飼い主に万一があったとき、ペットはどうなる――民法上は「物」として相続財産になる

家族の一員として暮らしてきたペットですが、法律の世界では、ペットは人(権利の主体)ではなく「物」として扱われます。民法85条は「物」を有体物と定め、86条は土地とその定着物を不動産、それ以外の物を動産としています。犬や猫などのペットは、この区分でいえば動産にあたります。

そのため、飼い主が亡くなると、ペットは預貯金や家財道具と同じように相続財産となり、相続人に引き継がれます(民法896条)。相続人が複数いれば、遺産分割で「誰がペットを引き取るか」を決めることになります。

問題は、相続人がペットを引き取れるとは限らないことです。

このような場合、ペットの行き場が決まらないまま、時間だけが過ぎてしまうことがあります。「誰かが何とかしてくれるだろう」では、ペットを守れない――これがペットの終活を考える出発点です。

[亡くなったときだけではありません]
ペットの行き場が問題になるのは、飼い主が亡くなったときだけではありません。急な入院や介護施設への入所、認知症の進行などで、飼い主が世話を続けられなくなる場面のほうが、実際には先に訪れることが多いものです。生前の備えは第6章で整理します。

ペットに財産は遺せない――だから「人」に託す仕組みが必要になる

「この子のために預金を遺したい」とお考えになる方は少なくありません。しかし、財産を受け取ることができるのは、人(自然人)か法人だけです。ペットは権利の主体ではないため、遺言で「愛犬○○に預金500万円を遺贈する」と書いても、ペットが財産を受け取ることはできません。

そこで、ペットの終活では、発想を切り替えて「ペットの世話をしてくれる人」に、飼育に必要な財産をあわせて託すことを考えます。代表的な方法は次の3つです。

方法しくみ主な特徴
負担付遺贈遺言で、ペットの世話を条件(負担)として財産を遺す遺言者がひとりで作れる。受遺者は放棄できる
負担付死因贈与生前に、引き受け手と「亡くなったら財産を贈る、その代わり世話をする」という契約を結ぶ相手の合意が前提。引き受けの意思を事前に確認できる
ペット信託飼育費を受託者に託し、契約で決めた飼育者に飼育費を渡してもらうお金の管理と世話を分けられる。生前から使える設計も可能

どの方法でも、もっとも大切なのは「誰に世話を頼むか」を決め、その人の了解を事前に得ておくことです。仕組みだけ整えても、引き受ける人がいなければペットは守れません。

方法1 負担付遺贈――遺言で「世話をすること」を条件に財産を遺す(民法1002条)

負担付遺贈とは、遺言で財産を遺す(遺贈する)際に、受け取る人(受遺者)に一定の義務(負担)を課すものです。ペットの終活では、たとえば次のような遺言を作ります。

[遺言の文例イメージ]
遺言者は、遺言者の飼い猫2匹(○○・△△)及び預金のうち金300万円を、友人Aに遺贈する。Aは、この遺贈を受ける負担として、上記2匹の猫をその生涯にわたり適切に飼養するものとする。
※文例は考え方を示すためのイメージです。実際の作成は、公正証書遺言にするなど専門家にご相談ください。

受遺者の責任は「もらった財産の範囲内」

民法1002条は、負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負うと定めています。つまり、受遺者は「受け取った財産の範囲で世話をすればよい」ということで、飼育費が遺贈された財産を大きく超えるような負担までは求められません。ペットの年齢や健康状態から、生涯の飼育費・医療費の見込みを考えて、遺贈する金額を決めることが大切です。

受遺者は「放棄」できる

遺贈は遺言者がひとりで決められる反面、受遺者は遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄することができます(民法986条)。遺言で一方的に指名しただけでは、「そんな話は聞いていない」と断られてしまうおそれがあります。負担付遺贈を使う場合でも、事前に受遺者となる方の了解を得ておくことが欠かせません。

世話をしてくれないときは「取消し」を請求できる

受遺者が財産だけを受け取り、ペットの世話をしない場合はどうなるのでしょうか。民法1027条は、受遺者が負担した義務を履行しないときは、相続人が相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求できると定めています。

もっとも、現実には相続人が受遺者の飼育状況を見守り続けるのは簡単ではありません。そこで、遺言執行者を指定し、引き渡しまでを確実に行ってもらうことも検討に値します(遺言執行者の記事)。負担付遺贈の一般的なしくみは負担付遺贈の記事で詳しく解説しています。

方法2 負担付死因贈与――生前に引き受け手と「契約」しておく(民法553条・554条)

死因贈与とは、「私が亡くなったら、この財産をあなたに贈る」という、贈与者の死亡によって効力が生じる贈与契約です。遺贈が遺言者の単独の意思表示であるのに対し、死因贈与は贈る側と受け取る側の合意(契約)で成立します。

これに「ペットの世話をする」という負担をつけたものが負担付死因贈与です。負担付贈与には双務契約に関する規定が準用され(民法553条)、死因贈与には、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されます(民法554条)。

負担付死因贈与のメリット――引き受けの意思を事前に確認できる

契約である以上、引き受け手が内容を理解し、同意したうえで成立します。「亡くなった後に断られる」という負担付遺贈の弱点を補えるのが、最大のメリットです。契約書は、後日の争いを防ぐため公正証書で作成しておくと安心です。

撤回できるか――最高裁昭和57年4月30日判決

死因贈与は遺贈の規定が準用されるため、原則として贈与者が撤回できると考えられています。ただし、最高裁昭和57年4月30日判決は、負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与で、受贈者が負担の全部またはそれに類する程度の履行をした場合には、特段の事情がない限り、遺言の撤回に関する規定(民法1022条・1023条)は準用されないと判断しました。

たとえば、飼い主の生前から引き受け手が定期的に世話や通院の付き添いをしているような設計では、この判例の考え方が関わってくる可能性があります。どこまでが「負担の履行」にあたるかは事案ごとの判断になりますので、契約内容は専門家と相談のうえで決めてください。遺贈と死因贈与の違いは遺贈と死因贈与の記事でも整理しています。

方法3 ペット信託(民事信託)――飼育費を分けて管理し、確実に届ける

「ペット信託」は法律上の用語ではなく、信託法にもとづく信託(民事信託)をペットの飼育のために使う設計の通称です。おおまかな形は次のとおりです。

ペット信託の特徴は、「お金を管理する人」と「世話をする人」を分けられる点です。飼育者にまとまったお金を一度に渡すのではなく、受託者が必要な飼育費を定期的に渡す形にすることで、財産がペットのために使われる仕組みを作りやすくなります。また、信託の設計によっては、飼い主が入院・施設入所した段階から使えるようにすることも可能です。

信託契約では、ペットが亡くなった後に残った財産を誰に帰属させるか(残余財産の帰属)や、受託者・飼育者が役目を果たせなくなったときの交代なども決めておく必要があります。設計の自由度が高い反面、契約書の作成費用や、継続的な管理の手間がかかる点には注意が必要です。信託の基本的なしくみは家族信託の記事をご覧ください。

「ペット信託」という名前の商品は、中身をよく確かめてください

民間には「ペット信託」「ペットのための安心プラン」など、さまざまな名称のサービスがあります。信託法にもとづく信託なのか、単なる飼育の預託契約・保険・会員制サービスなのかは、名称だけでは分かりません。誰が財産を管理するのか、飼育先はどこか、途中で事業者が立ち行かなくなったらどうなるのかを、契約前に必ず確認しましょう。

生前の備え――入院・施設入所への備え、飼育情報の引継ぎ、終生飼養の努力義務

飼い主には「終生飼養」の努力義務がある

動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)7条は、動物の所有者の責務を定めており、その4項(平成24年改正で追加、平成25年9月1日施行)で、所有者は、動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(終生飼養)に努めなければならないとされています。これは努力義務ですが、裏を返せば、自分が飼えなくなったときに備えて、適切に飼養が続くよう準備しておくことも、飼い主の大切な役割といえます。

まず「緊急時の預け先」を決めておく

亡くなった後の仕組みづくりと同じくらい大切なのが、急な入院などのときに、すぐにペットを預けられる先です。次のような準備をしておくと安心です。

「飼育情報」を書き残しておく

引き受けてくれる人が困らないよう、ペットの名前・年齢・種類、食事の内容と量、持病と服薬、ワクチン接種歴、かかりつけ医、性格や苦手なことなどを書き残しておきましょう。エンディングノートに「ペットのページ」を作るのも良い方法です。犬・猫にマイクロチップが装着されている場合は、所有者が変わったときに環境省の登録制度で変更の手続きが必要になる点もメモしておくと親切です。

おひとりさまは、とくに早めの準備を

相続人がいない、または相続人と疎遠なおひとりさまの場合、飼い主が亡くなった後にペットの引き取りを判断する人がいない状態になりかねません。遺言・死因贈与・信託のいずれかで引き受け手と財産の行き先をはっきり決めておくことが、ペットを守るための有効な方法です(おひとりさまの相続の記事)。

税金の考え方――ペットの評価と、負担付遺贈の課税価格(相続税法基本通達11の2-7)

ペットそのものの評価

ペットは相続財産ですから、理屈のうえでは相続税の課税対象になります。もっとも、一般の家庭で飼われている犬や猫は、動産として評価され、通常は大きな金額にならないことが多いでしょう。ただし、血統や繁殖用などで取引価格がある動物は、個別に評価が必要になる場合があります。

負担付遺贈を受けた人の課税価格

負担付遺贈で財産を受け取った人の相続税の計算では、相続税法基本通達11の2-7により、負担がないものとした場合の財産の価額から、負担額(遺贈のあった時において確実と認められる金額に限る。)を控除した価額で課税価格を計算します。

ペットの飼育という負担は、将来どれだけの費用がかかるかが確定していないことが多く、「確実と認められる金額」をどう考えるかは個別の判断になります。控除できるかどうか、いくら控除できるかは、税理士や税務署に確認してください。

相続人以外が受け取るときの注意

友人や知人など、一親等の血族・配偶者以外の人が遺贈で財産を取得し、相続税がかかる場合は、その人の相続税額が2割加算されます(相続税法18条。2割加算の記事)。遺産全体が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば相続税はかかりませんが、遺産が多い方は、引き受け手に思わぬ税負担が生じないかを事前に確認しておきましょう。最新の取扱いは国税庁でご確認ください。

ペットの終活でよくある7つの落とし穴

  1. ペットに直接財産を遺す遺言を書く ペットは民法上「物」で、財産を受け取ることができません。世話をする人に託す形にします。
  2. 引き受け手の了解を得ずに遺言を書く 受遺者は遺贈を放棄できます(民法986条)。事前の了解が不可欠です。
  3. 飼育費の見込みを考えずに金額を決める 受遺者の責任は遺贈された財産の範囲内です(民法1002条)。生涯の飼育費・医療費を見込みましょう。
  4. 引き受け手が先に亡くなる場合を想定していない 引き受け手の病気・死亡に備え、第二候補を決めておくと安心です。
  5. 入院・施設入所のときの備えがない 亡くなる前に世話ができなくなる場面のほうが先に来がちです。緊急時の預け先を決めておきます。
  6. 飼育情報を誰にも伝えていない 食事・持病・かかりつけ医などが分からないと、引き受け手が困ります。書き残しておきましょう。
  7. サービスの名称だけで契約する 「ペット信託」等の名称でも、中身は信託・預託・保険などさまざまです。財産の管理者と飼育先を確認します。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「猫たちを、姪に託したい」――Kさまのご相談

Kさま(70代)はご主人を亡くされ、猫2匹と暮らしていらっしゃいます。お子さまはおらず、相続人はご兄弟とその子(甥・姪)です。Kさまは「遺言に『猫に預金を遺す』と書けばよいと思っていたのですが、それではだめなのですね」とご相談に来られました。

私からは、「猫に財産を遺すことはできませんので、猫の世話をお願いする方に、飼育費とあわせて託す形を考えましょう。まずは、引き受けてくださる方に直接お話しして、了解を得ることが第一歩です」とお伝えしました。

Kさまが猫好きの姪御さんに相談したところ、快く引き受けてくださることになりました。そこで、姪御さんへの負担付遺贈を内容とする公正証書遺言を作成し、遺言執行者も指定しました。あわせて、急な入院のときは姪御さんに預けることを決め、合鍵と飼育メモを渡されました。Kさまは「遺言を作ったことより、姪と話ができたことで安心しました」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

仕組みより先に、「この子を頼める人」と話をしておく

ペットの終活のご相談では、「どの方法がいちばん良いですか」と聞かれることがよくあります。負担付遺贈、負担付死因贈与、ペット信託には、それぞれに長所と短所があり、ご事情によって向き不向きがあります。

ただ、どの方法を選ぶにしても、いちばん大切なのは「引き受けてくれる人」との話し合いです。法律の仕組みは、その約束を確実にするための道具にすぎません。引き受け手が見つからない場合には、譲渡先を探す団体や施設を調べておくなど、選択肢を広げておくことも必要です。

私たちは、ご事情を伺いながら論点を整理し、必要に応じて弁護士・司法書士・税理士・行政書士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • ペットは民法上「物」(動産)として扱われ(民法85条・86条)、飼い主が亡くなると相続財産になります。ペットに財産を遺すことはできません。
  • ペットを守るには、世話をしてくれる人に飼育費とあわせて託す仕組みを作ります。最初の一歩は引き受け手の了解です。
  • 負担付遺贈は遺言でひとりで作れますが、受遺者は放棄できます(民法986条)。責任は遺贈の目的の価額の範囲内(民法1002条)、不履行なら相続人が家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。
  • 負担付死因贈与は引き受け手との契約(民法553条・554条)。生前に負担が履行された場合の撤回には最判昭和57年4月30日の考え方が関わります。
  • ペット信託は、お金の管理と世話を分けられる設計。名称だけのサービスとの違いに注意します。
  • 動物愛護管理法7条の終生飼養の努力義務を踏まえ、入院時の預け先・飼育情報も準備を。負担付遺贈の課税価格は相続税法基本通達11の2-7で計算します。最新の取扱いは国税庁・e-Gov法令検索でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、特定の遺言・契約・信託の有効性や、相続税の計算結果を保証するものではありません。負担付遺贈・負担付死因贈与・信託の設計、負担額の控除の可否、撤回の可否などは、契約や遺言の内容、財産の状況、関係者の事情などによって異なります。本文中の条文・通達の引用は、読みやすさのために一部を省略し、要旨として示した箇所があります。本記事の内容は2026年10月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず法務省、国税庁、e-Gov法令検索で最新の内容をご確認のうえ、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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