税額控除とは――課税価格の控除との決定的な違い

相続税の計算で「控除」という言葉が出てくるとき、二種類の「控除」が存在することを、まず押さえてください。

種類 差し引くタイミング 代表例
課税価格の控除 遺産総額から差し引いて「課税遺産総額」を求める 基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)、債務控除、葬式費用 など
税額控除 算出した相続税額から直接差し引く 未成年者控除、障害者控除、配偶者の税額軽減、贈与税額控除 など

税額控除は、課税価格の控除とは異なり、いったん計算された相続税額から1円単位で直接差し引かれます。そのため、税率が高い課税ブラケットに入っている場合でも、控除額のぶんだけ実際の納税額が確実に減ります。

相続税額 → 税額控除を引く → 実際の納付額
課税価格の控除(基礎控除等)と混同しないことが重要です。

未成年者控除と障害者控除は、いずれもこの「税額控除」に分類されます。対象となる法定相続人がいる場合、相続税の申告で必ず適用を検討しましょう。

未成年者控除のしくみ――対象者と控除額の計算式

対象者

未成年者控除(相続税法19条の3)の対象となるのは、次の要件をすべて満たす方です。

[2022年4月の改正について]
民法の成年年齢引き下げ(2022年4月施行)に合わせ、未成年者控除の基準年齢も「20歳」から「18歳」に変更されました(2022年4月1日以後の相続から適用)。2022年3月31日以前の相続では、旧来の「20歳」基準が適用されます。詳細は国税庁の最新情報でご確認ください。

控除額の計算式

未成年者控除額 = (18歳 − 相続開始時の年齢) × 10万円
年齢は満年齢で計算。1年未満の端数(月・日)は切り捨て。控除年数の1年未満の端数は1年に切り上げ(結果、同じ扱い)。最新の端数計算は国税庁でご確認ください。

たとえば、相続開始時に10歳5か月の子が相続人である場合は、満年齢は10歳(端数切り捨て)ですので、「18歳 − 10歳 = 8年」となり、8年 × 10万円 = 80万円が税額控除として引けます。

相続開始時の満年齢 控除年数 控除額
0歳(0か月〜) 18年 180万円
5歳 13年 130万円
10歳 8年 80万円
15歳 3年 30万円
17歳(1か月以上残) 1年 10万円

障害者控除のしくみ――一般障害者と特別障害者の違い

対象者

障害者控除(相続税法19条の4)の対象となるのは、次の要件をすべて満たす方です。

一般障害者と特別障害者の区分

「一般障害者」と「特別障害者」は、障害の程度によって区分されます。代表的な判断基準は以下のとおりですが、詳細な要件は国税庁タックスアンサー No.4170 でご確認ください。

区分 主な対象(代表例) 控除額の乗数
一般障害者 身体障害者手帳3〜6級、療育手帳(軽・中度)、精神障害者保健福祉手帳2・3級 など(特別障害者以外の障害者) ×10万円
特別障害者 身体障害者手帳1・2級、療育手帳(重度)、精神障害者保健福祉手帳1級、常に就床を要し複雑な介護を要する方 など ×20万円

控除額の計算式

一般障害者:(85歳 − 年齢) × 10万円
特別障害者:(85歳 − 年齢) × 20万円
年齢は相続開始時の満年齢(1年未満の端数は切り捨て)。控除年数の端数処理の詳細は国税庁でご確認ください。

たとえば、相続開始時に55歳の特別障害者の法定相続人がいる場合、「85歳 − 55歳 = 30年」となり、30年 × 20万円 = 600万円が税額控除として引けます。

相続開始時の満年齢 一般障害者控除額 特別障害者控除額
25歳 600万円 1,200万円
40歳 450万円 900万円
55歳 300万円 600万円
70歳 150万円 300万円
84歳(1か月以上残) 10万円 20万円

控除しきれない場合の扶養義務者への振替

未成年者控除・障害者控除はいずれも、その控除額が対象者本人の相続税額を超える場合(つまり本人の相続税額がゼロになってもまだ控除額が余る場合)に、独自のルールが適用されます。

余った控除額は、扶養義務者の相続税から引ける

本人の相続税額から引ききれなかった残額は、その未成年者・障害者の扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹など)の相続税額から差し引くことができます(相続税法19条の3第3項・19条の4第3項)。扶養義務者が複数いる場合は、その扶養義務者間で協議して誰の税額から差し引くか決めることができます(協議が整わない場合は案分)。

この振替のしくみにより、取得財産が少なく相続税額がゼロまたは少額である未成年者・障害者の家族でも、控除の恩恵を家族全体で享受できます。

まず 本人の相続税額から控除
余りが出たら 扶養義務者の税額から控除
複数なら 協議で按分を決定

過去に控除を受けている場合の調整計算

未成年者控除・障害者控除は、同じ人が過去(前回の相続)にも同じ控除を受けたことがある場合、今回の控除額が調整(減額)されます。

調整のしくみ(未成年者控除の場合)

前回の相続でも未成年者控除を受けていた場合、今回の控除額は次のように計算されます。

今回の控除額 = 今回の控除限度額前回に控除を受けた金額
前回の控除が少なかった場合(扶養義務者が負担したなど)は、その事情も考慮されます。詳細は国税庁 No.4167 でご確認ください。

具体的には、前回の相続で「18歳まで10年分・100万円」の控除を受けた人が、今回の相続で「18歳まで6年分・60万円」となった場合、前回との差額などを踏まえた計算になります。過去の控除適用の有無は、申告書の記載内容で確認できます。

[障害者控除も同様の調整あり]
障害者控除でも、過去に控除を受けた経緯がある場合は同様の調整計算が行われます(相続税法19条の4第2項)。計算が複雑になる場合があるため、税理士への相談をお勧めします。

具体的な計算例で確認する

計算例①:未成年者控除

父が死亡し、相続人は母と長男(8歳2か月)のケース。長男の相続税の算出額が50万円、未成年者控除の計算は次のとおりです。

  1. 満年齢を確認する 8歳2か月 → 端数(2か月)を切り捨て、満8歳で計算。
  2. 控除年数を算出する 18歳 − 8歳 = 10年
  3. 控除額を算出する 10年 × 10万円 = 100万円
  4. 本人の相続税額と比較する 長男の算出税額は50万円 < 控除額100万円。本人分はゼロになり、余り50万円を母の税額から控除できる。

計算例②:特別障害者控除

母が死亡し、相続人は長女(42歳・特別障害者)と長男(45歳)のケース。長女の相続税の算出額が200万円の場合。

  1. 満年齢を確認する 42歳(端数なしの場合)で計算。
  2. 控除年数を算出する 85歳 − 42歳 = 43年
  3. 控除額を算出する(特別障害者) 43年 × 20万円 = 860万円
  4. 本人の相続税額と比較する 長女の算出税額200万円 < 控除額860万円。長女の税額はゼロ、余り660万円を長男の税額から控除できる(長男の税額が660万円以上あれば)。

このように、特別障害者の場合は控除額が非常に大きくなるケースがあり、扶養義務者への振替を含めて家族全体の相続税に大きな影響を与えます。

他の税額控除との適用順序

相続税には複数の税額控除が存在します。適用する順序は相続税法で定められており、一般的には以下の順で差し引きます。

順序 税額控除の種類
1 贈与税額控除(相続開始前3〜7年以内の贈与に係る税額)
2 配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税)
3 未成年者控除・障害者控除
4 相次相続控除(10年以内に2回相続があった場合)
5 外国税額控除(海外の財産に外国の相続税が課されていた場合)
[適用順序は税額に影響する場合がある]
特に配偶者の税額軽減を先に適用したあとで未成年者控除・障害者控除を引く流れになるため、配偶者がいる場合はその計算結果と合わせて検討が必要です。適用順序の詳細や最新の取り扱いは、必ず国税庁または税理士にご確認ください。

なお、扶養義務者が複数の税額控除の対象となっている場合、それぞれの振替計算が複合的に絡むことがあります。計算が複雑になるケースでは、専門家のサポートを強くお勧めします。

障害者控除・未成年者控除でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で実際によく見かける、これらの控除をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. 「税額控除」ではなく「課税価格の控除」と混同する 未成年者控除・障害者控除は、遺産総額から引くのではなく、計算済みの相続税額から直接引く「税額控除」です。混同すると税額の計算が大きくずれます。
  2. 法定相続人でない者(特定遺贈の受遺者等)に適用しようとする どちらの控除も「法定相続人」であることが要件です。遺言による遺贈(特定遺贈)だけで財産を取得した人が法定相続人でない場合は対象外です。要件を必ず確認してください。
  3. 18歳・85歳の基準を年齢の誤りで計算する 年齢は相続開始日(被相続人の死亡日)の時点の満年齢で計算します。誕生日が死亡日の直後にある場合などは特に注意が必要です。
  4. 控除しきれなかった分を諦める 本人の相続税額がゼロになってもまだ控除額が余る場合、扶養義務者(配偶者・親・兄弟姉妹など)の相続税額から差し引けます。余りを「使えない」と思い込んで申告書に反映しない事例があります。
  5. 過去の控除適用を申告書に記載しない 過去に未成年者控除・障害者控除を受けたことがある場合、今回の控除額が調整されます。前回の申告書を確認せずに今回分を満額適用すると、税額の計算誤りになります。
  6. 障害者手帳の区分の確認を怠る 「一般障害者」と「特別障害者」では控除額が2倍違います。手帳の等級・区分と国税庁の区分基準を照合せずに申告すると、過少申告または過大申告になる可能性があります。
  7. 申告期限(10か月)を過ぎてから気づく 未成年者控除・障害者控除は「申告」が適用の前提です。相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)を過ぎてから気づいても、修正申告・更正の請求に期限があります。対象者がいる場合は早期に税理士に相談してください。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは一切関係ありません。

「特別障害者の長男の控除が家族全体の相続税をゼロにした事例」

お母様を亡くされたKさん(50代・長女)からのご相談でした。相続人はKさんと弟のTさん(47歳・特別障害者・身体障害者手帳1級)の2名。遺産は自宅と預金で合計約8,000万円。基礎控除(3,000万円+600万円×2人=4,200万円)を差し引いた課税遺産総額は約3,800万円となり、法定相続分課税方式で計算した結果、Tさんの算出税額は150万円、Kさんは150万円の計300万円の相続税が発生しました。

当センターでは提携税理士と連携し、特別障害者控除を確認しました。Tさんは47歳のため「85歳 − 47歳 = 38年」、38年 × 20万円 = 760万円の控除が発生。Tさんの算出税額150万円は全額ゼロになり、余りの610万円をKさんの税額(150万円)から差し引くと、Kさんの税額もゼロ。家族全体の相続税が760万円の障害者控除によってゼロになりました。

Kさんは「特別障害者控除の存在を知らなければ、300万円の相続税を納めていました。申告前に相談して本当によかった」とおっしゃってくださいました。障害者控除は、対象者がいる場合に家族全体の税負担を劇的に変える可能性があります。早期の専門家への相談が大切です。

― 私たちから一言 ―

「税額控除を知らずに納め過ぎているケースが後を絶ちません」

相続税の計算は、基礎控除の金額ばかりに目が向きがちです。しかし「税額控除」、とりわけ未成年者控除・障害者控除は、対象者がいる場合に数十万円から数百万円規模の税額が直接ゼロに近づく、非常に強力な制度です。当センターへご相談いただくケースでも、「税理士に依頼せず自分で申告したら、障害者控除を適用していなかった」という方が少なくありません。

特に見落とされやすいのが、「本人の税額より控除額が大きい場合に扶養義務者の税額から引ける」というルールです。未成年の孫や障害のある兄弟姉妹が相続人に含まれる場合、その配偶者や親族全体の税額が一気に下がることがあります。また、過去に控除を受けたことがある場合の調整計算は複雑なため、前回の申告書の確認と合わせて専門家にご確認いただくことをお勧めします。

当センターでは、提携の税理士と連携し、未成年者控除・障害者控除をはじめとするすべての税額控除を正確に適用した相続税申告をサポートしております。「家族に未成年者や障害のある方がいる」「申告済みだが控除の適用に不安がある」――そのような場合は、申告期限内であればまだ間に合います。まずはお気軽にお電話またはLINEでご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 未成年者控除(相続税法19条の3)と障害者控除(相続税法19条の4)は、課税価格ではなく算出済みの相続税額から直接差し引く「税額控除」。
  • 未成年者控除額=(18歳-相続開始時の満年齢)×10万円。対象は18歳未満の法定相続人(居住無制限納税義務者等)。
  • 障害者控除額=(85歳-満年齢)×10万円(一般障害者)または×20万円(特別障害者)。対象は85歳未満の障害者である法定相続人(居住無制限納税義務者等)。
  • 控除しきれない額は、その未成年者・障害者の扶養義務者(配偶者・直系血族・兄弟姉妹等)の相続税額から差し引ける。
  • 過去に同じ控除を受けたことがある場合は、今回の控除額が調整(減額)される。
  • 適用順序は「配偶者の税額軽減の後」が一般的。複合適用の場合は税理士に確認を。
  • どちらも相続税の申告が適用の前提。申告期限(10か月)以内に対象者の確認と申告書への反映を行うこと。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。未成年者控除・障害者控除の適用要件・計算方法・端数処理・調整計算の詳細は、法令改正により変更される場合があります。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきますが、最新の取り扱いは必ず国税庁タックスアンサー(No.4167・No.4170)または所轄の税務署、あるいは税理士にご確認ください。本記事は特定の税務判断を推奨するものではなく、個別案件への適用可否については専門家にご相談ください。

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