相続した実家を「解体する」前に考えること――売る・建て替える・更地で持つ

相続した実家を解体する理由は、ご家庭によってさまざまです。

ただし、解体は元に戻せません。建物を壊すと、固定資産税が上がることがあるほか、売却のしかたによっては税金の特例の使い方も変わります。また、相続の手続きがまだ終わっていない段階で解体すると、ほかの相続人とのトラブルや相続放棄ができなくなるといった問題も生じかねません。

「壊すか、壊さないか」「いつ壊すか」は、相続の手続き・税金・売却の見通しをそろえて判断することが大切です。売る・貸す・住むといった選択肢全体の整理は実家・空き家の相続の記事をご覧ください。

解体の前に決めておくこと――遺産分割、相続放棄への影響、相続税の特例

遺産分割前の実家は「相続人全員の共有」

相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまでの間、相続財産は相続人全員の共有になります(民法898条)。建物を取り壊すことは共有物に変更を加える行為にあたり、原則として共有者全員の同意が必要です(民法251条)。2023年4月施行の改正で、形状・効用の著しい変更を伴わない「軽微変更」は持分の過半数で決められるようになりましたが、建物の取り壊しはこれに当たらないと考えられます。

「長男だから」「実家の近くに住んでいるから」といって、ほかの相続人の同意なく解体を進めると、後で大きなトラブルになりかねません。遺産分割協議で実家を取得する人を決めてから、その人が発注者として解体するのが基本です。遺産分割前に解体せざるを得ない事情があるときも、相続人全員の同意を書面で残しておきましょう。

相続放棄を考えているなら、解体は待つ

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、相続を単純承認したものとみなされます(民法921条1号)。建物の取り壊しは、典型的な処分にあたり得る行為です。被相続人に借金があるなどで相続放棄を検討している場合は、解体を進める前に必ず専門家に相談してください(法定単純承認の記事)。

相続税の特例を使う予定があるなら、申告期限までの扱いを確認

相続税の申告で小規模宅地等の特例を使う場合、取得した人の区分によっては、相続税の申告期限までその宅地を保有し続けることや、居住を続けることなどが要件になっています。申告期限より前に解体・売却すると、要件を満たさなくなる場合がありますので、解体の時期は税理士に確認してから決めましょう(小規模宅地等の特例の記事)。

[解体費用は相続税の債務控除にならない]
相続税の計算で差し引ける債務は、被相続人が亡くなった時点で負っていた確実な債務です。相続人が相続後に発注した解体工事の費用は、債務控除の対象になりません。費用を誰が負担するかも、遺産分割の話し合いで決めておくとよいでしょう。

解体工事の流れと届出――建設リサイクル法と石綿(アスベスト)事前調査

解体工事は、おおむね次のような流れで進みます。

  1. 家財の整理(遺品整理)建物の中の家財・遺品を片付けます。貴重品や重要書類の見落としに注意します(遺品整理の記事)。
  2. 解体業者の選定・見積もり複数社から見積もりを取り、工事内容・廃棄物の処分方法・追加費用の条件を確認します。
  3. ライフラインの停止電気・ガス・電話・インターネットなどの解約・撤去を手配します。水道は工事で使う場合があるため、業者と相談します。
  4. 届出・事前調査下記の届出・調査が行われているかを確認します。
  5. 近隣へのあいさつ・工事騒音・振動・粉じんについて、事前に近隣へ説明しておきます。
  6. 取壊し証明書の受け取り工事が終わったら、業者から取壊し証明書(建物滅失証明書)と、業者の印鑑証明書・資格証明書などを受け取ります。滅失登記で使います。

建設リサイクル法の届出(床面積80㎡以上)

建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)により、床面積の合計が80㎡以上の建築物の解体工事は対象建設工事となり、発注者が、工事に着手する日の7日前までに、都道府県知事(権限が移譲されている市ではその市)へ届け出る必要があります。実務上は解体業者が委任を受けて手続きをすることが多いですが、届出の義務者は発注者である点を覚えておきましょう。届出先は工事場所の自治体の案内でご確認ください。

石綿(アスベスト)の事前調査と結果の報告

建築物の解体工事では、石綿が使われているかどうかの事前調査が必要です。さらに、2022年4月1日からは、床面積の合計が80㎡以上の解体工事などについて、工事の元請業者が事前調査の結果を労働基準監督署と自治体に報告する制度が始まっています。古い建物では石綿が使われていることもあり、除去が必要になると費用が増えることがありますので、見積もりの段階で確認しておきましょう。

建物滅失登記とは――取り壊したら1か月以内(不動産登記法57条)

建物を取り壊しても、登記簿(登記記録)は自動的には消えません。建物がなくなったことを登記簿に反映させるのが建物滅失登記です。

不動産登記法57条は、建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その滅失の日から1か月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならないと定めています。そして、申請すべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処するとされています(同法164条1項)。

項目内容
申請期限滅失の日から1か月以内(不動産登記法57条)
怠った場合正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象(同法164条1項)
申請先建物の所在地を管轄する法務局
登録免許税表示に関する登記のため、かからない
主な添付書類取壊し証明書、解体業者の印鑑証明書・資格証明書、(相続人が申請する場合)相続を証する戸籍謄本等など

滅失登記をしないと、どうなるか

滅失登記をしないままにしておくと、登記簿上は建物が残っていることになります。その結果、土地を売るときに買主や金融機関から滅失登記を求められて手続きが遅れる、土地に新しい建物を建てるときの登記で支障が出る、といった問題が起こり得ます。解体工事が終わったら、取壊し証明書を受け取ってすぐに手続きを進めるのが安心です。

相続人が申請する滅失登記――建物の相続登記は不要、相続人から申請できる(不動産登記法30条)

相続した実家では、建物の登記名義人が亡くなった親のままということがよくあります。この場合、「先に建物を相続人名義にする相続登記をしないといけないのでは」と心配される方がいらっしゃいます。

不動産登記法30条は、表題部所有者又は所有権の登記名義人が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、その者について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人が、当該表示に関する登記を申請することができると定めています。滅失登記は表示に関する登記ですので、建物について相続登記をしなくても、相続人から滅失登記を申請できます。

相続人が複数いる場合でも、一般に相続人の一人から申請できる扱いとされています。その際は、申請人が相続人であることを示すため、被相続人の死亡と相続関係が分かる戸籍謄本等を添付します。必要な書類の範囲は事案によって異なりますので、申請前に管轄の法務局に確認しておくと確実です。

建物は滅失登記で済んでも、「土地」の相続登記は必要です

建物の相続登記が不要になるのは、建物がなくなったからにすぎません。土地については、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されており、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません(不動産登記法76条の2)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。土地の相続登記は忘れずに進めましょう(相続登記の記事)。

滅失登記は、土地家屋調査士に依頼することも、ご自身で申請することもできます。ご自身で申請する場合は、法務局の窓口や登記手続案内を利用すると進めやすくなります。

未登記建物を取り壊したとき――市区町村への家屋滅失届

古い実家では、母屋は登記されていても、離れ・物置・増築部分が登記されていないことがあります。また、建物全体が未登記のこともあります(未登記建物の記事)。

未登記の建物には登記記録がないため、取り壊しても法務局への滅失登記はありません。ただし、未登記の建物も固定資産税の課税台帳には載っていることが多いため、市区町村の税務担当課に「家屋滅失届」などを提出して、課税台帳から外してもらうのが一般的です。届出の様式や添付書類は自治体ごとに異なりますので、建物所在地の市区町村でご確認ください。

[登記されている建物は、滅失登記で連携されるのが一般的]
登記されている建物の場合、法務局で滅失登記がされると、その情報が市区町村に通知され、固定資産税の課税台帳にも反映されるのが一般的です。ただし、建物の一部だけが登記されている場合などは、念のため市区町村にも確認しておくと安心です。

固定資産税と譲渡の税金――住宅用地特例が外れる時期、空き家3,000万円控除、取壊し費用

住宅を取り壊すと、翌年度から土地の固定資産税が上がることがある

住宅が建っている土地には、固定資産税の住宅用地の特例(地方税法349条の3の2)があり、小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡までの部分)は課税標準が価格の6分の1、一般住宅用地(200㎡を超える部分)は3分の1に軽減されています。

固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)の状況で課税されます。そのため、年の途中で住宅を取り壊すと、翌年1月1日時点では住宅がないため、翌年度から特例が外れ、土地の固定資産税が大きく上がることがあります。建て替え中の土地など、一定の要件のもとで特例が続く扱いもありますが、取扱いは自治体の判断によりますので、解体の時期は市区町村に確認したうえで決めましょう。なお、取り壊さずに放置して空家法の勧告を受けた場合にも特例は外れます(空家法の記事、固定資産税の記事)。

売るなら「空き家3,000万円控除」の要件を確認

相続した実家を売る場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(租税特別措置法35条3項)があります。国税庁の案内によれば、主な要件は次のとおりです。

また、2024年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人が3人以上の場合は、控除額は1人あたり2,000万円までとなります。ほかにも、相続の直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと、相続から売却までの間に事業・貸付け・居住の用に供していないことなどの要件があります。「自分たちで先に壊すか、買主に壊してもらうか」で手続きや証明書類が変わるため、売却の段取りを決める前に要件を確認しておきましょう。最新の要件は国税庁でご確認ください(相続した不動産の譲渡所得税の記事)。

取壊し費用は「譲渡費用」になる場合がある

国税庁のタックスアンサー「譲渡費用となるもの」では、土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額が、譲渡費用の例として挙げられています。売るための解体であれば、解体費用を譲渡所得の計算で差し引ける可能性がありますので、見積書・請求書・領収書は必ず保管しておきましょう。一方、相続人が自分で住むために建て替える場合など、売却のための解体でなければ、この扱いにはなりません。

相続した実家の解体でよくある7つの落とし穴

  1. 遺産分割前に、ほかの相続人に無断で解体する 遺産分割前の建物は相続人全員の共有です(民法898条)。取り壊しには原則共有者全員の同意が必要です(民法251条)。
  2. 相続放棄を考えているのに解体してしまう 相続財産の処分は単純承認とみなされるおそれがあります(民法921条1号)。解体の前に専門家へ相談します。
  3. 滅失登記を忘れる 取り壊したら1か月以内に申請が必要です(不動産登記法57条)。怠ると10万円以下の過料の対象(同法164条1項)。
  4. 先に建物の相続登記をしなければと思い込む 滅失登記は表示に関する登記で、相続人から申請できます(同法30条)。建物の相続登記の費用をかける必要は通常ありません。
  5. 土地の相続登記を忘れる 建物がなくなっても、土地の相続登記は義務です(3年以内、10万円以下の過料)。
  6. 解体の時期で固定資産税が上がることを知らない 1月1日に住宅がなければ、翌年度から住宅用地特例が外れることがあります。時期は市区町村に確認します。
  7. 空き家3,000万円控除の期限・要件を確認しない 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡(例:2023年5月に相続→2026年12月31日まで)、2027年12月31日までの適用期限、相続人3人以上は2,000万円など、要件を事前に確認します。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「解体業者は決めたけれど、登記のことを知らなかった」――Mさまのご相談

Mさま(60代)はお母さまを亡くされ、相続人はMさまと妹さんの二人です。築50年を超える実家には誰も住む予定がなく、Mさまは「年内に解体業者に壊してもらって、来年土地を売ろうと思います。ただ、建物の名義は母のままです。何か手続きが必要ですか」とご相談に来られました。

私からは、「まず妹さんと遺産分割の話し合いをして、実家を誰が取得し、解体費用をどう負担するかを決めておきましょう。取り壊した後は1か月以内に建物滅失登記が必要ですが、建物の相続登記をしなくても相続人から申請できます。土地の相続登記は別に必要です。また、年内に壊すと来年度の固定資産税が上がる可能性があり、売却の税金の特例も要件の確認が必要です」とお伝えしました。

Mさまは妹さんと話し合い、遺産分割協議でMさまが実家を取得し、売却代金で解体費用を精算することにしました。税理士に空き家3,000万円控除の要件を確認したうえで、売却の段取りに合わせて解体の時期を決め、解体後は取壊し証明書を受け取ってすぐに滅失登記を済ませました。Mさまは「壊すことばかり考えていて、前後の手続きをまったく知りませんでした」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

「壊す前」と「壊した後」の段取りを、先に一枚の紙に

相続した実家の解体のご相談では、解体工事そのものに意識が向きがちです。けれども実際には、壊す前の遺産分割、壊した後の滅失登記、そして翌年以降の固定資産税や売却の税金と、前後に大切な手続きがいくつもあります。

とくに、解体の時期は、固定資産税や売却の特例に影響することがあり、いつ壊すかで結果が変わります。業者と契約する前に、ご家族と手続きの順番を整理しておくことをおすすめします。

私たちは、ご事情を伺いながら論点を整理し、必要に応じて土地家屋調査士・司法書士・税理士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 遺産分割前の実家は相続人全員の共有(民法898条)。取り壊しは原則共有者全員の同意が必要です(民法251条)。相続放棄を考えているなら、処分による単純承認(民法921条1号)に注意します。
  • 床面積80㎡以上の解体は、建設リサイクル法の届出(工事着手の7日前まで・発注者)と、石綿事前調査結果の報告(2022年4月1日から)が関係します。
  • 取り壊したら滅失の日から1か月以内に建物滅失登記(不動産登記法57条)。怠ると10万円以下の過料の対象(同法164条1項)。登録免許税はかかりません。
  • 登記名義人が亡くなっていても、建物の相続登記をせずに相続人から申請できます(同法30条)。ただし土地の相続登記は別途義務です。
  • 未登記建物は滅失登記がなく、市区町村への家屋滅失届で対応するのが一般的です。
  • 1月1日に住宅がなければ翌年度から住宅用地特例が外れることがあります。売るなら空き家3,000万円控除(2027年12月31日まで、相続人3人以上は2,000万円)と、取壊し費用の譲渡費用の扱いを確認します。最新の情報は法務省・国税庁でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、登記・届出の受理や、固定資産税・譲渡所得税の特例の適用を保証するものではありません。滅失登記の添付書類、建設リサイクル法の届出先、石綿事前調査の要否、住宅用地特例の取扱い、空き家3,000万円控除の適用の可否などは、建物の状況、相続関係、工事の内容、自治体の運用などの個別の事情によって異なります。本文中の条文の引用は、読みやすさのために一部を省略し、要旨として示した箇所があります。本記事の内容は2026年10月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず法務省、国税庁、e-Gov法令検索、建物所在地の法務局・市区町村で最新の内容をご確認のうえ、土地家屋調査士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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