農地・山林の相続は「届出」が必要――ふつうの相続との違い

宅地や預貯金を相続する場合、必要になるのは相続登記や名義変更といった手続きです。ところが、農地(田・畑)や山林(森林)を相続した場合には、これらに加えて、役所への「届出」が法律で義務づけられています。これが、農地・山林の相続がふつうの相続と大きく違う点です。

農地を相続 → 農業委員会へ届出(農地法)
森林(山林)を相続 → 市町村長へ届出(森林法)
いずれも期限があり、怠ると過料(10万円以下)の対象になることがあります。

なぜ届出が必要なのか

農地や森林は、食料生産や国土の保全という公益に関わる大切な土地です。国や自治体が「誰がどの土地を持っているのか」を把握しておくために、相続などで新しく所有者になった人に届出を求めています。相続登記とは別の手続きですので、「登記さえすればよい」という誤解には注意が必要です。

[相続登記の義務化とも別物]
2024年4月から相続登記が義務化されましたが、農業委員会・市町村への届出はこれとは別の手続きです。農地・山林を相続したら、相続登記と届出の両方が必要になると考えておきましょう。相続登記については相続登記の義務化、3年以内の申請義務・10万円以下の過料・相続人申告登記の完全ガイドをご覧ください。

農地を相続したら――農業委員会への届出(農地法)

農地を売買や贈与で取得する場合には、原則として農業委員会(または知事等)の許可が必要です。しかし、相続による取得については許可は不要です。相続は本人の意思とは関係なく起こるため、許可制になじまないからです。

許可は不要でも「届出」は必要

ただし、許可が不要だからといって何もしなくてよいわけではありません。相続などで農地の権利を取得した人は、農地法にもとづき、その農地のある市区町村の農業委員会に届け出なければなりません(農地法第3条の3)。この届出は、相続によって農地を取得したことを知った時点から、おおむね10か月以内に行うこととされています。

届出を怠ると10万円以下の過料

農業委員会への届出をしなかったり、うその届出をしたりした場合、10万円以下の過料が科される可能性があります(農地法の罰則)。届出そのものは難しい手続きではありませんが、「知らなかった」では済まされません。農地を相続したら、まず農業委員会に相談し、期限内に届け出ましょう。

[農地を「農地以外」にしたいときは別の手続き]
相続した農地を、宅地や駐車場など農地以外の用途に変えたい(転用したい)場合は、農地法にもとづく転用の許可・届出という別の手続きが必要です。市街化区域内かどうかなどで扱いが変わりますので、必ず事前に農業委員会へご確認ください。

山林(森林)を相続したら――市町村長への届出(森林法)

山林(森林)を相続した場合にも、届出が必要です。森林法にもとづき、新たに森林の土地の所有者となった人は、市町村長に届け出なければなりません(森林法第10条の7の2)。対象となるのは、地域森林計画の対象となっている森林の土地です。

森林の届出は「90日以内」

森林(山林)の届出は、土地の所有者となった日から90日以内に行うこととされています。農地の届出(おおむね10か月以内)より期間が短いので、特に注意が必要です。この届出を怠った場合も、10万円以下の過料の対象になることがあります。

項目 農地(田・畑) 山林(森林)
根拠法 農地法 森林法
届出先 農業委員会 市町村長
届出の期限 取得を知った時からおおむね10か月以内 所有者となった日から90日以内
怠った場合 10万円以下の過料 10万円以下の過料
[どちらの届出も相続登記とは別]
森林の届出も、相続登記や農業委員会への届出とは別の手続きです。田畑と山林の両方を相続した場合、届出先も期限も異なるため、リストにして一つずつ確認していくと漏れを防げます。

農業を続ける人のための「相続税の納税猶予」制度

農地は面積が広いと相続税評価額も大きくなりがちで、そのまま相続税がかかると、農業を続けたくても納税のために農地を手放さざるを得ない、という事態が起こりかねません。これを防ぐための制度が「農地等についての相続税の納税猶予」です。

農業を続けることを条件に、相続税の一部が猶予される

この制度は、農業を営んでいた被相続人から農地等を相続した「農業相続人」が、その農地で農業を続ける場合に、一定の相続税の納税が猶予されるというものです。おおまかには、農地を農業に使い続ける前提で計算した価額(農業投資価格)を超える部分に対応する相続税が猶予され、一定の要件(農業を継続するなど)を満たし続ければ、最終的に免除されるしくみです。

「猶予」であって、要件を外れると打ち切りに

納税猶予は、あくまで「条件つきの先送り」です。途中で農業をやめたり、猶予対象の農地を売ったりすると、猶予されていた相続税に利子税を加えて納めなければならなくなることがあります。長期にわたって農業を続ける覚悟と見通しが前提の制度ですので、適用を受けるかどうかは慎重に判断する必要があります。要件や手続きは複雑ですので、必ず税理士や税務署にご確認ください。

[森林(山林)にも納税猶予の制度がある]
一定の計画にもとづいて経営される森林(山林)についても、相続税の納税猶予の制度があります。ただし要件が厳格で、適用できるケースは限られます。山林の相続税で負担が大きいと感じる場合は、専門家に適用の可否を確認するとよいでしょう。正確な要件・対象・数値は、必ず最新の国税庁・農林水産省の情報でご確認ください。

農地・山林ならではの評価と管理の注意点

農地・山林は、宅地とは評価の考え方も、相続後の管理も大きく異なります。相続する前に、その負担を理解しておくことが大切です。

評価は所在や区分によって大きく変わる

農地の相続税評価は、その農地が市街地に近いか、農業に使われる地域かなどの区分によって方法が変わります。市街地に近い農地は宅地に準じた高い評価になることがある一方、純粋な農業地域の農地は比較的低い評価になる傾向があります。山林も、宅地化が見込まれるかどうかなどで評価が変わります。評価の全体像は相続財産の評価方法、土地・建物・株式・預貯金の評価額の出し方を完全ガイドをご覧ください。

[「使わない土地」でも管理責任と固定資産税は続く]
相続した農地・山林を使う予定がなくても、所有している限り固定資産税がかかり、雑草や倒木、境界の管理といった責任もついて回ります。遠方の土地ほど管理が難しく、放置すると近隣とのトラブルにつながることもあります。「もらっても困る土地」をどうするかは、早めに考えておきたいポイントです。

相続した農地・山林を手放したいとき――売却・国庫帰属という選択肢

「農業をするつもりはない」「遠方で管理できない」――そんな農地・山林を手放したい場合には、主に次の選択肢があります。

選択肢1 売却・贈与(次の担い手へ)
選択肢2 国庫帰属制度で国に引き取り
選択肢3 相続放棄(全財産が対象)

売却は「農地ならではの制約」に注意

農地は、買い手が誰でもよいわけではなく、農地のまま売る場合には、原則として農業委員会の許可が必要です。買い手が農業をする人に限られるなどの制約があり、宅地のように簡単には売れないことがあります。地域の農業委員会や、農地の仲介に詳しい専門家に相談するのが現実的です。

相続土地国庫帰属制度という新しい選択肢

2023年4月から始まった相続土地国庫帰属制度を使えば、相続した土地を、一定の要件を満たし負担金を納めることで、国に引き取ってもらえる可能性があります。農地や山林も対象になり得ますが、境界が明らかでない土地や、管理に過分の費用・労力がかかる森林などは、引き取ってもらえない場合があります。詳しくは相続土地国庫帰属制度とは、いらない土地を国に返すしくみ・要件・負担金を完全ガイドをご覧ください。

「いらないから相続放棄」は全財産が対象になる

農地・山林がいらないからといって相続放棄をすると、ほしい財産(預貯金や自宅など)まですべて放棄することになります。農地・山林だけを選んで放棄することはできません。相続放棄は、プラスの財産とマイナスの財産の全体を見て判断する必要があります。詳しくは相続放棄の手続きと3か月の熟慮期間、知らないと損をする落とし穴をご覧ください。

農地・山林の相続手続きの進め方

農地・山林の相続は、届出・登記・税務・活用の判断が重なります。大枠の流れを押さえておきましょう。

  1. 相続財産に農地・山林があるか確認する 固定資産税の課税明細や名寄帳、登記情報などで、田・畑・山林が含まれていないかを確認します。遠方の土地は見落としがちです。
  2. 遺産分割で誰が引き継ぐかを決める 農業を続ける人、管理できる人など、農地・山林を誰が取得するのかを遺産分割協議で決めます。
  3. 相続登記と役所への届出を行う 相続登記に加え、農地は農業委員会へ(おおむね10か月以内)、森林は市町村長へ(90日以内)届け出ます。期限に注意します。
  4. 相続税と、活用・処分の方針を検討する 相続税がかかる場合は納税猶予の適用可否を検討し、使わない土地は売却・国庫帰属などの選択肢を専門家と相談します。
よくある相談事例
※以下の事例は実際のご相談をもとにした架空のケースです。実在の個人・団体とは関係ありません。

「田畑と裏山まで相続したが、農業をする予定がないケース」

Mさん(50代・男性)は、地方で暮らしていた父を亡くし、実家の家屋・宅地に加えて、複数の田畑と裏山(山林)を相続することになりました。Mさんは都市部で会社員をしており、「農業をするつもりはないが、田畑と山をどう扱えばよいのか分からない」とご相談にいらっしゃいました。

当センターで整理したところ、まず農地については農業委員会への届出、山林については市町村長への届出がそれぞれ必要で、期限(山林は90日以内)が迫っていることをご説明しました。あわせて、相続登記も別途必要であること、農地を農地のまま売るには農業委員会の許可が要ること、管理が難しい土地は相続土地国庫帰属制度の対象になるか検討できることをお伝えしました。

Mさんは、地元で農業を続けている親戚に一部の農地を引き継いでもらい、管理が難しい山林については国庫帰属制度の利用を検討する方向で整理されました。「相続登記さえすればよいと思っていたので、届出が別に必要だと知って驚きました。期限内に動けてよかったです」とのお言葉をいただきました。農地・山林の相続は、届出の期限と手放し方を早めに確認することが肝心です

― 私たちから一言 ―

「農地・山林は『届出』と『出口』を早めに。放置が一番こわい」

地方の相続では、宅地や預貯金だけでなく、農地や山林が一緒についてくることがよくあります。ご相談で多いのは、「相続登記はしたけれど、農業委員会や市町村への届出が必要だとは知らなかった」というケースです。農地は農業委員会へ、森林(山林)は市町村長へ、それぞれ期限内に届け出る義務があり、怠ると過料の対象になり得ます。特に森林の届出は90日以内と短いので、注意が必要です。

もう一つ大切なのが、その土地の「出口」を早めに考えることです。農業を続ける方であれば、相続税の納税猶予という強力な制度がありますが、要件を外れると猶予が打ち切られるため、長期的な見通しが欠かせません。一方、使う予定のない農地・山林は、固定資産税や管理の負担が続き、放置すれば近隣トラブルの原因にもなります。農地は売買に農業委員会の許可が要るなど、宅地のように簡単には手放せないことも多く、相続土地国庫帰属制度や相続放棄も含めて、総合的に判断する必要があります。

「もらっても困る土地」を抱えたまま何年も放置し、次の相続でさらに複雑になってしまう――そんなご相談も少なくありません。だからこそ、届出の期限を守りつつ、その土地を「続ける」のか「手放す」のかを早めに決めることが大切です。当センターでは、提携する司法書士・税理士・土地家屋調査士などと連携し、届出・登記・税務から出口戦略まで、農地・山林の相続をまるごとサポートいたします。「田畑や山を相続したがどうすれば」という段階で、どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

農地・山林の相続でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、農地・山林の相続をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 相続登記さえすればよいと思い込む 農地は農業委員会、森林は市町村長への届出が別に必要です。登記だけでは義務を果たしたことになりません。
  2. 森林の90日の届出期限を過ぎる 森林(山林)の届出は所有者となった日から90日以内と短めです。うっかり過ぎると過料の対象になり得ます。
  3. 農地は「相続なら許可不要」で安心してしまう 相続に許可は不要ですが、届出は必要です。また農地を売る・転用するには別途許可が要ります。
  4. 納税猶予を「ずっと安心」と誤解する 納税猶予は農業継続などが条件です。途中で農業をやめると、利子税を加えて納めることになる場合があります。
  5. 使わない土地の管理負担を軽く見る 使わなくても固定資産税や管理責任は続きます。遠方の農地・山林ほど負担が重くなりがちです。
  6. 「いらないから放棄」で全部を失う 相続放棄は農地・山林だけを選べません。ほしい財産まで放棄することになるため、全体で判断が必要です。
  7. 手放し方の検討を後回しにする 農地は売買に制約があり、簡単には手放せません。売却・国庫帰属などの出口は早めに検討するほど選択肢が広がります。

この記事のまとめ

  • 農地・山林の相続は、相続登記に加えて役所への「届出」が必要。農地は農業委員会へ、森林は市町村長へ届け出る。
  • 農地の届出は取得を知った時からおおむね10か月以内、森林の届出は所有者となった日から90日以内。怠ると10万円以下の過料。
  • 相続に農業委員会の許可は不要だが、売買・転用には許可が必要。宅地のように簡単には売れないことがある。
  • 農業を続ける人には相続税の納税猶予がある。ただし農業継続などが条件で、要件を外れると打ち切り・利子税の負担も。
  • 使わない農地・山林は固定資産税や管理責任が続く。手放すなら売却・相続土地国庫帰属制度・相続放棄を総合的に検討。
  • 届出の期限と土地の「出口」を早めに確認することが、農地・山林の相続で失敗しないカギ。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。農地・森林の届出の要否・期限・様式、相続税の納税猶予の適用要件、農地の売買・転用の可否、相続土地国庫帰属制度の対象や負担金などは、土地の所在や区分、個別の事情によって変わります。また、法律・税制は随時改正される場合があります。本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいていますが、具体的な手続き・期限・要件については、必ず司法書士・税理士などの専門家、および農地法(e-Gov法令検索)・農業委員会・市町村・農林水産省・国税庁等の一次情報をご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

農地・山林の相続のご相談、承ります

FREE CONSULTATION

田畑や山を相続したが届出や手放し方が分からない――
そんなお悩みも、届出・登記・税務から出口戦略まで中立的にご相談に応じます。