「人」ではなく「土地」に管理人を付ける――2023年4月に始まった2つの制度
まず、この2つの制度が生まれた背景を押さえておきます。ここが分かると、条文が読みやすくなります。
これまで何が困っていたのか
登記簿の名義人が何十年も前に亡くなったまま、相続登記がされていない土地。相続人は十数人に膨れ上がり、その多くが所在不明。いわゆる「所有者不明土地」問題です。隣地の方が困っていても、あるいは自治体が公共事業のために取得したくても、交渉する相手がいないという壁にぶつかります。
そこで従来は、不在者財産管理人(民法25条)や相続財産清算人(民法952条)の選任を申し立てていました。けれども、これらは「その人の財産全体」を管理する制度です。目の前の土地一筆だけを何とかしたいのに、その人が全国に持っているかもしれない財産まで含めて、管理人が面倒を見ることになる。結果として、手続きは長期化し、予納金も高額になりがちでした。
新制度=土地・建物を単位に管理人を選ぶ
4つの管理命令が新設されました
2023年(令和5年)4月1日に施行された改正民法により、次の4つの管理命令が設けられました。いずれも民法の第2編(物権)第3章(所有権)に置かれています。
| 制度 | 条文 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 所有者不明土地管理命令 | 民法264条の2 | 所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない土地(共有の場合はその共有持分) |
| 所有者不明建物管理命令 | 民法264条の8 | 同じ状態にある建物(共有の場合はその共有持分) |
| 管理不全土地管理命令 | 民法264条の9 | 所有者による土地の管理が不適当で、他人の権利や法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合 |
| 管理不全建物管理命令 | 民法264条の14 | 同じ状態にある建物 |
所有者不明土地管理制度――対象と申立て(民法264条の2)
まず、所有者不明土地管理制度から見ていきます。条文の要件は、意外にすっきりしています。
要件(民法264条の2第1項)
- ①所有者を知ることができない、またはその所在を知ることができない土地であること……土地が数人の共有に属する場合は、共有者を知ることができない、または所在を知ることができない共有持分が対象になります。「全部が所有者不明でなくてもよい」というのが、この制度の使い勝手のよいところです。
- ②必要があると認められること……裁判所の判断です。
- ③利害関係人の請求があること……条文の文言は「利害関係人」です。
この3つが満たされると、裁判所はその請求に係る土地または共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることができます。そして管理命令をする場合には、その命令の中で管理人を選任しなければならないとされています(同条4項)。
「利害関係人」に誰が入るかは、個別の判断です
条文は「利害関係人」としか書いていません。一般に、その土地の管理がされないことによって不利益を受ける隣地の所有者、その土地を取得しようとする公共事業の実施者、共有者、担保権者などが想定されるとされていますが、誰が利害関係人にあたるかは、事案ごとに裁判所が判断します。「隣に住んでいれば必ず認められる」というものではありません。申立てを検討される場合は、まず弁護士・司法書士にご相談ください。
管理命令の効力は、土地の上の動産にも及びます
見落とされやすい点ですが、所有者不明土地管理命令の効力は、その土地にある動産(その土地の所有者等が所有するものに限る)にも及びます(民法264条の2第2項)。放置された資材や車両なども、管理の対象に取り込めるということです。
また、管理・処分その他の事由により管理人が得た財産についても、管理命令が取り消された後に必要があると認めるときは、あらためて管理命令をすることができるとされています(同条3項)。
建物の場合(民法264条の8)
建物についても、所有者不明建物管理命令という同じ仕組みが用意されています(民法264条の8)。建物の場合、命令の効力は、その建物にある動産に加えて、その建物を所有するための「敷地に関する権利」(賃借権その他の使用収益を目的とする権利。所有権を除く)にも及ぶとされています(同条2項)。借地上の建物が放置されているケースを想定した規定です。
管理人にできること・できないこと――売却には裁判所の許可(民法264条の3)
選ばれた管理人には、どこまでの権限があるのか。ここが実務上いちばん重要です。
管理処分権は、管理人に「専属」します
民法264条の3第1項は、所有者不明土地等の管理および処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属すると定めています。「専属する」という言葉が使われている点が、後で述べる管理不全の制度との決定的な違いです。
それを超える行為(売却など)=裁判所の許可が必要
条文を正確に見ておきます。民法264条の3第2項は、管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならないとし、その「次に掲げる行為」として一 保存行為、二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用または改良を目的とする行為を挙げています。ただし書で、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできないとされています。
| 行為の例 | 裁判所の許可 |
|---|---|
| 草刈り・害虫駆除・危険な塀の応急補修 | 保存行為にあたると考えられ、許可は不要 |
| 土地の性質を変えない範囲での賃貸・改良 | 利用改良行為にあたると考えられ、許可は不要 |
| 土地の売却 | 許可が必要(保存・利用改良の範囲を超えるため) |
| 建物の取壊し | 許可が必要と考えられます |
管理人の義務(民法264条の5)
管理人は、所有者不明土地等の所有者(共有持分を有する者を含む)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならないとされています(民法264条の5第1項)。申立てをした人のために働く立場ではないという点は、押さえておく必要があります。
また、数人の共有持分を対象として管理命令が発せられたときは、対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならないとされています(同条2項)。
「申し立てれば、思いどおりに土地を買える」制度ではありません
この制度に期待を寄せられる方の中には、「管理人が選ばれれば、その人と交渉して土地を安く買える」とお考えになる方がいらっしゃいます。そうはなりません。管理人は所有者のために善管注意義務を負って権限を行使する立場であり、売却には裁判所の許可が必要です。不当に安い価格での売却が通ることは想定されていません。また、後から所有者が現れて、自分に所有権が帰属することを証明した場合には、裁判所は管理命令を取り消さなければならないとされています(非訟事件手続法90条11項)。この制度は「取得のための近道」ではなく、「管理する人を立てるための制度」だとご理解ください。
手続きの流れ――公告と1か月以上の異議期間、登記、供託(非訟事件手続法90条)
手続きの細目は、非訟事件手続法に定められています。所有者不明土地・建物の管理命令については同法90条です。
- 申立て(管轄=不動産の所在地を管轄する地方裁判所) 民法第2編第3章第4節の規定による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するとされています(非訟事件手続法90条1項)。家庭裁判所ではなく地方裁判所である点にご注意ください。
- 裁判所による公告と、1か月以上の異議届出期間 裁判所は、①申立てがあったこと、②異議があるときは一定の期間内に届け出るべきこと、③届出がないときは管理命令がされることを公告し、その期間が経過した後でなければ管理命令をすることができないとされています。そしてこの期間は1か月を下ってはならないとされています(非訟事件手続法90条2項)。
- 管理命令と管理人の選任 要件が認められれば、裁判所は管理命令を発し、その中で管理人を選任します(民法264条の2第4項)。実務上は弁護士・司法書士が選任されることが想定されています。
- 管理命令の登記が嘱託されます 管理命令があった場合、裁判所書記官は職権で、遅滞なく、対象とされた土地または共有持分について管理命令の登記を嘱託しなければならないとされています(非訟事件手続法90条6項)。登記簿を見れば、管理命令が出ていることが分かるということです。取消しの裁判があったときは、登記の抹消が嘱託されます(同条7項)。
- 管理・処分(売却には許可) 保存行為・利用改良行為は許可なく、それを超える行為は裁判所の許可を得て行います(民法264条の3第2項)。許可の申立てをする場合には、その許可を求める理由を疎明しなければならないとされています(非訟事件手続法90条3項)。
- 金銭が生じたときは供託することができます 管理人は、管理・処分その他の事由により金銭が生じたときは、所有者のために、その土地の所在地の供託所に供託することができるとされ、供託したときは法務省令で定めるところにより公告しなければならないとされています(非訟事件手続法90条8項)。
- 管理命令の取消し 管理すべき財産がなくなったとき(全部が供託されたときを含む)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、裁判所は、管理人もしくは利害関係人の申立てにより、または職権で、管理命令を取り消さなければならないとされています(同条10項)。
- 所有者が現れたとき 所有者が、その所有権が自己に帰属することを証明したときは、裁判所は、その所有者の申立てにより管理命令を取り消さなければならないとされ、その場合管理人は所有者に対し、事務の経過と結果を報告し、財産を引き渡さなければならないとされています(同条11項)。
※ 以下は、実際のご相談を踏まえて構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。
「隣の土地の名義人は、昭和に亡くなった方でした」
ご相談にいらしたのは、地方都市の住宅地にお住まいの60代のご夫婦でした。お隣が空き地になって、もう20年以上になるとのことです。当初は雑草が伸びる程度でしたが、次第に樹木が育ち、枝がご夫婦の屋根にかかり、落ち葉で雨樋が詰まるようになりました。台風のたびに、倒木の不安を抱えておられたそうです。
ご夫婦は市役所に相談し、法務局で登記簿を取り寄せられました。すると名義人は昭和に亡くなった方で、相続登記は一度もされていません。戸籍をたどっていくと、相続人は十数人に及び、そのうち何人かは住所がたどれない状態でした。「誰に言えばよいのか分からない」――これが、ご夫婦の率直な感想でした。
ご相談を受けた私たちが、まずお伝えしたのは「順番があります」ということでした。いきなり裁判所の手続きに向かうのではなく、①戸籍の調査で相続人を可能な限り特定する、②連絡が取れる相続人がいれば、まずその方に相談する、③自治体に相談窓口や補助の制度がないか確認するという段取りです。実際、相続人のおひとりと連絡がつけば、それだけで解決に近づくことは少なくありません。
そのうえで、それでも進まない場合の選択肢として、所有者不明土地管理命令の申立てがあることをご説明しました。土地一筆を対象に管理人を選んでもらい、その管理人に樹木の処理をしてもらう。従来のように、その方の財産全体を管理する人を選ぶ必要はありません。ただし、公告と1か月以上の異議期間があり、予納金の負担も生じます。ご夫婦には「時間もお金もかかりますが、道は確かにあります」とお伝えし、弁護士におつなぎしました。
この事案でお伝えしたいのは、「打つ手がない」と思われていた状況に、2023年から制度上の受け皿ができたということです。もっとも、それは万能の魔法ではありません。費用と時間を見積もったうえで、他の手段と比べて選ぶもの――そういう位置づけの制度だと、私たちは考えています。
管理不全土地・建物管理制度――所有者が分かっていても使える(民法264条の9)
次に、もうひとつの制度です。こちらは「持ち主は分かっている。連絡も取れる。けれども、まったく管理してくれない」という場合に使います。
要件(民法264条の9第1項)
条文は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができるとしています。
建物についても、管理不全建物管理命令が同じ枠組みで用意されています(民法264条の14)。その効力は、建物にある動産と、建物を所有するための敷地に関する権利にも及ぶとされています(同条2項)。
所有者不明の制度との、決定的な3つの違い
| 比較項目 | 所有者不明土地管理制度 | 管理不全土地管理制度 |
|---|---|---|
| 前提 | 所有者を知ることができない、または所在を知ることができない | 所有者は判明していてよい。管理が不適当であることが要件 |
| 管理処分権 | 管理人に専属する(民法264条の3第1項)。所有者は自分では処分できない | 管理人は権限を有する(民法264条の10第1項)。専属とはされていない |
| 処分に必要なもの | 裁判所の許可(民法264条の3第2項) | 裁判所の許可に加えて、所有者の同意が必要(民法264条の10第3項) |
| 所有者の陳述 | 公告と1か月以上の異議届出期間(非訟事件手続法90条2項) | 原則として、対象となるべき土地の所有者の陳述を聴かなければならない(非訟事件手続法91条3項1号本文。ただし書に例外あり) |
裁判所の許可 + 所有者の同意(民法264条の10第3項)
この「所有者の同意」は、制度の性格をよく表しています。所有者不明の場合は、そもそも同意を求める相手がいない。だから裁判所の許可だけで足りる。これに対し管理不全の場合は、所有者がそこにいる。だから、その財産を売り払うには本人の同意が要る――という整理です。「管理はさせるが、財産権は奪わない」という線引きだとご理解ください。
管理不全の管理人の義務と、許可の疎明
管理不全土地管理人も、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならないとされています(民法264条の11第1項)。また、共有に属する場合には、共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならないとされています(同条2項)。
手続き面では、民法264条の10第2項の許可の申立てをする場合には、その許可を求める理由を疎明しなければならないとされ(非訟事件手続法91条2項)、許可の裁判をする場合には、対象とされた土地の所有者の陳述を聴かなければならないとされています(同条3項2号)。所有者の手続保障が厚く設計されているのが、この制度の特徴です。
「制度ができたことよりも、必要にならないことのほうが大事です」
新しい制度のご紹介をしておいて申し上げにくいのですが、私たちがいちばんお伝えしたいのは、「この制度のお世話にならずに済むようにしましょう」ということです。
所有者不明土地管理制度は、たしかによくできた仕組みです。けれども、使う側から見れば、決して軽い手続きではありません。裁判所への申立てがあり、公告があり、1か月以上の異議期間があり、管理人の報酬と費用があり、予納金の負担があります。そして、その負担を最初に背負うのは、多くの場合「困らされている側」――つまり、お隣で困っておられる方なのです。制度が用意されたことと、使いやすいこととは、少し違います。
では、そうならないためには何が必要か。答えは驚くほど単純で、「相続登記をすること」に尽きます。所有者不明土地の大半は、相続が起きたときに登記をしなかったことから生まれています。一代なら、まだ手が届きます。二代重なると、相続人は一気に増えます。三代となると、私たちでも戸籍を集めるだけで数か月かかります。2024年4月1日からは相続登記の申請が義務化され、正当な理由なく怠れば過料の対象となる制度になりました。義務だから、ということ以上に、これは次の世代への贈り物だと私は思っています。
それから、「使わない土地をどうするか」を、ご自身の代で決めておいていただきたいのです。売れるうちに売る、あるいは相続土地国庫帰属制度のような選択肢を検討する。「とりあえず持っておく」がいちばん危ないのです。持ち続けた土地は、次の代でさらに分けにくくなります。当センターでは、相続登記の実務から、使い道のない土地の処分の検討、司法書士・弁護士のご紹介まで、一貫してお手伝いしております。「隣の土地の持ち主が分からなくて困っている」というご相談も、「うちの田舎の土地をどうすればよいか」というご相談も、どちらも歓迎です。どうぞお気軽にお電話ください。
従来の制度との使い分け――不在者財産管理人・相続財産清算人との違い
新制度ができたからといって、従来の制度がなくなったわけではありません。状況に応じて使い分けます。
| 制度 | 単位 | 使う場面 | 裁判所 |
|---|---|---|---|
| 所有者不明土地管理人 (民法264条の2) |
土地・共有持分ごと | 特定の土地について、所有者や所在が分からないとき | 地方裁判所 |
| 管理不全土地管理人 (民法264条の9) |
土地ごと | 所有者は分かるが管理が不適当で、他人の権利等が侵害され、または侵害されるおそれがあるとき | 地方裁判所 |
| 不在者財産管理人 (民法25条) |
人(不在者)の財産全体 | 行方不明者の財産全体を管理する必要があるとき。遺産分割協議に参加してもらう場面など | 家庭裁判所 |
| 相続財産清算人 (民法952条) |
人(被相続人)の相続財産全体 | 相続人のあることが明らかでないとき。債権者への弁済や特別縁故者への分与、残余の国庫帰属まで行う | 家庭裁判所 |
選び方の考え方
- 目的が「その土地一筆をどうにかしたい」だけなら……新しい管理制度のほうが、対象が絞られる分、手続きも費用も抑えられる可能性があります。
- 目的が「遺産分割協議を成立させたい」なら……協議には相続人全員の参加が必要ですので、行方不明の相続人については不在者財産管理人、相続人がいるかどうか分からない場合は相続財産清算人という従来の枠組みが必要になります。前者は行方不明の相続人がいるときの遺産分割、後者は相続人がいないときの記事で詳しく扱っています。
- 目的が「共有関係を解消したい」なら……2023年施行の改正では、所在等不明共有者の持分の取得・譲渡という別の仕組みも設けられています。不動産の共有相続のリスクと解消方法の記事をご覧ください。
- 目的が「いらない土地を手放したい」なら……相続土地国庫帰属制度の検討対象になり得ます。
どの制度が使えるかは、目的から逆算してください
ご相談の現場でよく起きるのが、「制度の名前を先に決めてから、当てはめようとする」という進め方です。これはうまくいきません。まず「何を実現したいのか」(枝を切りたい/建物を壊したい/土地を買いたい/遺産分割を終わらせたい)をはっきりさせ、そこから逆算して制度を選ぶのが正しい順序です。そして、その判断は法律専門家の領域です。必ず弁護士・司法書士にご相談ください。
費用は誰が負担するのか――予納金と報酬(民法264条の7・264条の13)
最後に、多くの方が気にされる費用の話です。
条文上の建前
民法264条の7は、所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払および報酬を受けることができるとし(1項)、管理に必要な費用および報酬は、所有者不明土地等の所有者(共有持分を有する者を含む)の負担とすると定めています(2項)。
管理不全土地管理人についても、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払および報酬を受けることができ(民法264条の13第1項)、その費用および報酬は管理不全土地等の所有者の負担とするとされています(同条2項)。
現実の最初の持ち出し=申立てをした人
「所有者の負担」と書いてあっても、立て替えるのは申立人です
ここが、この制度のもっとも現実的な壁です。条文は費用と報酬を所有者の負担としていますが、その所有者は、そもそも所在が分からないか、管理をしてくれない人です。実務では、申立てをする人が裁判所に予納金を納め、そこから管理人の費用・報酬が支払われるという運用がとられています。土地に価値があって売却できれば、その代金から回収される可能性がありますが、価値の乏しい土地では戻ってこないことも十分に考えられます。予納金の額は事案により大きく異なり、裁判所が個別に定めます。金額の見通しについては、申立てを予定する地方裁判所または弁護士に、事前に必ずご確認ください。本記事で具体的な金額をお示ししないのは、事案による幅が大きく、断定的な数字が誤解を招くためです。
費用対効果を、冷静に見積もること
私たちがご相談をお受けするときに必ず申し上げるのは、「その手続きにかける費用と、それによって得られるものを、並べて比べてください」ということです。隣地の樹木を処理してもらうために、予納金と弁護士費用をかけるのが見合うのか。自治体の相談窓口や、相続人のおひとりとの直接交渉で解決できないか。制度を使うのは、それらを尽くした後でも遅くはありません。
所有者不明土地・管理不全土地の管理制度でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談の中で見えてきた、この2つの制度をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 「申し立てれば、その土地を買える」と思っている 取得のための制度ではありません。管理人は所有者のために善良な管理者の注意をもって権限を行使する立場であり(民法264条の5第1項)、売却には裁判所の許可が必要です(同264条の3第2項)。後から所有者が現れて所有権の帰属を証明すれば、管理命令は取り消されます(非訟事件手続法90条11項)。
- 家庭裁判所に申し立ててしまう 管轄は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所です(非訟事件手続法90条1項・91条1項)。不在者財産管理人(家庭裁判所)や相続財産清算人(家庭裁判所)と混同しやすい点です。
- 「すぐに何とかなる」と期待してしまう 所有者不明の管理命令には、公告と、1か月を下ってはならない異議届出期間があり、その期間の経過前には命令をすることができません(非訟事件手続法90条2項)。緊急の危険への即効薬ではありません。
- 管理不全の制度でも、裁判所の許可さえあれば売れると思っている 管理不全の場合は、裁判所の許可に加えて、所有者の同意が必要です(民法264条の10第3項)。所有者不明の場合(許可のみ)とのいちばん大きな違いです。
- 費用が「所有者の負担」と書いてあるので、自分は払わないと思っている 条文上の負担者は所有者ですが(民法264条の7第2項・264条の13第2項)、実務では申立人が予納金を納める運用とされています。土地に価値がなければ、回収できないことも十分に考えられます。
- 同じ改正法だからと、施行日を取り違える 民法の管理制度は2023年(令和5年)4月1日、相続登記の申請義務化は2024年(令和6年)4月1日、住所等変更登記の義務化は2026年(令和8年)4月1日から、それぞれ施行されています。制度ごとに施行日が異なります。
- そもそも「自分の家の相続登記」を後回しにしている 所有者不明土地の多くは、相続登記がされないまま世代を重ねたことから生まれます。いま困っている隣地の状況は、放置すればご自身の土地の未来でもあります。相続登記は2024年4月1日から申請が義務化されています。
この記事のまとめ
- 2023年(令和5年)4月1日に施行された改正民法により、「人」ではなく「土地・建物」を単位として管理人を選任する制度が新設された。従来の不在者財産管理人・相続財産清算人が財産全体を対象としていたのに対し、対象を絞れる点が特徴。
- 新設されたのは4つ。所有者不明土地管理命令=民法264条の2、所有者不明建物管理命令=民法264条の8、管理不全土地管理命令=民法264条の9、管理不全建物管理命令=民法264条の14。
- 所有者不明土地管理命令は、所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない土地(共有の場合はその共有持分)について、必要があると認めるときに、利害関係人の請求によりされる。命令の効力は、その土地にある動産(所有者等が所有するもの)にも及ぶ(同条2項)。
- 管理・処分の権利は所有者不明土地管理人に専属する(民法264条の3第1項)。保存行為と、性質を変えない範囲内の利用・改良行為を超える行為には、裁判所の許可が必要(同条2項)。許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない(同項ただし書)。
- 管理人は、所有者のために善良な管理者の注意をもって権限を行使し、複数の共有持分が対象のときは全員のために誠実かつ公平に行使しなければならない(民法264条の5)。
- 手続きは不動産の所在地を管轄する地方裁判所(非訟事件手続法90条1項・91条1項)。所有者不明の場合、公告と、1か月を下らない異議届出期間の経過後でなければ管理命令をすることができない(同90条2項)。管理命令の登記は裁判所書記官が職権で嘱託(同条6項)、金銭が生じたときは供託することができる(同条8項)。
- 所有者が所有権の自己への帰属を証明したときは、その申立てにより管理命令を取り消さなければならず、管理人は事務の経過・結果を報告して財産を引き渡す(同条11項)。
- 管理不全土地管理命令は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、利害関係人の請求によりされる(民法264条の9第1項)。所有者が判明していても使える。
- 管理不全の場合、管理人は権限を「有する」にとどまり(専属ではない)(民法264条の10第1項)、保存・利用改良を超える行為には裁判所の許可が必要(同条2項)、さらに土地の処分についての許可をするには所有者の同意がなければならない(同条3項)。
- 手続き面でも、管理不全土地管理命令をする場合には、原則として対象となるべき土地の所有者の陳述を聴かなければならないとされている(非訟事件手続法91条3項1号。ただし書に例外あり)。
- 費用と報酬は、条文上は所有者の負担とされている(民法264条の7第2項・264条の13第2項)が、実務では申立人が予納金を納める運用とされ、土地の価値によっては回収できないこともある。予納金の額は裁判所が個別に定めるため、事前に確認が必要。
- 同じ令和3年の改正でも施行日は制度ごとに異なる。民法の管理制度=2023年4月1日、相続登記の申請義務化=2024年4月1日、住所等変更登記の義務化=2026年4月1日。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索 民法(第264条の2〜第264条の14、第25条、第952条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索 非訟事件手続法(第90条・第91条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000051
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」(所有者不明土地・建物管理制度/管理不全土地・建物管理制度の施行日=令和5年4月1日) https://www.moj.go.jp/content/001444020.pdf
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00693.html
- 裁判所(手続案内・申立てに関する情報) https://www.courts.go.jp/
- 法務省 民事局(民法・不動産登記法関係の一次情報) https://www.moj.go.jp/MINJI/index.html
「隣の土地の持ち主が分からなくて困っています」――ご相談ください
相続人の調査から、自治体窓口の活用、管理命令の申立ての要否の見極めまで。
司法書士・弁護士と連携し、いちばん現実的な道筋をご提案いたします。