相続税は「現金一括納付」が原則――払えないときの選択肢
相続税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告と納付を行うのが原則です。そして納付は、金銭で一度に(一括で)納めるのが大前提となっています。期限までに納めないと、延滞税がかかることもあります。
ところが、相続財産の中身が自宅や農地などの不動産に偏っていて、現金や預貯金が少ない場合、相続税を一度に払えないことがあります。財産はあるのに「納税のための現金がない」という状態です。こうした人のために、法律は次の2つの救済策を用意しています。
② 物納=相続した財産そのもので納める
使える順序が決まっている
大切なのは、延納と物納を自由に選べるわけではない、ということです。原則は「まず金銭一括納付。それが難しければ延納。延納によっても難しければ物納」という順序です。物納は、延納によっても金銭で納めることが困難な場合に、はじめて認められる最後の手段という位置づけです。
延納とは――担保を提供して相続税を分割で納める
延納とは、相続税を一度に金銭で納めることが難しい場合に、担保を提供したうえで、何年かに分けて(年賦で)納める制度です(相続税法第38条)。いわば、税金の「分割払い」です。
延納はあくまで「困難な金額の範囲」で認められる
延納は、納めるべき相続税の全額について無条件に使えるわけではありません。手元の現金や、すぐに使えるお金で納められる分はまず納め、金銭で一度に納めることが困難な金額の範囲内で延納が認められます。「払えるお金があるのに、とりあえず全額を分割にする」ということはできません。
延納中は利子税がかかる
延納は税金の分割払いですので、延納している期間に応じて利子税(りしぜい)という利息に相当する負担が上乗せされます。分割で楽になる一方、トータルの負担は増えます。延納を選ぶ際は、利子税の負担も含めて、本当に分割が必要かを検討することが大切です。
延納の要件と申請の手続き
延納が認められるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。
| 延納の要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 税額が一定以上 | 相続税額が10万円を超えていること |
| ② 一括納付が困難 | 金銭で一度に納付することが困難な事由があり、その困難な金額の範囲内であること |
| ③ 担保の提供 | 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること(延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は担保が不要) |
| ④ 期限内の申請 | 納期限(または納付すべき日)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添えて税務署長に提出すること |
担保にできる財産
延納には原則として担保が必要です。担保にできるのは、国債・地方債、土地、建物、保証人の保証など、一定の財産に限られます。相続した不動産そのものを担保にすることもよく行われます。提供しようとする担保が適当でないと、税務署から変更を求められることがあります。
延納できる期間と延納利子税のしくみ
延納できる期間(何年に分けて納められるか)は、相続財産に占める不動産等の割合によって変わります。不動産の割合が高いほど、長い期間で分割できるしくみです。
不動産等の割合が高いほど、延納期間は長くなる
おおまかには、相続財産に占める不動産等の割合が高い場合ほど、不動産等に対応する相続税については長い延納期間が認められます。一般に、不動産等の割合が高いケースでは、不動産等に対応する税額について最長で20年という長い期間が設けられています。一方、不動産等以外(動産など)に対応する税額の延納期間は、これより短くなります。
↓
不動産等に対応する税額は長期の延納が可能
(最長20年)
物納とは――相続した財産そのもので相続税を納める
物納とは、延納によっても金銭で納めることが困難な場合に、相続した財産そのもの(不動産など)で相続税を納める制度です(相続税法第41条)。お金の代わりに「モノ」で納税する、例外的なしくみです。
物納が認められるのは「延納でも困難」なとき
物納は、いきなり選べるものではありません。金銭一括納付が困難で、かつ延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある場合に、その納付を困難とする金額を限度として認められます。つまり、現金一括も延納も難しい――という最後の段階で検討する制度です。
物納の収納価額は「相続税評価額」が原則
物納する財産が国に引き取られるときの価額(収納価額)は、原則として相続税の課税価格の計算の基礎となった価額(相続税評価額)です。市場で売った価格ではありません。そのため、評価額と実際に売れる金額との差によっては、売却して現金で納めたほうが有利な場合もあります。物納と売却のどちらが得かは、ケースごとに慎重な比較が必要です。財産の評価方法は相続財産の評価方法、土地・建物・株式・預貯金の評価額の出し方を完全ガイドをご覧ください。
物納できる財産の順位と「管理処分不適格財産」
物納に充てられる財産は、なんでもよいわけではありません。物納に充てることができる財産には順位があり、上位の財産があるときは、原則としてそれを優先して物納に充てます。
| 順位 | 物納に充てられる財産の例 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等 |
| 第2順位 | 非上場株式等 |
| 第3順位 | 動産 |
上位の順位の財産で物納できる場合は、原則として下位の順位の財産を物納に充てることはできません。たとえば、不動産(第1順位)があるのに、いきなり動産(第3順位)で物納する、ということはできないのが原則です。
物納に使えない財産――管理処分不適格財産
物納する財産は、国がその後に管理・処分(売却など)できることが前提です。そのため、国が管理・処分しにくい財産は「管理処分不適格財産」として物納に充てることができません。たとえば、次のような財産は物納に適さないとされています。
- 抵当権など担保権が設定されている不動産
- 境界が明らかでない土地、隣地との争いがある土地
- 権利関係について係争中(裁判中など)の財産
- 共有物である財産(共有者全員が持分を物納する場合などを除く)
また、これらに当たらなくても、他に物納に適した財産があるときは後回しにされる「物納劣後財産」という区分もあります。物納はこのように財産の状態が厳しく問われるため、希望すれば必ず使えるわけではありません。
延納から物納への切替え(特定物納制度)と申請の流れ
いったん延納を選んだものの、その後に事情が変わって分割払いを続けられなくなることがあります。そんなときのために、延納から物納へ切り替えられる「特定物納制度」が用意されています。
申告期限から10年以内なら物納に変更できる
延納の許可を受けた後に、資力の状況の変化などで延納を続けることが困難になった場合には、相続税の申告期限から10年以内に限り、まだ納めていない延納税額のうち納付が困難な部分について、物納に変更することができます。これを特定物納といいます。ただし、この場合の物納の収納価額は、原則として物納に変更する時点の価額になる点に注意が必要です。
- 納付方法を検討する まず金銭一括納付が可能かを確認し、難しければ延納、延納でも難しければ物納を検討します。専門家に試算してもらうのが安全です。
- 期限内に申請書を提出する 延納・物納のいずれも、納期限(または納付すべき日)までに申請書と必要書類(担保関係書類・物納手続関係書類など)を税務署へ提出します。
- 税務署の審査を受ける 担保が適当か、物納財産が要件を満たすかなどが審査されます。書類の補完を求められることもあります。
- 許可・納付(収納)を受ける 延納が許可されれば年賦で納付し、物納が許可されれば財産が国に収納されます。事情が変われば特定物納などの切替えも検討します。
「自宅と土地が相続財産のほとんど。現金で払えないケース」
Kさん(60代・女性)は、父の相続で自宅と複数の土地を引き継ぎました。相続税は1,000万円を超えると見込まれましたが、相続した現金・預貯金はわずかで、「とても一括では払えない」とご相談にいらっしゃいました。
当センターで提携税理士とともに状況を整理したところ、Kさんの場合、まず手元資金で納められる分を納め、残りについて延納(分割払い)を申請するのが現実的であることをご説明しました。相続財産に占める不動産の割合が高いため、不動産に対応する税額については長い期間で分割できる可能性があること、ただし延納期間中は利子税がかかることもあわせてお伝えしました。
Kさんは、一部の土地を売却して納税資金に充てることも検討されましたが、最終的にはご家族で残したい土地は延納で対応し、活用予定のない土地は売却して現金で納めるという形で整理されました。「物納という方法も知りましたが、評価額や手続きを比べて、わが家には延納と一部売却の組み合わせが合っていると分かり安心しました」とのお言葉をいただきました。納税方法は、財産の中身と将来の使い道を踏まえて選ぶことが大切です。
「『払えない』とあきらめる前に、納め方の選択肢を知ってほしい」
相続税のご相談で意外に多いのが、「財産は不動産ばかりで、納税のための現金がない」というお悩みです。相続税は原則として金銭で一括納付ですが、それが難しい場合に備えて、延納(分割払い)と物納(財産での納付)という制度が用意されています。「払えないから」とあきらめてしまう前に、まずはこうした選択肢があることを知っていただきたいと思います。
一方で、延納も物納も「払えないなら自由に選べる」ものではありません。延納には担保や期限内の申請が必要で、期間中は利子税がかかります。物納はさらにハードルが高く、延納でも難しいことが前提で、財産の順位や管理処分不適格財産といった細かい要件をクリアしなければなりません。物納の収納価額は相続税評価額が原則のため、売却して現金で納めたほうが有利なケースも少なくありません。どの方法が最も負担が軽いかは、財産の中身とご家族の希望によって変わります。
大切なのは、申告期限(10か月)までに納め方を決め、必要な申請を済ませることです。期限を過ぎると延納も物納も使えず、延滞税の負担が生じかねません。当センターでは、提携する税理士とともに、納税資金の見通しを早い段階で立て、延納・物納・売却などを比較しながら、最も無理のない納め方をご提案いたします。「相続税が払えそうにない」という段階で、どうぞお早めにご相談ください。
相続税の延納・物納でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、延納・物納をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 「払えないから自由に選べる」と思い込む 延納・物納には順序と要件があります。まず金銭一括、難しければ延納、それでも難しければ物納、という順番です。
- 申請期限(納期限)を過ぎてしまう 延納も物納も、納期限までに申請書を出してはじめて審査が始まります。期限を過ぎると使えず、延滞税の対象になりかねません。
- 延納の利子税を見落とす 延納は分割で楽になる反面、期間に応じて利子税がかかり、トータルの負担は増えます。総額で比べることが大切です。
- 担保の準備を後回しにする 延納には原則として担保が必要です。担保にできる財産や書類の準備に時間がかかるため、早めの着手が欠かせません。
- 物納の収納価額を市場価格と勘違いする 物納の収納価額は原則として相続税評価額です。売却して現金で納めたほうが有利なこともあり、必ず比較が必要です。
- 物納に出せない財産を当てにする 抵当権付き・境界不明・係争中などの財産は管理処分不適格財産として物納できません。財産の状態を事前に確認しましょう。
- 納税資金の検討を相続税の計算後に始める 「いくら税金がかかるか」だけでなく「どう納めるか」も同時に考えるべきです。納税資金の見通しは早いほど選択肢が広がります。
この記事のまとめ
- 相続税は申告期限(10か月以内)までに金銭で一括納付が原則。難しい場合の救済が延納(分割払い)と物納(財産での納付)。
- 使える順序は「金銭一括 → 延納 → 物納」。物納は延納でも困難なときの最後の手段。
- 延納の要件は、税額10万円超・一括納付が困難・担保の提供・期限内の申請。延納期間中は利子税がかかる。
- 延納期間は不動産等の割合が高いほど長く、最長20年。具体的な区分・年数・利子税率は国税庁の最新情報で要確認。
- 物納できる財産には順位(第1:不動産・上場株式等/第2:非上場株式等/第3:動産)があり、管理処分不適格財産は使えない。収納価額は原則相続税評価額。
- 延納から物納へは、申告期限から10年以内なら特定物納で切替え可能。納め方は早めに専門家と検討を。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索「相続税法」(第38条 延納/第41条・第42条 物納/第48条の2 特定物納) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 国税庁「No.4211 相続税の延納」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4211.htm
- 国税庁「No.4214 相続税の物納」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4214.htm
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