相続すると「お隣との関係」も引き継ぐ――相隣関係とは

隣り合う土地の所有者どうしが、お互いの土地の使い方を調整するためのルールを、相隣関係といいます。民法は、209条から238条までに、隣地の使用、通行、水の流れ、境界、枝や根の越境、建物と境界線の距離などについて定めを置いています。

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。ご実家の土地と建物を相続すれば、所有者としての権利だけでなく、お隣に対する責任も引き継ぐことになります。相続登記をまだ済ませていなくても、遺産分割がまとまっていなくても、この点は変わりません。

場面主な条文内容
枝・根の越境民法233条越境した枝は、原則として竹木の所有者に切除させます。一定の場合は、越境された側が自分で切り取ることができます。
隣地の使用民法209条塀や建物の修繕、境界の測量などのために、必要な範囲で隣地を使用できます。
ライフライン民法213条の2・213条の3電気・ガス・水道などを引き込むために、他の土地に設備を設置し、または他人の設備を使用できます。
境界・塀・建物民法223条〜236条境界標や塀の費用負担、建物と境界線との距離、目隠しなどの定めです。
工作物・竹木による損害民法717条塀の倒壊や倒木などで他人に損害を与えたときの、占有者・所有者の責任です。

2023年4月1日施行の改正で、ルールが明確になりました

相隣関係の規定は、令和3年法律第24号(民法等の一部を改正する法律)によって見直され、2023年(令和5年)4月1日から新しいルールが施行されています。主な改正は、隣地使用権の見直し(209条)、ライフライン設備の設置権・使用権の新設(213条の2・213条の3)、越境した枝の切取りルールの見直し(233条)の3つです。所有者が分からない土地や、管理されていない空き家が増えたことを背景にした改正であり、相続したご実家の管理に直接かかわる内容です。

越境してきた枝は切ってよいのか――民法233条が定める3つの場合

お隣の木の枝が、境界線を越えてご実家の敷地に伸びてきた場合、原則は、その竹木の所有者に枝を切除させることです(民法233条1項)。越境された側が、何の手順も踏まずに切ってよいわけではありません。

ただし、次のいずれかに当たるときは、土地の所有者が自分でその枝を切り取ることができます(同条3項)。

民法233条3項自分で切り取ることができる場合
1号竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
2号竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき
3号急迫の事情があるとき

「相当の期間」の目安

1号の「相当の期間」について、法務省の解説資料は、枝を切除するために必要な時間的猶予を与える趣旨であり、事案によるものの、基本的には2週間程度と考えられる、としています。催告をした事実と日付があとから分かるように、書面で伝え、控えを残しておくことが大切です。お隣が遠方にお住まいの場合などは、配達の記録が残る方法で送ることも検討します。

切り取りの費用は誰が負担するか

越境された土地の所有者が自分で枝を切り取った場合の費用について、法務省の解説資料は、基本的には竹木の所有者に請求できると考えられるとしています。ただし、実際に請求できる範囲や金額は事案によって異なります。高木の剪定など費用が大きくなる場合は、作業の前に見積書を取り、お隣に示したうえで進めるほうが、あとの争いを避けやすくなります。

根は切り取ることができます

隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができます(民法233条4項)。枝と違い、催告などの手順は条文上求められていません。もっとも、根を切ったことで木が枯れたり倒れたりすると、別のトラブルになりかねません。作業の前に、お隣に声をかけておくことをお勧めします。

切り取ることができるのは「越境している部分」です

民法233条3項で認められているのは、境界線を越えた枝を切り取ることです。お隣の敷地の中にある幹や、越境していない枝まで切ることは認められていません。また、どこが境界線なのかがはっきりしない場合は、先に境界を確認する必要があります。境界の確認方法は、筆界特定制度の記事で整理しています。

実家の木がお隣へ越境しているとき――相続人は「竹木の所有者」になります

反対に、相続したご実家の庭木が、お隣の敷地や道路に伸びていることもあります。この場合、相続人は竹木の所有者として、お隣から枝の切除を求められる立場になります。空き家になったご実家では、気づかないうちに枝が伸び、ある日お隣から書面が届く、ということが起こります。

遺産分割前でも、相続人のひとりが切ることができます

相続人が数人あるときは、相続財産は共有に属します(民法898条1項)。遺産分割がまとまるまでの間、庭木も相続人全員の共有です。2023年4月施行の改正で、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者が、越境した枝を切り取ることができると定められました(民法233条2項)。ほかの相続人の同意がそろうのを待たなくても、相続人のひとりが、越境している枝を切ることができます。

[催告は、だれに届くか]
法務省の解説資料によれば、共有されている竹木の枝について、お隣が民法233条3項1号の催告をするときは、基本的に共有者全員に催告する必要があるとされています。相続人のうち一部の方の所在が分からないときは、その方との関係では2号(所在を知ることができないとき)に当たり、催告は不要とされています。相続人のおひとりに届いた書面は、ほかの相続人とも早めに共有してください。

放置した場合の責任――民法717条

土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、まず工作物の占有者が賠償責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは、所有者が賠償しなければなりません(民法717条1項)。この定めは、竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも準用されます(同条2項)。

古いブロック塀が倒れて通行人がけがをした、枯れた木が倒れてお隣の車を傷つけた、といった場合に問題になる条文です。責任の有無や範囲は個別の事情によって判断されますが、「住んでいないから関係がない」とはいえない点に注意が必要です。空き家の管理全般については実家の空き家の記事を、行政による指導・勧告については空家法の記事をご覧ください。

相続放棄をした場合

相続放棄をすれば、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。ただし、放棄の時に相続財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければなりません(民法940条1項)。詳しくは相続放棄後の保存義務の記事で整理しています。

隣地使用権――修繕・測量・枝の切取りのために、お隣の土地を使う(民法209条)

ご実家の外壁や塀を直すとき、足場を組むためにお隣の敷地を一時的に使わせてもらう必要が生じることがあります。民法209条1項は、土地の所有者が、次の目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができると定めています。

  1. 工作物の築造・収去・修繕境界またはその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去または修繕(1号)。老朽化した塀の撤去や、建物の解体もここに含まれます。
  2. 境界標の調査・測量境界標の調査、または境界に関する測量(2号)。売却や分筆の前に測量をする場面で使われます。
  3. 枝の切取り民法233条3項の規定による枝の切取り(3号)。

ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ立ち入ることができません(同項ただし書)。

使用するときの3つのルール

ルール内容
損害が最も少ない方法使用の日時、場所および方法は、隣地の所有者と、隣地を現に使用している者(賃借人など)のために、損害が最も少ないものを選ばなければなりません(209条2項)。
事前の通知あらかじめ、目的、日時、場所および方法を、隣地の所有者と隣地使用者に通知しなければなりません。あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく通知すれば足ります(同条3項)。
償金隣地の所有者または隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができます(同条4項)。

事前の通知について、法務省の解説資料は、通知の相手方が準備をするのに足りる合理的な期間を置く必要があり、事案によるものの、緊急性がない場合は通常は2週間程度としています。

権利があっても、実力で押し通すことはできません

法務省の解説資料は、隣地を使用できる権利がある場合でも、一般的に自力執行は禁止されているため、使用を拒まれた場合には、妨害禁止の判決を求めることになる、としています。お隣が反対しているのに、門扉を開けて立ち入るようなことは避けてください。工事の日程と内容を書面で示し、施工業者と一緒に説明に伺うなど、了解を得る努力を先にすることが、結果として近道になります。

ライフライン設備の設置権・使用権――水道・ガス・電気を引き込むために(民法213条の2)

古い住宅地では、ご実家の水道管や排水管が、お隣の敷地の下を通っていたり、近隣の方と共同で使う私設の管につながっていたりすることがあります。建て替えや売却の際に、「他人の土地を通さないと水道を引けない」ことが分かって、話が止まってしまうことも少なくありません。

2023年4月施行の改正で、継続的給付を受けるための設備の設置権等が明文化されました。土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用しなければ、電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用することができます(民法213条の2第1項)。法務省の解説資料によれば、「これらに類する継続的給付」には、電話・インターネットなどの電気通信も含まれます。

項目内容
場所・方法他の土地または他人が所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(213条の2第2項)。
事前の通知あらかじめ、目的、場所および方法を、他の土地等の所有者と、他の土地を現に使用している者に通知しなければなりません(同条3項)。
設備を設置するときその土地の損害に対して償金を支払います。1年ごとに支払うこともできます(同条5項)。
他人の設備を使うとき使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払い(同条6項)、利益を受ける割合に応じて、設置・改築・修繕・維持の費用を負担します(同条7項)。

法務省の解説資料は、事前の通知について、相手方が準備をするのに足りる合理的な期間(事案によるものの、2週間から1か月程度)を置く必要があるとしています。また、隣地使用権の場合と異なり、相手方が不特定または所在不明であっても通知が必要であり、その場合は公示による意思表示(民法98条)を活用する、とされています。

「承諾料」を求められたとき

法務省の解説資料は、償金の対象となる「損害」について、導管などを地下に設置し、地上の利用を制限しない場合には、損害が認められないことがあると考えられるとしたうえで、設備の設置を承諾することに対するいわゆる承諾料を求められても、応ずる義務はない、としています。もっとも、実際の金額や負担の要否は事案によって異なりますので、求められた場合は、司法書士や弁護士に相談してから回答することをお勧めします。

土地を分けたことで引き込めなくなった場合

分割によって、他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができ、この場合、設置による土地の損害に対する償金(213条の2第5項)の規定は適用されません(民法213条の3第1項)。土地の一部を譲り渡した場合も同様です(同条2項)。

相続した土地をきょうだいで分筆して分けるときは、分けたあとのそれぞれの土地に、どこから水道・ガス・排水を引くのかを、分割の前に確認しておくことが大切です。公道に出られない土地(袋地)が生じる場合の通行についても、同じ考え方の定めがあります(民法213条)。分け方の検討は、遺産分割の方法の記事もあわせてご覧ください。

境界標・塀・建物の距離・目隠し――昔からある決まりを確認する

改正された条文のほかにも、相続したご実家で問題になりやすい定めがあります。

項目条文内容
境界標の設置民法223条・224条隣地の所有者と共同の費用で境界標を設けることができます。設置・保存の費用は等しい割合で負担し、測量の費用は土地の広狭に応じて分担します。
囲障(塀)の設置民法225条所有者の異なる2棟の建物の間に空地があるときは、共同の費用で境界に囲障を設けることができます。協議が調わないときは、板塀または竹垣その他これらに類する材料で、高さ2メートルのものとされています。
境界線上の塀の所有民法229条境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝および堀は、相隣者の共有に属するものと推定されます。
建物と境界線の距離民法234条建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければなりません。
目隠し民法235条境界線から1メートル未満の距離に、他人の宅地を見通すことのできる窓または縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければなりません。
雨水民法218条直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはなりません。

境界線上の古い塀は、勝手に壊せないことがあります

境界線上にある塀は、お隣との共有と推定されます(民法229条)。老朽化して危険だからといって、お隣の了解なく取り壊すと、トラブルになるおそれがあります。塀が境界線上にあるのか、どちらかの敷地の中にあるのかを確認し、共有であれば、撤去や造り替えの方法と費用の分担を話し合います。

50センチメートルの距離には、例外があります

民法234条・235条と異なる慣習があるときは、その慣習に従います(民法236条)。また、建築基準法63条は、防火地域または準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる、と定めています。

民法234条に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は建築の中止や変更を求めることができますが、建築に着手した時から1年を経過し、またはその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができます(同条2項)。相続したご実家やお隣の建物が、何十年も前から境界線の近くに建っているという場合に、いまから建物の位置を変えるよう求めることは、この定めからみて難しいと考えられます。

[先代どうしの「口約束」は、書面にしておく]
「塀はうちの費用で建てた」「お隣の排水管がうちの敷地を通るのは承知している」といった取り決めが、先代どうしの口約束のままになっていることがあります。相続や売却で当事者が替わると、経緯を知る人がいなくなります。お隣と良好な関係のうちに、現状と取り決めの内容を書面にまとめ、双方で保管しておくことをお勧めします。

お隣が所有者不明・管理不全のとき――枝の切取りと、裁判所が管理人を選ぶ制度

相続したご実家のお隣が、長年空き家になっている。登記簿の名義人はすでに亡くなっていて、いまの所有者が分からない――このようなご相談も増えています。相手と連絡が取れない場合に使える制度を整理します。

困りごと使える制度ポイント
越境した枝民法233条3項2号竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、催告なしで、越境した枝を切り取ることができます。
修繕・測量のための立入り民法209条3項ただし書あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく通知すれば足ります。
所有者が分からない土地・建物所有者不明土地管理命令・所有者不明建物管理命令(民法264条の2・264条の8)裁判所が、利害関係人の請求により、管理人による管理を命じます。
所有者はいるが、管理されていない土地・建物管理不全土地管理命令・管理不全建物管理命令(民法264条の9・264条の14)所有者による管理が不適当で、他人の権利等が侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、裁判所が管理人による管理を命じます。

「所在を知ることができない」といえるための調査

法務省の解説資料は、隣地所有者が不特定または所在不明である場合の例として、現地や不動産登記簿・住民票等の公的記録を調査しても所在が判明しないときを挙げています。登記簿を見ただけで「分からない」と判断するのではなく、どのような調査をしたのかを記録に残しておくことが大切です。登記名義人が亡くなっている場合は、その相続人を調べる必要が生じることもあります。調査の進め方は、司法書士や弁護士にご相談ください。

管理不全土地・建物管理命令のしくみ

所有者による土地の管理が不適当であることによって、他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができます(民法264条の9第1項)。建物についても同様の制度があります(民法264条の14)。

法務省の解説資料は、対象となる例として、ひび割れや破損が生じている擁壁を所有者が放置していて隣地に倒壊するおそれがある場合や、ごみが不法投棄された土地を所有者が放置していて臭気や害虫による健康被害が生じている場合を挙げ、利害関係人に当たり得る者として、倒壊のおそれが生じている隣地の所有者などを挙げています。申立ては不動産の所在地を管轄する地方裁判所に行い、管理費用を確保するため、基本的に予納金の納付が必要とされています。

申立てが認められるかどうか、予納金がいくらになるかは、事案ごとに裁判所が判断します。所有者不明の土地・建物の管理制度については、所有者不明土地・建物管理制度の記事で詳しく整理しています。あわせて、市区町村の空き家担当の窓口に相談する方法もあります(空家法の記事)。

相続した実家の相隣関係でよくある7つの落とし穴

  1. 越境してきた枝を、何も伝えずに切ってしまう 原則は、竹木の所有者に切除させることです(民法233条1項)。自分で切り取れるのは、催告しても相当の期間内に切除されないときなど、同条3項の場合です。
  2. 越境していない部分まで切ってしまう 切り取ることができるのは、境界線を越えた枝です。境界がはっきりしないときは、先に境界を確認します。
  3. 「相続登記をしていないから、まだ自分の責任ではない」と考える 相続人は、相続開始の時から権利義務を承継します(民法896条)。庭木や塀の管理について、お隣から対応を求められる立場になります。
  4. 修繕や解体のために、連絡をせずにお隣の敷地に入る 隣地使用には、目的・日時・場所・方法の事前通知が必要です(民法209条3項)。住家への立入りには、居住者の承諾が要ります。拒まれたときに実力で使用することはできません。
  5. 境界線上の古い塀を、自分の判断で取り壊す 境界線上の塀は、相隣者の共有と推定されます(民法229条)。撤去や造り替えは、お隣と話し合ってから進めます。
  6. 水道管や排水管の経路を確認しないまま、土地を分けたり売ったりする 他人の土地を通る管があると、建て替えや売却の際に問題になります。設備の設置権・使用権(民法213条の2)の定めはありますが、通知や償金のルールを踏まえた調整が必要です。
  7. お隣の所有者が分からないからと、あきらめて放置する 所在不明の場合の枝の切取り(民法233条3項2号)や、裁判所が管理人を選ぶ制度(民法264条の2以下)があります。調査の記録を残して、専門家に相談します。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「空き家の実家の柿の木が、お隣の屋根にかかっていると手紙が届きました」――Sさまのご相談

Sさま(50代)は、お父さまが亡くなったあと、遠方にあるご実家をそのままにしておられました。相続人は、Sさまとお兄さまの2人です。遺産分割の話し合いはまだ進んでおらず、相続登記も済んでいません。ある日、ご実家のお隣の方から「庭の柿の木の枝が、こちらの屋根にかかっています。2週間以内に切っていただけない場合は、こちらで切らせていただきます」という手紙が届きました。Sさまは「兄と連絡がつきにくく、2人の同意がそろうまで手を付けられないと思っていました。まだ名義も父のままですし、どうしたらよいでしょうか」とお話しになりました。

私からは、「名義がお父さまのままでも、相続人であるSさまとお兄さまが、すでに庭木の所有者です。遺産分割の前は共有の状態ですが、越境している枝は、共有者のひとりであるSさまが切ることができると定められています(民法233条2項)。お兄さまの同意がそろうのを待つ必要はありません。まずはお隣にお電話とお手紙で、対応する日程をお伝えください。あわせて、お兄さまにも手紙の写しを送っておかれるとよいでしょう」とお伝えしました。また、作業のためにお隣の敷地に入る必要がある場合は、日時や方法をあらかじめ伝えて了解を得ること、塀や屋根の状態もこの機会に確認することをお勧めしました。

Sさまは、すぐにお隣に連絡して、造園業者の手配と作業日をお伝えになりました。作業の当日はお隣の方も立ち会ってくださり、境界付近の古いブロック塀の傷みについても、その場で話し合うことができたそうです。Sさまは「手紙を受け取ったときは責められているように感じましたが、すぐに動いたことで、かえってお隣との関係が良くなりました。実家をどうするか、兄とも話を始めます」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

お隣との関係は、相続した不動産の「見えない一部」です

ご実家を相続された方から、「お隣の方とは、ほとんど面識がありません」と伺うことがあります。ご両親が何十年もかけて築いてこられたご近所との関係は、登記簿にも遺産目録にも載りません。けれども、枝の越境や塀の修繕、境界の確認といった場面では、この関係が手続きの進み方を大きく左右します。

2023年4月施行の改正で、枝の切取りや隣地の使用について、取ることのできる手順がはっきりしました。ただ、条文に書かれているのは、話し合いがうまくいかないときの最後のよりどころです。相続をされたら、早めにお隣へご挨拶に伺い、連絡先をお伝えしておくこと。これがいちばんの備えになると、日々のご相談を通じて感じております。

私たちは、ご事情を伺いながら論点を整理し、必要に応じて司法書士・土地家屋調査士・弁護士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 相続人は、相続開始の時から、お隣に対する所有者としての責任も引き継ぎます(民法896条)。相続登記や遺産分割の前でも変わりません。
  • 越境した枝は、原則として竹木の所有者に切除させます。催告しても相当の期間内に切除されないとき、所有者やその所在を知ることができないとき、急迫の事情があるときは、自分で切り取ることができます(民法233条)。
  • 遺産分割前で庭木が共有のときは、各共有者が越境した枝を切り取ることができます(民法233条2項)。放置して損害が生じると、民法717条の責任が問題になります。
  • 修繕・測量・枝の切取りのための隣地使用には、目的・日時・場所・方法の事前通知が必要です(民法209条)。住家への立入りには居住者の承諾が要り、拒まれたときに実力で使用することはできません。
  • 電気・ガス・水道などを引き込むための設備の設置権・使用権が明文化されています(民法213条の2・213条の3)。土地を分ける前に、引込みの経路を確認します。
  • お隣が所有者不明・管理不全のときは、裁判所が管理人を選ぶ制度があります(民法264条の2以下)。最新の情報は法務省・裁判所・お住まいの市区町村等でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、枝の切取りや隣地使用の可否、費用・償金の請求の可否と金額、損害賠償責任の有無、管理命令の申立ての結果などを保証するものではありません。相隣関係の問題は、境界の位置、土地や建物の状況、これまでの経緯、地域の慣習などによって結論が異なります。法務省の資料に示された期間の目安は、事案によって異なり得るものです。制度は改正されることがありますので、最新の情報は法務省・裁判所・お住まいの市区町村等でご確認のうえ、具体的な対応については、弁護士・司法書士・土地家屋調査士などの専門家にご相談ください。

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