取引相場のない株式とは――なぜ評価がこれほど難しいのか
取引相場のない株式とは、金融商品取引所に上場されておらず、気配相場等もない株式のことをいいます。日本の会社の圧倒的多数を占める中小企業の株式は、ほぼすべてこれにあたります。日常語では「非上場株式」「自社株」と呼ばれるものです。
相続税は、相続で取得した財産の「時価」に対して課税されます。上場株式であれば、取引所の終値などをもとに客観的な時価を求められます。ところが非上場株式には、その株を売り買いする市場がありません。売ろうにも買い手が見つからず、換金しにくいのに、相続税の計算のうえでは高額な財産として評価されてしまう――これが、中小企業オーナーの相続で最も深刻な問題を生む理由です。
根拠=財産評価基本通達 178〜189
そこで国税庁は、財産評価基本通達の中に「取引相場のない株式」の評価に関する一連の定めを置きました。おおまかな流れは、次の三段階です。
(同族株主等か否か)
(大・中・小の区分)
評価額を計算する
第一段階:誰が取得したか――同族株主等か否かで方式が分かれる(通達188)
意外に思われるかもしれませんが、非上場株式の評価では、同じ会社の同じ1株でも、それを取得した人が誰かによって評価額が大きく変わります。
理由は、株式の持つ意味が株主によって違うからです。会社を支配できるだけの株式を持つオーナー一族にとって、その株式は会社そのものを動かす力を意味します。一方、ごくわずかな株式しか持たない少数株主にとって、その株式から現実に得られる利益は配当を受け取ることにほぼ限られます。この違いを評価に反映させているのです。
| 取得した株主 | 評価方式 | 考え方 |
|---|---|---|
| 同族株主等 (会社を支配する側) |
原則的評価方式 類似業種比準方式/純資産価額方式/その併用方式 |
会社の資産・収益力そのものを反映して評価する |
| 同族株主以外の株主等 (少数株主) |
特例的評価方式 =配当還元方式 |
受け取れる配当を基準に評価する。一般に評価額は低くなる |
この振り分けを定めているのが財産評価基本通達188「同族株主以外の株主等が取得した株式」です。同通達は、配当還元方式によることができる株式を四つの類型に整理しています。たとえば「同族株主のいる会社で、同族株主以外の株主が取得した株式」、「同族株主のいる会社で、中心的な同族株主以外の同族株主のうち議決権割合が5%未満である者が取得した株式」、「同族株主のいない会社で、議決権割合の合計が15%未満のグループに属する株主が取得した株式」などです。
第二段階:会社の規模を区分する――大会社・中会社・小会社(通達178)
原則的評価方式によることになった場合、次に決めるのが会社の規模です。この区分を定めているのが財産評価基本通達178「取引相場のない株式の評価上の区分」です。
ここは実務で混乱しやすいところなので、はっきりさせておきます。「大会社・中会社・小会社の区分そのもの」を定めるのが通達178、「区分ごとにどの方式で評価するか」を定めるのが通達179です。二つは役割が違います。
区分に使う3つの要素
会社規模の判定には、次の3つの要素を使います。
- 従業員数――継続勤務従業員のほか、それ以外の従業員の労働時間の合計を年間1,800時間で除して算出した人数を加えて計算します。
- 総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)――直前期末の数値を用います。
- 直前期末以前1年間の取引金額――いわゆる売上高にあたるものです。
従業員数70人以上なら、それだけで「大会社」
通達178では、従業員数が70人以上の会社は、他の要素にかかわらず大会社とされています。従業員数が70人未満の場合に、はじめて総資産価額・従業員数による区分と、取引金額による区分とを比べ、いずれか上位の区分によって大会社・中会社・小会社のいずれかに判定します。
総資産価額と取引金額の具体的な金額基準は、卸売業・小売サービス業・それ以外の業種という業種区分ごとに、細かく段階が定められています。たとえば卸売業では総資産価額20億円以上(従業員数35人以下の会社を除く)などが大会社の基準とされていますが、金額基準は通達改正で見直されることがありますので、実際の判定にあたっては国税庁の最新の通達および評価明細書の様式でご確認ください。
第三段階:規模に応じた評価方式とLの割合(通達179)
会社規模が決まると、財産評価基本通達179「取引相場のない株式の評価の原則」によって、実際に用いる評価方式が決まります。
| 会社規模 | 原則的な評価方式 | 選択できる方式 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額によって評価 | 納税義務者の選択により、純資産価額によることもできる |
| 中会社 | 併用方式 類似業種比準価額×L + 純資産価額×(1−L) |
Lの割合は0.90・0.75・0.60のいずれか |
| 小会社 | 純資産価額によって評価 | 納税義務者の選択により、L=0.50として中会社の算式によることもできる |
類似業種比準価額 × L + 1株当たりの純資産価額 × (1−L)
Lの割合は、類似業種比準価額をどれだけの比重で使うかを示す数値です。会社の規模が大きいほど上場会社に近い性質を持つと考え、Lの値も大きくなります。中会社はさらに「中の大」「中の中」「中の小」に細分され、それぞれ0.90・0.75・0.60が対応するというのが実務上の一般的な整理です。
類似業種比準方式――同業の上場会社と比べて価額を出す(通達180)
類似業種比準方式は、財産評価基本通達180に定められた方法です。考え方は名前のとおりで、評価する会社と事業内容が類似する業種の上場会社の株価を出発点に、評価会社の実績を比べて価額を求めるというものです。
比べるのは、次の3つの要素です。
簿価純資産価額
評価会社のこれら3要素が、類似業種の上場会社の平均値に対してどのくらいの水準にあるかを比べ、その結果に類似業種の株価を掛け、さらに斟酌率を乗じて評価額を求めます。
| 会社規模 | 斟酌率 |
|---|---|
| 大会社 | 0.7 |
| 中会社 | 0.6 |
| 小会社 | 0.5 |
斟酌率は、非上場株式は上場株式に比べて自由に売買できない(換金性に劣る)ことなどを踏まえ、評価額を一定割合に抑えるための調整と理解されています。規模が小さいほど斟酌率も小さくなります。
純資産価額方式――いま会社を清算したらいくら残るか(通達185)
純資産価額方式は、財産評価基本通達185に定められた方法です。発想はシンプルで、いまこの会社を解散して、資産をすべて相続税評価額で売り、負債をすべて返したら、株主の手元にいくら残るかを計算します。
÷ 発行済株式数
「法人税額等相当額」の控除――令和8年4月1日以後は38%
ここで重要になるのが「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」の控除です。
会社が保有する資産を相続税評価額で評価し直すと、多くの場合、帳簿価額よりも高い金額になります(たとえば昔に安く買った土地が、いまは高く評価されるような場合です)。この差額を評価差額といいます。仮に本当に会社を清算してこれらの資産を売却すれば、その含み益に対して法人税等が課されるはずです。そこで、その分をあらかじめ差し引いて計算するのです。
控除割合は令和8年4月1日以後の課税時期から「38%」
この割合を具体的に定めているのは、通達185が引用する財産評価基本通達186-2「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」です。同通達は、令和8年3月25日付の改正(課評2-28)により、割合を37%から38%へ引き上げました。令和7年度税制改正で防衛特別法人税が創設されたことに伴う見直しです。適用は令和8年(2026年)4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価からとされていますので、同年3月31日以前に取得した財産は37%、4月1日以後に取得した財産は38%と、課税時期によって使い分けることになります。法人税率の水準にあわせて見直される性質の数値ですので、実際の計算にあたっては国税庁の最新の通達でご確認ください。
配当還元方式と特定の評価会社――少数株主の評価と例外の会社(通達188-2・189)
配当還元方式(通達188-2)
通達188によって特例的評価方式によることとされた少数株主の株式は、財産評価基本通達188-2の配当還元方式で評価します。会社の資産の中身ではなく、その株式から受け取れる配当を基準に価額を求める方法です。
× (1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
計算の基礎となる年配当金額は、直前期末以前2年間の年平均の配当金額をもとにします。このとき特別配当・記念配当など、将来にわたって毎期継続することが予想できない配当は除いて計算します。また、計算した年配当金額が2円50銭未満となる場合や無配の場合は、2円50銭として計算する旨が定められています。
配当還元方式による評価額は、原則的評価方式による評価額よりも大幅に低くなるのが一般的です。ただし、配当還元方式で計算した金額が原則的評価方式による価額を上回る場合には、原則的評価方式による価額によることとされています。
特定の評価会社(通達189)
会社の中には、事業を営んでいるというより資産の保有に近い実態を持つものがあります。こうした会社に、上場会社との比較を前提とする類似業種比準方式をそのまま当てはめると、実態からかけ離れた評価になってしまいます。そこで財産評価基本通達189「特定の評価会社の株式」は、次のような会社を別枠で扱い、原則として純資産価額方式によって評価することとしています。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 配当金額・利益金額・簿価純資産価額の3要素のうちいずれか2つがゼロであり、かつ、直前々期末を基準にして計算した場合にもいずれか2つ以上がゼロである会社 |
| 株式等保有特定会社 | 総資産価額に占める株式・出資・新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上である会社 |
| 土地保有特定会社 | 総資産価額に占める土地等の割合が高い会社。大会社は70%以上、中会社は90%以上が基準とされる |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業から3年未満の会社、または比準要素がすべてゼロの会社 |
| 開業前又は休業中の会社 | 営業を開始していない会社、休業中の会社 |
| 清算中の会社 | 清算手続中の会社 |
いずれも、類似業種比準方式が使えない(または使いにくい)ため、純資産価額方式などによるという点が共通しています。純資産価額方式は含み益がそのまま反映されるため、特定の評価会社に該当すると評価額が大きく上がることが少なくありません。判定基準の割合や小会社の取扱いなど細部は通達に定められていますので、該当のおそれがある場合は必ず税理士にご確認ください。
「換金できない自社株に、多額の相続税がかかると知って驚いたケース」
Nさん(50代・男性)は、お父さまが創業された製造業の会社を引き継ぐことになりました。相続財産は自宅のほか、お父さまが保有していたその会社の株式のほぼ全部。「上場していない会社の株だから、たいした値段はつかないだろう」とNさんは考えておられました。
ところが、提携税理士が財産評価基本通達に沿って試算したところ、会社は長年かけて土地と内部留保を積み上げており、純資産価額方式で計算すると相当に高い評価額になることが分かりました。しかも従業員数などから会社規模は中会社に区分され、併用方式で計算しても評価額はやはり高い水準でした。Nさんは「売れる株でもないのに、これほどの相続税がかかるのか」と言葉を失っておられました。
当センターでは、まず納税資金をどう確保するかを最優先に整理し、あわせて事業承継の視点から、事業承継税制の適用可能性、生命保険の活用、他の相続人との分け方などを提携専門家とともに検討しました。Nさんは最終的に必要な納税資金を確保でき、会社の株式を分散させずに承継することができました。非上場株式は「換金しにくいのに評価は高い」という性質を持つ――この事例は、それを早く知ることの大切さを示しています。
「自社株の評価は、相続が起きてからでは遅い」
中小企業のオーナーのご相続で、私たちが最も強くお伝えしているのが、この自社株の評価の問題です。ご本人もご家族も、「上場していないのだから、大した財産ではないだろう」と思っておられることが本当に多いのです。ところが実際に通達に沿って評価してみると、ご自宅よりもはるかに大きな財産になっていた、というケースは珍しくありません。
やっかいなのは、評価額は高いのに、その株式は簡単には売れないという点です。上場株式なら売って納税資金にできますが、非上場株式にはそもそも買い手がいません。会社を続けるつもりなら、なおのこと手放せません。「納税額は大きい、しかし換金できない」――ここに、中小企業の相続の最大の難しさがあります。
だからこそ、自社株の評価は、相続が起きてからではなく、元気なうちに一度きちんと試算しておくことをお勧めしています。いまの評価額がいくらなのか、会社規模の区分はどこなのか、特定の評価会社に該当していないか。それを知ってはじめて、事業承継税制を使うか、生命保険で納税資金を用意するか、株式を計画的に移していくか、といった対策が具体的に考えられるようになります。当センターでは提携する税理士と連携し、会社とご家族の双方を見渡したうえで、中立的な立場でご一緒に考えます。お心当たりのある方は、ぜひお早めにご相談ください。
非上場株式の評価でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、非上場株式の評価をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 「非上場だから価値はない」と思い込む 市場で売買できないことと、相続税評価額が低いことはまったく別です。長年利益を蓄えてきた会社ほど評価額は高くなりがちで、自宅を上回ることも珍しくありません。
- 会社規模の区分(通達178)と評価方式(通達179)を混同する 大会社・中会社・小会社の区分そのものを定めるのは通達178、その区分ごとにどの方式で評価するかを定めるのは通達179です。役割が異なります。
- 誰が取得しても同じ評価額だと考える 同じ株式でも、同族株主等が取得すれば原則的評価方式、少数株主が取得すれば配当還元方式となり、評価額は大きく変わり得ます(通達188)。
- 特定の評価会社に該当していることに気づかない 総資産に占める株式等の割合が50%以上なら株式等保有特定会社に該当し得ます。該当すると原則として純資産価額方式となり、評価額が大きく上がることがあります(通達189)。
- 法人税額等相当額の控除割合を古い数値のまま使う 評価差額に対する法人税額等相当額の控除割合(通達186-2)は、令和8年4月1日以後に取得した財産の評価から37%ではなく38%になりました。課税時期がいつかによって使い分ける必要があります。
- 納税資金の手当てを考えていない 非上場株式は換金しにくい財産です。評価額が高いほど納税額も大きくなりますので、生命保険や事業承継税制など、納税資金の準備を早めに検討する必要があります。
- 株式が相続人に分散してしまう 遺産分割で自社株が複数の相続人に分かれると、後継者の議決権が不足し、会社の意思決定が滞るおそれがあります。誰に承継させるかを生前に決めておくことが大切です。
この記事のまとめ
- 取引相場のない株式(非上場株式)の相続税評価は、財産評価基本通達178〜189に定められている。
- まず「誰が取得したか」で分かれる。同族株主等は原則的評価方式、同族株主以外の株主等は特例的評価方式=配当還元方式(通達188)。
- 会社規模(大会社・中会社・小会社)の区分そのものを定めるのは通達178。判定要素は従業員数・総資産価額・取引金額で、従業員数70人以上は大会社。
- 区分ごとの評価方式を定めるのは通達179。大会社は類似業種比準価額、中会社は類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L)、小会社は純資産価額が原則。Lは0.90・0.75・0.60。
- 類似業種比準方式(通達180)は、配当金額・利益金額・簿価純資産価額の3要素を同業の上場会社と比べる方法。斟酌率は大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5。
- 純資産価額方式(通達185)は、会社を清算したと仮定して計算する方法。評価差額に対する法人税額等相当額の控除割合を定めるのは通達186-2で、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価からは38%(同年3月31日以前は37%)。
- 配当還元方式(通達188-2)は、年配当金額÷10%×(1株当たりの資本金等の額÷50円)。年配当金額が2円50銭未満または無配の場合は2円50銭とする。
- 株式等保有特定会社(株式等の割合50%以上)などの特定の評価会社は通達189で別扱いとなり、原則として純資産価額方式で評価する。
参考文献(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
- 国税庁 財産評価基本通達(取引相場のない株式の評価は第8章「その他の財産」第1節「株式及び出資」。通達178〜189は下記目次の 08/02.htm 〜 08/05.htm) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 186-2「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」(純資産価額方式の控除割合) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm
- 国税庁「B2-1 取引相場のない株式(出資)の評価明細書」(様式・記載方法) https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/1470-01.htm
- 国税庁「財産評価関係 個別通達目次」(類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等を含む) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/zaisan.htm
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