広い土地は路線価どおりでは高すぎる――制度の考え方
相続税で土地を評価するときは、原則として路線価(その道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額)に地積を掛けて計算します。この計算の基本は相続財産の評価方法で解説しているとおりです。
ところが、この路線価は「その地域の標準的な広さの宅地」を前提に決められています。ですから、500㎡、1,000㎡といった広い土地に、そのまま路線価を掛けてしまうと、実態より高い評価になってしまうのです。
なぜ広い土地は「単価が下がる」のか
広い土地は、そのままでは一戸建ての敷地としては大きすぎ、買い手が限られます。そこで実際には、分割して分譲することになりますが、そのときには敷地の中に道路を通したり、公園や広場を設けたりしなければならないことがあります。こうした部分は「潰れ地」と呼ばれ、宅地として売ることができません。さらに、造成工事の費用や、売り切るまでに時間がかかることによる負担もかかります。だから、広い土地は1㎡当たりで見ると単価が下がる――これが、この制度の根っこにある考え方です。
平成30年に生まれ変わった――旧「広大地の評価」との関係
実は、この「広い土地は評価を下げる」という考え方自体は、以前からありました。旧「広大地の評価」(旧・財産評価基本通達24-4)です。しかし、この旧制度は平成30年1月1日から廃止され、代わりに「地積規模の大きな宅地の評価」(財産評価基本通達20-2)が新設されました。
新:地積規模の大きな宅地の評価(通達20-2)
何が変わったのか――「判断が割れる」から「基準で決まる」へ
旧「広大地の評価」の最大の難点は、要件があいまいで、適用できるかどうかの判断が分かれやすかったことです。「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大か」「開発行為をするとしたら公共公益的施設用地の負担が必要か」といった評価が必要で、専門家の間でも見解が分かれ、税務署と争いになることも珍しくありませんでした。
そこで新制度では、面積・地区区分・都市計画の区域区分・用途地域・指定容積率といった、数字と区分で機械的に判定できる要件に整理されました。誰が判定してもおおむね同じ結論になるようにした、というのが改正の大きな趣旨です。
面積要件――三大都市圏は500㎡以上、それ以外は1,000㎡以上
まず出発点となるのが面積(地積)の要件です。ここは非常にシンプルです。
| 所在地 | 地積の要件 |
|---|---|
| 三大都市圏に所在する宅地 | 500㎡以上 |
| 三大都市圏以外の地域に所在する宅地 | 1,000㎡以上 |
この面積は、評価の単位となる「1画地」ごとに判定します。登記簿上の1筆ごとではありません。ここは間違えやすいところです。たとえば、3筆に分かれていても、一体として利用している宅地であれば1画地としてまとめて判定することになり、合計すれば要件を満たすということが起こり得ます。
対象外となる宅地――地区区分・市街化調整区域・工業専用地域・大規模工場用地・容積率
面積要件を満たしても、それだけでは使えません。次の条件に当てはまる宅地は、対象から外れるとされています。ここが実務で最もつまずきやすいところです。
①路線価地域では「普通商業・併用住宅地区」「普通住宅地区」だけが対象
路線価地域にある宅地の場合、対象となるのは路線価図に示された地区区分が「普通商業・併用住宅地区」または「普通住宅地区」であるものとされています。高度商業地区や繁華街地区、大工場地区といったほかの地区区分の宅地は対象外です。
②市街化調整区域に所在する宅地は原則対象外
市街化調整区域に所在する宅地は、原則として対象外とされています(都市計画法の規定により宅地分譲に係る開発行為ができる区域として一定のものは除かれます)。市街化調整区域はもともと市街化を抑制すべき区域であり、分譲を前提とした減額になじまないためです。
③用途地域が「工業専用地域」の宅地は対象外
都市計画法上の用途地域が工業専用地域とされている地域に所在する宅地も、対象外とされています。住宅を建てられない地域であり、やはり戸建て分譲を前提とした減額の趣旨に合わないからです。
④大規模工場用地は対象外
一団の工場用地の地積が5万㎡以上のものなど、財産評価基本通達22-2に定める「大規模工場用地」に該当する宅地も、対象外とされています。大規模工場用地には別の評価の定めが置かれているためです。
⑤指定容積率が高い宅地は対象外
そして見落としが多いのが容積率の要件です。
| 宅地の所在 | 対象外となる指定容積率 |
|---|---|
| 東京都の特別区に所在する宅地 | 300%以上の地域にあるもの |
| 上記以外の地域に所在する宅地 | 400%以上の地域にあるもの |
つまり、東京都の特別区(23区)では指定容積率300%以上、それ以外の地域では400%以上の宅地は、この評価を使えないということです。特別区だけ基準が厳しいのがポイントで、ここを取り違えると判定を誤ります。容積率が高い地域は、戸建て分譲よりもマンションなどの高度利用に向いており、広さによる単価の低下が起きにくい、という考え方によります。
要件の確認には、路線価図だけでなく「都市計画の資料」が要る
ここまでの要件からお分かりのとおり、この制度を使えるかどうかを判定するには、路線価図(地区区分)に加えて、市区町村の都市計画情報(区域区分・用途地域・指定容積率)を確認する必要があります。多くの市区町村では、都市計画情報をインターネットで公開しています。もっとも、個別の宅地がどの区分に当たるかの最終的な確認は、市区町村の都市計画担当課や税理士を通じて行うことをお勧めします。「たぶん普通住宅地区だろう」で申告してしまうのが、いちばん危ういのです。
規模格差補正率の計算式――(A×B+C)÷A×0.8
要件を満たした場合、どう計算するのか。使うのが規模格差補正率です。
=(A×B+C)÷ A × 0.8
そして、この補正率を、路線価に各種の画地補正(奥行価格補正など)を行ったうえで掛けていきます。
大切なのは、規模格差補正率が、奥行価格補正率などのほかの補正に「取って代わる」ものではないという点です。ほかの補正を行ったうえで、さらに掛けるものだとご理解ください。
B・C係数の表と、実際に計算してみる
B・Cの係数は、三大都市圏かどうかと地積の区分に応じて定められています。
三大都市圏に所在する宅地
| 地積 | B | C |
|---|---|---|
| 500㎡以上 1,000㎡未満 | 0.95 | 25 |
| 1,000㎡以上 3,000㎡未満 | 0.90 | 75 |
| 3,000㎡以上 5,000㎡未満 | 0.85 | 225 |
| 5,000㎡以上 | 0.80 | 475 |
三大都市圏以外の地域に所在する宅地
| 地積 | B | C |
|---|---|---|
| 1,000㎡以上 3,000㎡未満 | 0.90 | 100 |
| 3,000㎡以上 5,000㎡未満 | 0.85 | 250 |
| 5,000㎡以上 | 0.80 | 500 |
いずれも、普通商業・併用住宅地区および普通住宅地区に所在する宅地についての係数です。
計算例――三大都市圏・普通住宅地区・800㎡の宅地
実際に計算してみましょう。三大都市圏の普通住宅地区にある、地積800㎡、路線価20万円/㎡の宅地を例にとります(説明を簡単にするため、奥行価格補正率などの画地補正はすべて1.0とします)。
- B・C係数を選ぶ 三大都市圏で地積800㎡ですので、「500㎡以上1,000㎡未満」の区分にあたり、B=0.95、C=25を使います。
- 規模格差補正率を計算する (800×0.95+25)÷800×0.8 =(760+25)÷800×0.8 = 785÷800×0.8 = 0.98125×0.8 = 0.785。小数点以下第2位未満を切り捨てて、規模格差補正率は0.78となります。
- 評価額を計算する 20万円×1.0×0.78×800㎡ = 1億2,480万円。
- 補正がない場合と比べる この規定を使わなければ、20万円×800㎡ = 1億6,000万円。差額は3,520万円です。
評価額の差は3,520万円
評価額が3,520万円下がるのですから、相続税額への影響は決して小さくありません。適用できるかどうかを見落とすことは、それだけで大きな損につながり得ます。相続税がどう計算されるかの全体像は相続税の計算方法をご覧ください。
倍率地域の宅地と、判定でつまずきやすいところ
ここまで路線価地域を前提にご説明してきましたが、倍率地域(路線価が定められていない地域)に所在する宅地も、この評価の対象になり得ます。
倍率地域では、通常は固定資産税評価額×評価倍率で評価します。しかし、地積規模の大きな宅地に該当する場合には、その宅地が普通住宅地区に所在するものとして計算した価額と、通常の倍率方式による価額とを比較するといった、路線価地域とは異なる考え方が定められています。倍率地域の計算は特に間違えやすい部分ですので、必ず国税庁の資料を確認のうえ、税理士にご相談ください。
ほかの規定との関係
この評価は、小規模宅地等の特例とは別の制度で、要件を満たせば両方を適用できる場合があります。「どちらか一方しか使えない」と思い込む必要はありません。ただし適用関係は複雑ですので、必ず税理士にご確認ください。
また、マンション(居住用の区分所有財産)については、2024年から評価方法が見直されており、こちらは別の通達で扱われます。広い土地の減額はあくまで「宅地」の評価の話だとご理解ください。
「3筆に分かれた庭付きの実家、まとめて1画地と判定できたケース」
Tさん(60代・男性)は、三大都市圏にあるお父さまの自宅を相続されました。母屋の敷地に加えて、隣接する畑だった土地と物置の敷地が、登記上は3筆に分かれていました。それぞれの地積は約280㎡、約240㎡、約170㎡。Tさんは「どれも500㎡に届かないから、広い土地の減額は使えない」と考えて、当初はそのまま申告しようとされていました。
当センターから提携税理士におつなぎしたところ、この3筆は生前から一体として自宅の敷地として利用されており、評価の単位である「1画地」としてまとめて判定できることが確認されました。合計すると約690㎡となり、三大都市圏の500㎡以上という面積要件を満たします。地区区分は普通住宅地区、指定容積率も基準を下回っており、地積規模の大きな宅地の評価を適用できるという結論になりました。
結果として、評価額は当初の想定から大きく下がり、相続税の負担も軽くなりました。Tさんは「筆の数え方ひとつで、これほど変わるとは思いませんでした」とおっしゃっていました。面積要件は「筆」ではなく「画地」で見る――このことを知っているかどうかが、分かれ目になった事例です。
「広い土地こそ、評価を確かめてから申告を」
「うちは土地が広いから、相続税が心配で」というご相談をよく頂戴します。そんなとき、私たちが必ず確認するようお伝えしているのが、この「地積規模の大きな宅地の評価」を使えないかということです。三大都市圏で500㎡、それ以外の地域で1,000㎡――この面積に届いていれば、まず検討する価値があります。先ほどの試算のように、評価額が数千万円変わることもあるのですから、見落とすわけにはいきません。
とはいえ、この制度は面積さえ満たせば使えるという単純なものではありません。路線価図の地区区分、市街化調整区域かどうか、用途地域、そして指定容積率――特に容積率は、東京都の特別区だけ300%と基準が厳しいなど、細かい条件が積み重なっています。判定には都市計画の資料まで確認する必要があり、正直なところ、ご自身だけで完結させるのは簡単ではありません。
だからこそ、広い土地をお持ちなら、申告の前に必ず土地評価に詳しい税理士にご相談いただきたいと思います。当センターでは、提携する税理士・不動産の専門家と連携し、土地の評価の見直しから、遺産分割の進め方、申告まで、中立的な立場でお手伝いしております。「広いから高い」とあきらめてしまう前に、どうぞ一度ご相談ください。
地積規模の大きな宅地の評価でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、この評価をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 面積を「筆」ごとに見て、要件を満たさないと決めつける 判定は評価の単位である「1画地」ごとです。複数の筆を一体利用していれば、合計で要件を満たすことがあります。
- 「三大都市圏」を感覚で判断してしまう 該当する市町村は国税庁の一覧で定められており、市町村の一部のみが該当する場合もあります。500㎡か1,000㎡かで結論が変わります。
- 容積率の要件を見落とす 東京都の特別区は指定容積率300%以上、それ以外の地域は400%以上で対象外です。特別区だけ基準が厳しい点に注意が必要です。
- 地区区分を確認せずに適用してしまう 路線価地域で対象となるのは「普通商業・併用住宅地区」と「普通住宅地区」だけです。ほかの地区区分では使えません。
- 規模格差補正率をほかの補正の「代わり」に使ってしまう 奥行価格補正などを行ったうえで、さらに掛けるものです。置き換えではありません。
- 補正率の端数を四捨五入してしまう 規模格差補正率は小数点以下第2位未満を切り捨てます。0.785なら0.78です。
- 旧「広大地の評価」の知識のまま判断する 旧通達24-4は平成30年1月1日から廃止され、要件はまったく別のものに整理されました。古い情報での判断は禁物です。
この記事のまとめ
- 広い土地は、分譲時に道路や公園にする「潰れ地」が必要になるなどの理由で単価が下がる。これを評価に反映するのが「地積規模の大きな宅地の評価」(財産評価基本通達20-2)。
- 平成30年(2018年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した宅地から適用。旧「広大地の評価」(旧通達24-4)は同日から廃止された。
- 面積要件は、三大都市圏で500㎡以上、それ以外の地域で1,000㎡以上。判定は「筆」ではなく「1画地」ごとに行う。
- 路線価地域で対象となる地区区分は「普通商業・併用住宅地区」と「普通住宅地区」のみ。
- 市街化調整区域(一定のものを除く)、用途地域が工業専用地域の宅地、財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地は対象外。
- 指定容積率が、東京都の特別区では300%以上、それ以外の地域では400%以上の宅地は対象外。
- 規模格差補正率=(A×B+C)÷A×0.8(小数点以下第2位未満切捨て)。評価額=路線価×各種画地補正率×規模格差補正率×地積。
- 三大都市圏・普通住宅地区・800㎡・路線価20万円/㎡なら、補正率0.78で評価額1億2,480万円。適用しない場合の1億6,000万円と比べ3,520万円の差となる(画地補正を1.0とした試算)。
参考文献(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサー No.4609「地積規模の大きな宅地の評価」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4609.htm
- 国税庁「財産評価基本通達」(第20-2項 地積規模の大きな宅地の評価) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02.htm
- 国税庁「「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらまし(情報)」(平成29年10月・広大地の評価の見直し) https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/171005/index.htm
- 国税庁「路線価図・評価倍率表」 https://www.rosenka.nta.go.jp/
「広い土地だから相続税が高い」とあきらめる前に
地積規模の大きな宅地の評価が使えるか、評価単位はどう見るか、申告はどう進めるか――
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