等の例外要件は従来通り適用

使い残しが生じた場合の課税

既存口座の資金を教育費として使い切れずに残った場合は、下記のタイミングで残額に贈与税が課されます(最新の詳細は国税庁にご確認ください)。

[使い切れなかった残額への課税に注意]
教育費として使えなかった残額には、贈与税が課されます。残額が110万円(基礎控除)以内であれば税額ゼロになる場合もありますが、金額が大きい場合は申告・納税が必要です。詳細は、金融機関または最新の国税庁情報(タックスアンサー No.4510)でご確認ください。

贈与者が死亡した場合の相続税課税――2021年以降拠出分の取り扱い

教育資金口座に資金が残っている間に、贈与者(祖父母等)が亡くなった場合には、相続税の問題が生じる点に注意が必要です。この点は、2021年(令和3年)4月の法改正で取り扱いが変わっています。

2021年4月以降の拠出分に係るルール

2021年(令和3年)4月1日以後に拠出した金額については、贈与者の死亡時点での口座の管理残額(教育費として使われていない残額)が、原則として贈与者の相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。

受贈者の状況 相続税の取り扱い
受贈者が23歳未満 管理残額を相続財産に加算しない(相続税は課されない)
受贈者が在学中(学校等) 管理残額を相続財産に加算しない(相続税は課されない)
受贈者が23歳以上かつ在学中でない 管理残額を相続財産に加算(相続税の課税対象)

孫等が取得する場合は「相続税額の2割加算」の対象

管理残額が相続財産に加算された場合に、受贈者(孫など)がその財産を取得したものとみなされるときは、相続税額の2割加算の対象になります(一親等の血族や配偶者以外の者が財産を取得した場合に適用)。孫に一括贈与した口座の残額に対してこのルールが適用されると、通常の相続よりも相続税が割増しになる点に注意が必要です。最新の取り扱いは国税庁タックスアンサー No.4510 またはお近くの税務署でご確認ください。

終了後の代替手段①――扶養義務者の「都度贈与」で十分なケースも

教育資金贈与の特例が終了したからといって、祖父母から孫への教育資金の援助ができなくなるわけではありません。実は、特例を使わなくても非課税にできるルートがもともと存在します。それが「扶養義務者間の生活費・教育費の都度贈与」です。

扶養義務者が支払う教育費は、もともと贈与税が非課税(相続税法21条の3)

相続税法第21条の3第1項第2号は、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は贈与税を課さないと規定しています。

扶養義務者(親・祖父母等)が必要な都度支払う教育費 → 贈与税は非課税
相続税法21条の3に基づくルール。特例制度がなくても適用されます。

「都度贈与」が非課税になるための条件

[「一括」ではなく「都度」がポイント]
教育資金贈与の特例は「1,500万円を一括でまとめて渡せる」点が特長でしたが、都度贈与は「必要なときに必要な分だけ」支払う方式です。入学金・授業料・塾の月謝などを、発生のタイミングに合わせて振り込んだり手渡したりする方法が典型例です。手間はかかりますが、特例に頼らなくても非課税で教育費を援助できます。

都度贈与が対象となる主な教育費の例

「通常必要と認められる範囲」の解釈は状況によって異なります。高額な費用が生じる場合や、範囲が不明確な場合は、事前に税理士または税務署に相談することをおすすめします。

終了後の代替手段②――暦年贈与(110万円基礎控除)と相続時精算課税

都度贈与に加えて、相続対策の文脈では暦年贈与や相続時精算課税制度の活用も検討対象になります。それぞれの特徴と注意点を整理します。

暦年贈与(年間110万円の基礎控除)

贈与税には年間110万円の基礎控除があります(相続税法21条の5)。1月1日から12月31日の1年間に受け取った贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません(申告も不要)。

項目 内容
非課税枠 年間110万円(受贈者1人あたり)
贈与者の人数 複数の贈与者からの合計で判定(父から100万円・祖父から20万円なら合計120万円で10万円分が課税対象)
7年ルール 贈与者が死亡した場合、死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算(2024年1月改正)。詳細は生前贈与の「7年ルール」を参照
教育費との組み合わせ 都度贈与(非課税)と組み合わせることで、教育費以外の生活援助にも活用可能

相続時精算課税制度(2,500万円の特別控除+2024年から年110万円基礎控除)

相続時精算課税制度は、60歳以上の直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度で、2,500万円を超える部分に一律20%の贈与税がかかりますが、相続時に精算します。2024年(令和6年)の改正で、年間110万円の基礎控除が新設されました。詳細は相続時精算課税制度の完全ガイドをご覧ください。

[相続時精算課税の注意点:原則として撤回できない選択]
相続時精算課税を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年贈与の基礎控除(110万円)には戻れません(2024年以後は年110万円基礎控除が新設されていますが、暦年課税の110万円とは別物です)。また、贈与した財産は最終的に相続財産に持ち戻して相続税を計算します。相続税の節税効果は限定的になる場合もあり、選択前に必ず税理士に試算を依頼してください。

代替手段の比較まとめ

手段 上限・条件 相続税への影響 向いているケース
都度贈与(教育費・生活費) 通常必要と認められる範囲なら上限なし 原則なし(相続財産に加算されない) 実際に教育費が発生しているとき
暦年贈与(基礎控除) 年間110万円(受贈者1人あたり) 死亡前7年以内は加算(2024年改正) 毎年少額を継続的に贈与したいとき
相続時精算課税 特別控除2,500万円+年110万円基礎控除 原則として相続財産に加算 まとまった金額を先に渡したいとき

特例終了が相続対策全体に与える影響と今後の方針

教育資金贈与の特例の終了は、相続対策の「引き出しが一つ減った」ことを意味します。特に富裕層の相続対策においては、「孫への1,500万円の贈与税ゼロ」という手段が使えなくなった影響は小さくありません。一方で、整理すると以下のことが言えます。

「都度贈与」の再評価

もともと教育費を「必要な都度」扶養義務者が支払うことは贈与税非課税でした。特例制度は「一括してまとめて渡せる」という利便性を付加したものに過ぎません。実際に教育費を支払う局面では、都度贈与は制度を使う前と変わらず有効であり、多くの家庭では特例がなくても教育費の援助は問題なく続けられます。

相続税の節税手段としての位置づけ変化

特例は、孫への一括拠出で相続財産を効率的に圧縮する手段として機能していました。この手段がなくなった今、代替として考えられるのは次のとおりです。

注意:特定障害者への贈与非課税措置は別制度

「障害者扶養信託」など特定の障害者を対象とした贈与税の非課税措置は、教育資金贈与の特例とは別の制度であり、終了の対象ではありません。混同しないようご注意ください。

[結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置は?]
「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」(国税庁 No.4511)は、教育資金贈与の特例とは別制度です。この制度の適用期限等については、最新の国税庁情報でご確認ください。本記事は教育資金贈与の特例(No.4510)のみを対象としています。
よくある相談事例
※以下の事例は実際のご相談をもとにした架空のケースです。実在の個人・団体とは関係ありません。

「特例終了を知らず、2026年4月以降に口座への追加入金をしようとしたケース」

Sさん(60代・祖父)は、孫(大学1年生・18歳)のために2024年に教育資金口座を開設し、800万円を拠出していました。「2026年春から大学の授業料が値上がりするというニュースを見て、追加でもう200万円入れておこうと金融機関に連絡したところ、『2026年4月1日以降は追加拠出ができなくなりました』と言われてびっくりした」とのことでご相談いただきました。

当センターで状況を整理すると、Sさんが2024年に拠出した800万円は経過措置の対象であり、孫の教育費として引き続き非課税で払い出すことができます。今後の追加援助については、孫の大学授業料は「扶養義務者の都度贈与」として非課税で対応できることをご説明しました。授業料の振込タイミングに合わせて、学費を直接支払う方法に切り替えていただきました。

Sさんからは「特例が終わったことも、都度贈与という方法があることも知らなかった。相談して正解でした」とのお言葉をいただきました。制度が終了しても、教育費の援助方法はある――まず現状を整理することが大切です。

― 私たちから一言 ―

「制度が終わっても、教育費援助の手段はある。大切なのは正しい知識と早めの相談」

教育資金贈与の特例は2026年3月31日で終了しましたが、「祖父母が孫の教育費を負担したい」という思いを実現する方法がなくなったわけではありません。扶養義務者間での都度贈与は、もともと相続税法21条の3で非課税とされており、特例に頼らなくても教育費の援助はできます。

ただし、「都度」「通常必要と認められる範囲」という要件を正しく理解しないと、意図せず課税対象になるケースがあります。また、特例の既存口座に残高がある場合の管理残額の相続税課税(2021年4月以降の拠出分)や、受贈者が23歳以上で在学中でないときの取り扱いなど、個別の状況によって判断が変わる点も多くあります。

相続対策全体の視点からは、特例終了を機に贈与・相続のプランを見直す良い機会でもあります。暦年贈与の7年ルール、相続時精算課税の選択、生命保険の活用など、複数の手段を組み合わせて最適な対策を立てるためには、税理士や相続専門家との早期の相談が欠かせません。「いつかやろう」と思っていると、相続が起きてから慌てることになります。今の段階でご相談いただくことで、選択肢は格段に広がります。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

教育資金贈与の特例終了でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、教育資金贈与の特例終了をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 「2026年4月以降も追加入金できる」と思い込む 2026年4月1日以降は新規口座の開設も既存口座への追加拠出もできません。制度は完全に終了しています。金融機関への確認なしに入金しようとするとトラブルになります。
  2. 「既存口座の残高も全部課税される」と誤解して慌てる 2026年3月31日までに拠出した資金は経過措置の対象です。引き続き非課税で教育費に使えます。「制度が終わった=残高も没収」ではありません。
  3. 「都度贈与では金額が足りない」と諦める 都度贈与に金額上限はなく、「通常必要と認められる範囲」であれば非課税です。大学の授業料・留学費用なども対象になり得ます。「特例なしでは援助できない」は誤りです。
  4. 贈与者の死亡時の相続税課税(管理残額加算)を知らない 2021年4月以降の拠出分は、贈与者死亡時の管理残額が相続財産に加算される場合があります(受贈者が23歳以上で在学中でないケース等)。残高が多い場合は税理士に試算を依頼してください。
  5. 孫が取得した場合の「2割加算」を見落とす 管理残額が相続財産に加算され孫が取得したとみなされる場合、相続税額の2割加算の対象になります。通常の相続より税負担が増加する可能性があります。
  6. 使い残しへの贈与税を申告せずに放置する 口座の残高が使い切れず30歳到達等の終了事由が生じた場合、残額に贈与税が課されます。申告・納税を忘れると延滞税・無申告加算税が生じます。金融機関からの通知を見逃さないようにしましょう。
  7. 特例終了後も相続対策を「そのまま」続ける 特例を軸に組んでいた相続対策のプランは、終了を機に見直しが必要です。暦年贈与の7年ルール、相続時精算課税の選択可否、生命保険の活用など、代替手段の組み合わせを税理士と再検討してください。

この記事のまとめ

  • 教育資金贈与の特例(国税庁 No.4510)は、令和8年(2026年)3月31日をもって終了。2026年4月1日以後、新規口座の開設も追加拠出もできない。
  • 2026年3月31日までに拠出した資金は、経過措置により引き続き非課税で教育費に充当できる。使い残しは受贈者30歳到達時等に贈与税が課される。
  • 2021年4月以降の拠出分は、贈与者死亡時の管理残額が相続財産に加算される場合がある(受贈者23歳未満・在学中等は例外)。孫が取得する場合は相続税の2割加算に注意。
  • 特例終了後も、扶養義務者が「必要な都度」支払う教育費はもともと贈与税が非課税(相続税法21条の3)。「都度贈与」への切り替えで、多くのケースは対応可能。
  • 相続対策としては、暦年贈与(年110万円基礎控除)・相続時精算課税(2,500万円特別控除+年110万円基礎控除)・生命保険の非課税枠など代替手段の組み合わせを検討する。
  • いずれの手段も個別の状況によって最適解が異なる。早期に税理士・相続専門家に相談することが重要。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。教育資金贈与の特例に関するルール(経過措置・相続税課税・管理残額の取り扱い等)は、改正の経緯が複雑で個別の契約内容や受贈者の状況によって異なります。また、税制は随時改正される場合があります。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づいていますが、最新の情報は必ず国税庁タックスアンサー No.4510、金融機関の案内、または所轄の税務署・税理士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。具体的な贈与・相続対策の実施にあたっては、必ず専門家にご相談ください。

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