「証券会社から通知が来ましたが、どうすれば」――株の相続は預貯金と勝手が違う

まず、預貯金との違いをはっきりさせておきます。ここが分かれば、あとの手続きは筋道が見えてきます。

 預貯金上場株式・投資信託
受け取り方 解約して現金で払戻しを受けられる そのままの形で相続人名義の口座へ移す(移管)のが原則
相続人側の準備 受取用の預金口座があればよい 相続人名義の証券口座が必要(なければ開設から)
現金化したいとき 解約すればそのまま現金 移管したあと、相続人が売却する
価格の変動 ない(利息のみ) 毎日動く。手続きが長引くほど、分けるときの価値が変わる
分割前の一部払戻し 民法909条の2の払戻し制度がある 同様の制度はない
株の相続手続き = 解約ではない
= 相続人名義の口座への「移管」が原則
現金で分けたい場合は、移管したうえで相続人が売却します

連絡した時点で、口座は動かせなくなります

証券会社に名義人の死亡を伝えると、口座は凍結され、売買も出金もできなくなります。預貯金と同じ考え方です。「値下がりしそうだから、先に売っておこう」ということはできません。

凍結前に相続人が売却するのは、避けてください

「まだ証券会社に伝えていないから、ログインして売ってしまえばよいのでは」とお考えになる方がいらっしゃいます。これは強くお勧めできません。相続財産の処分にあたる行為をすると、民法921条1号により法定単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります。被相続人に借金がないと確信できていない段階では、絶対に手を触れないでください。また、他の相続人から後日「勝手に売った」と問題にされる火種にもなります。詳しくは法定単純承認の記事をご覧ください。

価格が動くことの、実務上の意味

これは相続実務ならではの難しさです。相続税の評価は「相続開始日(死亡日)」を基準に固定される一方、実際に分けるときの価値は、そのときの株価で決まります。手続きに半年かかれば、その間に株価は動きます。

ですから、遺産分割協議書に「◯◯株式会社の株式1,000株を長男が取得する」と株数で書くのか、「評価額◯◯円相当」と金額で書くのかは、実は大きな違いを生みます。株数で書けば値動きのリスクは取得者が負い、金額で書けば他の財産との調整が必要になります。ここは、ご家族でよくお話し合いください。

まず現状を把握する――残高証明書と「ほふり」への開示請求

手続きの第一歩は、「どこに、何が、どれだけあるか」を確定させることです。

取引先が分かっている場合――残高証明書を請求する

証券会社に相続開始を連絡し、相続開始日現在の残高証明書を請求します。これは相続税の申告にも、遺産分割協議にも必要な、いちばん基礎になる書類です。

取引先が分からない場合――「ほふり」への開示請求

「父がどこの証券会社と取引していたのか、まったく分からない」――これも、よくあるご相談です。この場合、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に対して、登録済加入者情報の開示請求を行う方法があります。

[分かるのは「どこと取引があるか」までです]
ほふりへの開示請求で判明するのは、被相続人が口座を開設している証券会社等の名称です。その口座に何がいくらあるかまでは分かりません。判明した各社に、あらためて残高証明書を請求する流れになります。請求の方法・必要書類・手数料は証券保管振替機構のサイトでご確認ください。

手元の書類から探す

ご自宅に残された郵便物も、有力な手がかりです。

財産の探し方全般については相続財産の調べ方の記事で網羅的に整理しています。

相続税評価――上場株式は「4つのうち最も低い価額」(評価通達169)

相続税の申告が必要な場合、上場株式をいくらで評価するか。ここには、納税者に有利な独特のルールがあります。

① 課税時期の最終価格
② 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額
③ その前月の毎日の最終価格の月平均額
④ その前々月の毎日の最終価格の月平均額

→ このうち最も低い価額で評価
財産評価基本通達169。「課税時期」とは相続開始日(死亡日)のことです

なぜ、こうしたルールがあるのか

株価は、その日の相場や一時的な材料で大きく振れます。たまたま高い日に亡くなったというだけで重い相続税を負担することになるのは酷である――そうした考え方から、直前3か月の月平均額と比べて、最も低い価額を選べる取り扱いが置かれています。

「死亡日の終値」だけで計算してしまう方が、本当に多くいらっしゃいます

ご自身で申告書を作られた方から、「死亡日の株価で計算しました」と伺うことがよくあります。株価が下落局面にあった場合、死亡日の終値がいちばん低いこともありますので結果的に正しいこともありますが、上昇局面では、前々月の月平均額のほうが大幅に低いということが起こります。4つを必ず並べて、最も低いものをお選びください。すでに申告を終えてしまった場合でも、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができるのが原則です。相続税の更正の請求の記事をご参照ください。

実務上の注意点

なお、非上場株式(取引相場のない株式)の評価は、まったく別の体系です。非上場株式の評価の記事をご覧ください。相続財産の評価の全体像は相続財産の評価方法とはで整理しています。

投資信託の評価――解約請求の手取額で見る(評価通達199)

投資信託は、株式とは別の算式で評価します。根拠は財産評価基本通達199(証券投資信託受益証券の評価)です。

1口あたりの基準価額 × 口数
源泉徴収されるべき所得税額等に相当する金額
信託財産留保額および解約手数料(消費税額を含む)
= 評価額
財産評価基本通達199。要するに「いま解約したら、手取りでいくらになるか」という考え方です

考え方は「解約したら、手元にいくら残るか」

基準価額をそのまま使うのではなく、解約したときに差し引かれるものを引いた「手取額」で評価する、というのが基本の発想です。基準価額の総額だけで申告してしまうと、評価が過大になります。

[証券会社に「相続税評価額」の資料を頼めることがあります]
投資信託の評価は、基準価額・口数・信託財産留保額・源泉徴収税額をそろえないと計算できません。証券会社によっては、相続開始日を基準とした評価額の参考資料を発行してくれることがあります。残高証明書を請求されるときに、あわせてご相談ください。ただし、あくまで参考資料であり、申告に用いる評価額の最終的な責任は納税者側にあります。個別の判定は必ず税理士にご確認ください。

手続きの本体は「移管」――相続人名義の口座を開くところから

いよいよ手続きの本体です。証券会社によって書式も名称も異なりますが、大きな流れは共通しています。

STEP 1-3相続開始の連絡
残高証明書・分割協議
STEP 4-5相続人名義の口座開設
書類の提出
STEP 6-7移管の完了
(必要なら)売却
  1. 証券会社へ相続開始を連絡するこの時点で口座は凍結されます。相続手続きの案内と書類一式が送られてきます。
  2. 残高証明書を取得する相続開始日現在で発行してもらいます。相続税の申告にも、遺産分割協議にも必要です。
  3. 誰が取得するかを確定させる遺言があれば遺言に従い、なければ遺産分割協議で決めます。協議書には、銘柄・株数(口数)を特定できるように記載してください。遺産分割協議書の記事もご参照ください。
  4. 取得する相続人が、証券口座を用意するここが最大の関門です。原則として、被相続人と同じ証券会社に、相続人名義の口座を開設する必要があります。すでに口座をお持ちであればそれを使えますが、お持ちでなければ新規開設から始まり、その分だけ日数がかかります。マイナンバーの提出も必要です。
  5. 必要書類を提出する一般に、相続手続依頼書(相続人全員の署名・実印)、被相続人の出生から死亡までの戸籍一式または法定相続情報一覧図の写し、相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書、遺産分割協議書または遺言書などです。必要書類は証券会社ごとに異なりますので、必ず各社の案内でご確認ください。戸籍の集め方は戸籍の集め方と法定相続情報一覧図をご覧ください。
  6. 被相続人の口座から、相続人の口座へ振り替えられるこれが「移管」です。株数・口数はそのまま、名義だけが変わります。この時点では売買は生じていませんので、移管それ自体に譲渡所得税はかかりません。
  7. 現金化するなら、移管後に相続人が売却する売却するかどうか、いつ売るかは、名義を得た相続人ご自身の判断です。

「現金で分けたい」ときの実務――換価分割

「相続人3人で、株を3等分するのは面倒だから、売って現金で分けたい」――もっともなご希望です。この場合は換価分割という方法をとります。

遺産分割協議書に「換価して分配する」旨を明記してください

実務では、代表相続人1人の口座にいったん移管し、その相続人が売却して、代金を各相続人に分配するという進め方がよく使われます。このとき、遺産分割協議書に「換価のうえ、その代金を◯対◯対◯の割合で分配する」旨をはっきり書いておくことが決定的に大切です。この記載がないまま代表相続人から他の相続人へ現金が渡ると、贈与とみなされるおそれがあるからです。また、売却益に対する譲渡所得税は、各相続人がそれぞれの取得割合に応じて申告するのが原則です。個別の取り扱いは必ず税理士にご確認ください。遺産の分け方全般は遺産分割の4つの方法の記事で整理しています。

売ったときの税金――取得費は被相続人から引き継ぐ

相続した株式を売却したときの譲渡所得の計算で、もっとも誤解が多いのがここです。

取得費・取得日は被相続人から引き継ぐ
(相続時の評価額ではありません)
所得税法60条1項。被相続人が40年前に買った値段が、そのまま取得費になります
ご相談事例

※ 以下は、実際のご相談を踏まえて構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「NISAだから、税金はかからないと思っていました」

ご相談にいらしたのは、お父さまを亡くされた50代のご長男とご長女のお二人でした。お父さまは長く投資をされており、ネット証券のNISA口座に投資信託とETF、それとは別に特定口座に上場株式をお持ちでした。

ご相談の第一声は、こうでした。「NISAは非課税と聞いていますので、この分は相続税の対象外でよいのですよね」と。私たちがお伝えしなければならなかったのは、残念ながら逆のことでした。NISAの非課税は、所得税・住民税についてのお話であり、相続税とはまったく別の制度です。NISA口座にある資産も、当然に相続税の課税対象になります。

加えて、二つ目の誤解がありました。「私もNISA口座を持っているので、そちらに移してもらえば非課税のまま続けられますね」とご長女が仰ったのです。これもできません。NISA口座は、あくまでご本人が新規に投資をするための口座であり、被相続人のNISA資産を相続人のNISA口座へ移すことはできない取り扱いです。相続人の課税口座(特定口座または一般口座)へ移管されることになります。

もっとも、悪い話ばかりではありませんでした。お父さまがNISA口座で保有されていた投資信託には、かなりの含み益がありました。ご長女は「では、その値上がり分にも所得税がかかるのですか」と心配されましたが、相続によって払い出された上場株式等は、原則として相続開始日の終値相当額で取得したものとされます。ですから、そこまでの値上がり分について、相続人に譲渡所得税が生じることはありません。お二人は、少しほっとされたご様子でした。

そして、この事案には続きがありました。遺品を整理していたご長女が、見覚えのない信託銀行から届いた「配当金計算書」を持ってこられたのです。証券会社の残高証明書には、その銘柄はありませんでした。「父は、この会社の株も持っていたのでしょうか」と。これが「特別口座」でした。2009年の株券電子化のときに証券会社に預けられていなかった、いわゆるタンス株です。手続き先は証券会社ではなく、発行会社の株主名簿管理人である信託銀行でした。

この事案から申し上げたいことは、二つです。一つは、「非課税」という言葉が、どの税金の話なのかを必ず確かめること。NISAは所得税・住民税の話であって、相続税の話ではありません。もう一つは、証券会社の残高証明書だけで「全部そろった」と思わないこと。郵便物の一通が、見落とされていた財産を教えてくれることがあります。

NISA口座はどうなるのか――非課税のまま引き継ぐことはできない

NISA口座をお持ちの方が増えるにつれ、この論点のご相談も急増しています。整理します。

よくある思い込み実際の取り扱い
「NISAだから相続税もかからない」 かかります。NISAの非課税は所得税・住民税についての制度であり、相続税の課税対象になるかどうかとは無関係です。
「相続人のNISA口座へ移せる」 移せません。NISA口座は本人が新規に投資をするための口座であり、被相続人のNISA資産を相続人のNISA口座へ受け入れることはできない取り扱いです。
「非課税のまま運用を続けられる」 続けられません。NISA口座の非課税の適用は死亡によって終了し、資産は相続人の課税口座(特定口座または一般口座)へ移管されます。
「死亡日までの値上がり分にも所得税がかかる」 かかりません。相続により払い出された上場株式等は、原則として相続開始日(死亡日)の終値相当額で取得したものとされます。その後の値動きが、相続人の譲渡損益の対象になります。※この「死亡日の終値で取得したものとみなす」取り扱いは、NISA口座から払い出された資産についてのものです。特定口座・一般口座にある株式は、前章のとおり所得税法60条1項により被相続人の取得費・取得日を引き継ぎます。混同なさらないようご注意ください。
「配当金も非課税のまま」 死亡日以後に支払われる配当金・分配金は、非課税の対象外となります。
[金融機関への届出が必要です]
NISA口座の名義人が亡くなった場合、金融機関に対して、非課税口座の開設者が死亡した旨の届出書を提出する必要があります。様式や提出先は金融機関により異なりますので、相続開始のご連絡の際に、NISA口座がある旨をあわせてお伝えください。制度の詳細は国税庁タックスアンサー No.1464および金融庁のNISA特設ウェブサイトでご確認ください。
― 私たちから一言 ―

「株の相続は、時間が味方をしてくれません」

相続手続き全般について、私はよく「あわてなくて大丈夫ですよ」と申し上げます。ご葬儀の直後は、どなたも疲れきっておられます。ところが有価証券だけは、少し事情が違うと思っております。

理由は単純で、価格が動き続けるからです。預貯金であれば、半年放っておいても金額は変わりません。ところが株式は、遺産分割の話し合いをしている間にも上がり下がりします。「あのとき売っていれば」「いや、待っていたから増えた」――この種の議論が、ご兄弟の間に持ち込まれると、話は驚くほどこじれます。財産の額の問題ではなく、誰かの判断のせいで損得が生じた、という構図が生まれてしまうからです。私たちが見てきた中で、金額の割にもめやすいのは、実は不動産よりも上場株式でした。

ですから、ご相談を受けたときにお勧めしているのは、「分け方の方針だけは、早めに決めてしまいましょう」ということです。全部を現物で分けるのか、売って現金で分けるのか、誰の口座にいったん集めるのか。方針さえ合意できていれば、その後の値動きは「みんなで一緒に受け止めたこと」になります。逆に、方針が決まらないまま時間だけが過ぎると、値動きは「誰かのせい」になってしまう。この違いは、決定的です。

もう一つ。ご存命のうちにできる、いちばん親切な準備を申し上げます。それは、取引先の一覧を一枚の紙に書いておくことです。証券会社の名前、支店、おおよその内容。それだけで、ご遺族が費やす何十時間かが不要になります。ネット証券のみでお取引されている方は、なおさらです。紙の郵便物が一切届かない口座は、ご遺族にとって存在しないのと同じになりかねません。当センターでは、財産の洗い出しから、証券会社ごとの必要書類の整理、税理士・司法書士との連携まで、一貫してお手伝いしております。「証券会社から書類が届いたのですが、何から始めればよいでしょうか」――そのご相談から、どうぞお気軽にお電話ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

見落とされがちな「特別口座」「単元未満株」「配当金」

ここからは、実務で漏れやすい三つの論点です。どれも「気づかなければ、そのまま放置される」種類のものですので、ぜひ知っておいてください。

特別口座――証券会社ではなく、信託銀行にある株

2009年1月の株券電子化の際、それまで株券を自宅で保管していた(=証券会社に預けていなかった)株主のために、発行会社が株主名簿管理人(信託銀行等)に開設した口座が「特別口座」です。いわゆる「タンス株」の受け皿です。

特別口座の特徴内容
どこにあるか証券会社ではなく、発行会社の株主名簿管理人(信託銀行の証券代行部門など)
売買できるかできません。売却するには、いったん証券会社の口座へ振り替える必要があります
相続手続きの窓口その株主名簿管理人です。証券会社に問い合わせても分かりません
気づく手がかり配当金計算書・配当金領収証、株主総会の招集通知、株主優待の案内

「ほふり」への開示請求でも、特別口座の情報が含まれる取り扱いがあります。請求の際に、あわせてご確認ください。

単元未満株――市場では売れない、はんぱな株

単元(多くの銘柄で100株)に満たない株式のことです。株式分割や合併、あるいは単元株制度の変更によって生じます。市場では売買できません。

配当金――「未受領」と「配当期待権」を分けて考える

配当金まわりは、相続税の申告でも実務でも見落とされやすい部分です。三つに分けて整理します。

  1. 未受領の配当金郵送されてきた配当金領収証を、ゆうちょ銀行等で換金しないまま引き出しに眠らせている――よくあることです。これは被相続人が受け取るべきだった確定した金銭債権ですので、相続財産に含まれます。支払期間を過ぎたものについて、なお請求できるかどうかは発行会社の定款や取り扱いによりますので、株主名簿管理人にお問い合わせください。
  2. 配当期待権配当の基準日は過ぎているけれども、まだ配当金の交付が確定していないという状態で相続が開始した場合の権利です。財産評価基本通達193により、受けると見込まれる予想配当の金額から、その金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を控除した金額で評価し、相続財産に計上します。3月決算の会社の株式を、3月末から6月の株主総会までの間に相続した場合などが典型です。
  3. 相続開始後に基準日が到来した配当移管を受けた相続人が株主として受け取るものですので、相続財産ではなく、その相続人の所得になります。
[受取方法によって、探し方が変わります]
配当金の受け取り方には、株式数比例配分方式(証券口座で受け取る)、登録配当金受領口座方式(指定の銀行口座で受け取る)、配当金領収証方式(郵送された領収証を窓口で換金する)などがあります。株式数比例配分方式であれば証券口座の記録に残りますが、配当金領収証方式の場合、紙の領収証を見つけない限り気づけません。遺品の中の郵便物は、必ず一通ずつご確認ください。なお、被相続人が受け取っていた配当について、準確定申告が必要になる場合があります。準確定申告の記事もあわせてご覧ください。

上場株式・投資信託の相続でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談の中で見えてきた、有価証券の相続をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 預貯金と同じように「解約して現金でもらえる」と思っている 上場株式・投資信託は、相続人名義の証券口座への「移管」が原則です。現金化したい場合は、移管したうえで相続人が売却します。この順序を知らないと、手続きの入口で足止めされます。
  2. 相続人が自分の証券口座を持っておらず、そこから始まる 原則として、被相続人と同じ証券会社に相続人名義の口座を開設する必要があります。マイナンバーの提出も必要で、日数がかかります。早めに着手してください。
  3. 分け方の方針を決めないまま、時間だけが過ぎる 株価は毎日動きます。方針が決まらないうちに値動きが生じると、その損得が「誰かの判断のせい」になり、話がこじれます。現物で分けるのか換価するのかだけは、早めに合意しておいてください。
  4. 相続税評価を「死亡日の終値」だけで済ませてしまう 財産評価基本通達169により、課税時期の最終価格と、当月・前月・前々月の毎日の最終価格の月平均額の4つのうち、最も低い価額で評価できます。上昇局面では、前々月の月平均額のほうが大幅に低いことがあります。
  5. 「NISAだから相続税もかからない」と思っている NISAの非課税は所得税・住民税の制度であり、相続税は通常どおりかかります。また、相続人のNISA口座へ移すことはできず、課税口座へ移管されます。
  6. 特別口座にある株を見落とす 証券会社の残高証明書には出てきません。手がかりは配当金計算書・配当金領収証・株主総会招集通知です。手続き先は発行会社の株主名簿管理人(信託銀行等)になります。
  7. 売却時の取得費を「相続税評価額」だと思っている 取得費・取得日は被相続人から引き継ぎます(所得税法60条1項)。長く保有された株ほど含み益が大きく出ます。取得費が不明なら概算取得費5%によることもできますが、相続開始の翌日からおおむね3年10か月以内の売却であれば取得費加算の特例(租税特別措置法39条)もご検討ください。

この記事のまとめ

  • 上場株式・投資信託の相続手続きは、預貯金のような解約・払戻しではなく、相続人名義の証券口座への「移管」が原則である。現金で分けたい場合は、移管したうえで相続人が売却する。
  • 証券会社に名義人の死亡を伝えると口座は凍結される。連絡前に相続人が売却するのは避けるべきで、相続財産の処分にあたる行為は民法921条1号の法定単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがある。
  • まず相続開始日現在の残高証明書を取得する。取引先が分からない場合は、証券保管振替機構(ほふり)への登録済加入者情報の開示請求で口座を開設している証券会社等を調べられる(ただし残高は分からない)。
  • 上場株式の相続税評価は財産評価基本通達169により、①課税時期の最終価格 ②課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額 ③その前月の月平均額 ④その前々月の月平均額のうち最も低い価額による。死亡日が取引のない日であれば、前後で最も近い日の最終価格(同じ間隔で2つあればその平均額)による。
  • 負担付贈与等により取得した場合には、この月平均額と比べる特例は適用されず、課税時期の最終価格によることとされている。
  • 証券投資信託受益証券の評価は財産評価基本通達199により、基準価額から、源泉徴収されるべき所得税額等に相当する金額と、信託財産留保額・解約手数料(消費税額を含む)を控除した金額による。MRF・MMF等の日々決算型には別の算式があり、ETF・J-REITは上場株式の評価に準じて評価される。
  • 移管には、相続手続依頼書、戸籍一式または法定相続情報一覧図の写し、印鑑証明書、遺産分割協議書または遺言書などが必要。必要書類は証券会社ごとに異なる。移管それ自体には譲渡所得税は生じない。
  • 換価分割を行う場合は、遺産分割協議書に「換価のうえ代金を◯対◯で分配する」旨を明記する。記載がないと、代表相続人からの分配が贈与とみなされるおそれがある。
  • 売却時の取得費・取得日は被相続人から引き継ぐ(所得税法60条1項)。相続税評価額ではない。取得費が不明な場合は売却代金の5%(概算取得費)によることができる。取得費加算の特例(租税特別措置法39条)は、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(=相続開始の翌日からおおむね3年10か月以内)の売却が対象。
  • NISAの非課税は所得税・住民税の制度であり、相続税は通常どおり課税される。被相続人のNISA資産を相続人のNISA口座へ移すことはできず、相続人の課税口座へ移管される。相続により払い出された上場株式等は相続開始日の終値相当額で取得したものとされるため、そこまでの値上がり分に相続人の譲渡所得税は生じない。死亡日以後に支払われる配当金・分配金は非課税の対象外。
  • 特別口座は、2009年1月の株券電子化の際に証券会社に預けられていなかった株式の受け皿として、発行会社が株主名簿管理人(信託銀行等)に開設した口座。売買はできず、売却には証券口座への振替が必要。相続手続きの窓口は株主名簿管理人であり、配当金計算書などの郵便物が発見の手がかりになる。
  • 単元未満株は市場で売買できない。会社法192条1項の買取請求により発行会社に買い取らせることができ、会社法194条の買増請求は定款に定めがある場合に限り利用できる。
  • 配当金は、①未受領の配当金(確定した金銭債権として相続財産) ②配当期待権(財産評価基本通達193により、予想配当額から源泉徴収されるべき所得税相当額を控除して評価) ③相続開始後に基準日が到来した配当(相続人の所得)に分けて考える。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。相続手続きの必要書類・様式・所要期間は、証券会社および信託銀行(株主名簿管理人)ごとに異なります。また、単元未満株の買増請求の可否は発行会社の定款によりますし、未受領配当金の請求期限の取り扱いも会社ごとに異なります。相続税の評価、換価分割時の譲渡所得の申告、取得費加算の特例の適用可否、準確定申告の要否は、いずれも個別の判定が必要です。必ず税理士にご確認ください。記載した通達番号・条文は執筆時点で確認したものですが、税制および法令は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際にお手続き・お申告をされる際は、必ずお取引先の金融機関、国税庁e-Gov法令検索金融庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、税理士・弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。本記事は特定の金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「証券会社から書類が届いたのですが」――ご相談ください

FREE CONSULTATION

財産の洗い出しから、証券会社ごとの必要書類の整理、分け方のご相談まで。
税理士・司法書士と連携し、漏れのない形で進めてまいります。